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17話 面接とラーメン

見つけて下さってありがとうございます。

予定通り本日分を投稿します。

第17話になります。突然ガブとある人物の大食い勝負が始まります。あんなにかっこいいセリフで去ったのにもうやってくるなんて。今回もテキストボリュームがいつもの倍で参ります。

 ずぞーっ!ずるる、ずーっ、はふ、はふっ!


 時刻は夕方5時を回る頃。

 ここは自警団の食堂…その奥の厨房。

 そこで旺盛な飯を…正確には麺を啜る音が聞こえる。


「お代わりっ!」

「こちらもお代わりで」


 瞬く間に丼一杯を食べきってお代わりを求める女性の声二つ。

 

 ガブとシスだ。


 今俺は突如始まってしまった二人のラーメン大食い対決に立ち会っている。

 

「はいよっ!」


 対する俺はぐつぐつお湯が煮えたぎる大鍋で麺を茹でる。しっかりと湯切り…醤油味のスープが満たされたラーメン丼へと麺の玉を投入する。二人同時のリリースだ。

 

「ずずーっ!焼き豚と合わせると美味しいね、コーンも嬉しいよっ!ずふーずずーっ!」


「普段食べるヌードルとは違う、パスタとも違う。こんな麺料理があろうとは。やはり君の飯は私の胃袋を捉えてくるな…つるるるるるるっ」


 やはりこの程度は簡単に平らげていくか。

 

 俺は滴る汗を拭う。彼女たちのペースに合わせて麺の玉をお湯に突っ込む。

 

 何故こんなことになっているのか?

 時間を昨日、勝負の後夜祭まで巻き戻そう。

 

 

◆◆◆◆◆



 勝負の終わった後夜祭、みんなでおでんを囲むテーブルでご近所さんたちから自警団の再編成をした方が良いとの話しが上がった。今回教会から強めに声をかけられたのも自警団が弱ってるから心配されたんだろうとの意見もある。

 

「なあガブちゃん、今自警団はタスク以外誰も居ないんだろ。改めてメンバー募集した方がいいんじゃあないか」


 ご意見はサンソン旦那さん。他にも多数のご近所さんが頷く。

 

「確かにそうしたいですけど、そんなすぐに集まるかなぁ?」


「何言ってんでえ、タスクやガブちゃんは超有名人になってるだろ、今やらずにいつやるよ、きっとわんさか来てくれるって!」


 どこかで聞いたことのあるようなセリフだが、尤もな話でもある。更に食堂をやるとなれば尚更人手は欲しい。

 

「一理あるかもな。今日の勝負で少しは名前が知られたのなら利用しない手はない。明日からでも募集をかけてみるか?」


「タスクさんがそう言うなら募集、やってみようかな」


「あんたら自覚足りねえよ…神の使徒とか盗賊から街救った英雄とか、どんだけ有名になったと思ってんだか…」

 

 がくりと肩を落とすサンソン旦那さん。

 何人か後ろではウンウン頷いてるし。

 

 俺たちが有名かどうかはさておき、人を集めるきっかけになればいい。俺とガブは早速翌日から自警団募集の張り紙を自警団事務所前に張り出してみることにした。

 

 張り出したその僅か数分後、募集に応じて尋ねてきたのは…。


「嘘だろ、今募集貼ったばっかだぞ」


「偶然目に止まっただけだ」


「また会おうとかかっこいいこと言ってたのにすぐ翌日に会うなんて…」


「コネや縁は太くて暖かいうちに使うべきだろう?」


 相変わらずの猫耳フード…前髪に隠れた目で表情は読み取りにくい。

 

 シス。

 まさかこいつが応募してくるなんて。

 もしかして見張られてたなんて事ないよな。


 俺とガブは状況がよく分からないとばかりに互いに顔を見合わせる。

 

「戸惑っているところすまないが、サクサク面接をしてもらいたい」


「あ、ああ…ガブ、いいな?」


「う、うっ、うん、どうぞこちらへ…」


 あまりに予想外の応募者…シスの扱いに迷いながら食堂のテーブルで面接をすることに決め、茶を啜りながらゆっくりと話すことにした。

 

「ええーと、まずシスさんのプロフィールから聞いてもいい?」


 ガブがまず当たり障りのない所から聞く。

 

「わかった。私はシス。女、年齢は46億7千万とんで17さ…」


「待て待て待て」


 俺はぶっ飛んだ年齢にストップを出した。

 地球か?星の年齢か?

 もう人間じゃないのは間違いない。

 

 ガブが目を剥いて止まってる。

 

「なんだ?この募集に年齢制限は無いと書いてあったのだが」


「それにしたって長生き過ぎるだろ、人間のレベルをとっくに超えてるぞっ」


「ああ種族を気にしているのか?私は始祖神グノーシスだ。今でこそ落ちぶれているが神をやめたつもりはないので」


 ガブが俺をつつく。俺の関係者かと目が言っている。俺は三女神以外の神様は知らない、勿論こんなやつは聞いたこともない。全力で首を横に振る。ゲームにもシスとかグノーシスなんてキャラは居なかったし。

 

「その神様が何で自警団に就職活動を?」


「話せば長くなる。あれはこの世界が創成されてから一万年後の…」


「すんません手短に」

 

「仕方ないな。異世界視察に出たら事故で神力を失ってそのまま遭難、数千年ほどこの世界を彷徨い、生活の為に仕事を探しながら各地を転々としていた」


「………」


「……タイムアウトお願いします」


 随分壮大な話に二度目のストップをかけた。


「いいだろう」


 どっちが面接官か分からなくなってきた。

 

 どうにも話しがデカすぎて前提がおかしい。

 志望動機を聞き出したいのに遠すぎてそこまで近づけないぞ。ガブ気絶しそう、斜め傾いてる。


「も、もう少しミクロな話にできます?」


「ふむ。永らく彷徨って教会絡みの仕事を請け負っては神力をじりじり回復させていた。教会は僅かだが神力が存在する場所でね。ところが昨日の大食い選手代行を受けた所、神力を大幅に回復できた上に久方ぶりに神格までアップした。お陰で神として十二分に動ける状態にまで復帰したよ」


「昨日の話!やっぱり俺の飯のせいなのか…」


 ガブは完全に気絶、停止した。シスの事は大食いライバルとして落とし所を見つけていたのにここで神様とはっきり言われてしまい愕然としたらしい。びんぞこ眼鏡が真っ白に曇ってる。俺は口から魂を抜けさせている彼女をゆすって気付けしながら更に突っ込んだ。

 

「で、神に戻ったならさっさと故郷にでも帰ればいいじゃないか。雰囲気的にこの世界の神様じゃないんだろ?」

 

「そうもいかなくてな。まだ仕事が残ってる。確かに私はこの世界の神ではないが無関係では無いんだ。三女神に聞いていないか、上位神がいるって」


「げげ、世界の管理に失敗したら資格停止の上に存在抹消とかするって言ってたアレか」


「そうそれ。しかし君のおでんが無ければ今も私はこの世界で彷徨い続けていただろう。私は君と『推し』の彼女に恩を返しておきたい。それまではこの世界をどうこうしないと誓おう」


 俺は『推し』と言われてギョっとした。今の話をガブに聞かれなかったろうか?顔を覗き込むと幸いガブは神様トークのせいで意識が飛んでいるようだ、セーフ。膝枕で解放しつつシスに返答する。

 

「シス、あんたが上位神だと理解はしたよ。多分三女神が知ってる事は大体わかるんだろ?俺の異世界転移や『推し』の話は他言無用で頼むよ、ややこしくなる」


 シスは椅子から立ちあがると前のめりにこちらへと顔を寄せた。こいつ笑ってやがる。前髪がちらりと割れてルビーのように赤い瞳に見据えられた。

 

「君に迷惑になるようなことをするわけがないだろう、だが気をつけるとしよう。私はガブリエラと君に非常に興味がある」


「それが志望動機か」


「それもあるが君に胃袋を掴まれた。責任取ってくれ」

 

 ぽんと自分の腹を叩くシス。

 がっくりと項垂れる俺。

 お前もなのか、お前もっ!この世界は食べキャラばっかなのか!

 

「…わかった、恩を返してくれると言うなら自警団できちんと働いてくれるんだろ?悪い動機じゃないしな」


「無論だ。ただし君の飯は食べさせてもらいたい、それとちゃんとした寝床も欲しい」


「そこはきちんと団長代理の承認を得ないとな。おーいガブ、起きてくれ。シスが本気でうちに就職したいそうだぞ。団長代理の判断を頼む」


 膝の上のガブの頬をぺちぺちはたく。

 ううんと膝で寝返りを打つガブ、眼鏡がずれるずれる。


「あ、わっ!膝枕…/////、ごめんタスクさんっ。ん、んっ、シスさん…うち貧乏だからご飯と宿泊くらいしか出せないけど住み込みで働いて貰うこと出来ますか?」


「ああぜひ働かせてくれ」

 

「じゃあ…ひとつだけ試験を受けてもらいます」


「ガブ?」

 

 俺は意外なガブの言葉に眉を顰めた。

 俺の時はすんなり入団を認めたのに何故?

 

「何となく聞こえたけど志望動機が胃袋掴んだとか聞き捨てならないよっ。私と勝負して下さい!」


「お前聞いてたのか?」

 

「聞こえてたよぅ、それよりもタスクさん、なんか喜んでなかった?」

 

 逆だ逆、勘弁してくれって困ってたって。

 それよりもっと聞き捨てならないぞ、こいつ勝負って言わなかったか?!

 

「面白い、勝負というと大食いだな?」


 げっ、やっぱり!

 シスもその気になってるし。


「勿論!タスクさん協力お願いだよっ、熱々のお料理を晩ごはんに作って、たくさん!」

 

「はあああ…。わかった、要はさ、お前シスと再戦したいんだろ?」


 腕組みしてガブを見据える。昨日の勝負は俺からの頼み事だった。ガブの頼みを聞かないわけにはいかない。しかし本音は確認しておかないと。

 

「そうだよぅ!まさかこんなに早くもう一度勝負する機会がくるなんて思って無かったけど…どうしてもやりたいの」


「シスもいいのか。就職活動にかこつけて勝負挑まれてるんだ、辞退できる立場にあると思うんだが」


「また君の飯を食べられるのだろう?いい事づくめではないか。しかも私のリベンジマッチになる」

 

 あちゃーこっちもやる気満々か…。

 シスはガブを見据えて宣言する。

 

「先に言っておこう。私の大食いは神としての権能は一切使っていない。まさしく身一つの挑戦だ」


「神様に戻れたのおでん食べた後なんでしょう、解ってますっ。ガチンコ勝負しましょうっ!」


 仕方あるまい。俺も乗ろう、この大勝負に。

 ならば今回は二人とも食べたことのない熱々料理がいいだろう。アレだ、アレをやろう。

 

 ラーメン。

 家でも簡単に作れる醤油ラーメン。

 

 俺はネットショップの画面を呼び出す。

 

 スープは業務用のでっかい缶入りを使う、俺はプロじゃない、ダシとか灰汁取りとかそんなのやってる時間もないしな。こいつは十倍希釈という簡単さで家でも本格醤油ラーメンスープが作れる。

 

 トッピングはシンプルに刻みネギ、なると、コーン、焼き豚。味変は胡椒のみだ。

 

 麺は俺がよく使ってた生の細麺だ。こいつら相手に一体何玉使うことになるんだろうなあ…とりあえず60玉用意しておこう。予想では制限時間60分で20杯が限界と見てる、さて異世界の彼女たちはそのボーダーを超えてくるのかどうか…?

 

 何だかテレビでやってる大食い女王選手権の決勝戦みたいになってきた…ちょっと緊張する。


 午後いっぱいの時間を使って俺はラーメンの準備を整えた。

 ガブとシスはその間、なにやら談義を繰り広げていたようだが何の話をしていたのやら。


 夕方5時になる頃、二人を厨房へと呼んだ。

 

「おおっ!スープ?ううん、麺、だねこれ!」


「これは芳しい。おでんの時とはまた違うダシの香りがする」


「醤油ラーメンだ。時間は60分。食べるルールはこうだ。トッピングの具とメインの麺を食べ切ったらお代わりと呼んでくれ。そうすれば具と麺をその丼に追加する。スープは温くなったり追加が欲しい時は新しい丼で出そう。これでどうだ?」

 

 湯気上がる醤油ラーメンの前に二人を座らせる。

 胡椒を添えて箸、フォークを置く。予備の食器も置いてある。

 水は自由に飲めるようにした。


「意義なしだよぅ」


「問題ない、もしあれば適宜調整してくれればいい」


「よし。じゃあ始めるぞ?さん、に、いち、スタートっ!」



◆◆◆◆◆



 そして今に至るというわけだ。

 二人は食べ方自体は違えどもペースは互角だ。

 

 ガブは熱々のラーメンをものともせず食べ進めていく。何と二丁食いをラーメンでかましている。両手フォークで片方冷まし片方食べる技だ。器用なものだな、ずるずる勢いよく啜り、焼き豚やなるとを間に挟みつつガンガン食べていく。おでんの教訓からしっかりと学んだらしいな。

 

 シスはおでん同様静かにつるつると一定の速さで啜っていく。ガブとの違いはトッピングを最後に残しておきまとめて食べるくらいだろうか。やはり熱さに強いのか速い。音はあまり立てないが啜り込む速さは尋常じゃない。やはりこいつも天性の大食いなのか。


 美味しそうに食べているのはどちらも同じだ。

 一杯3分程度の速さ、恐るべきペースだ。

 ぼーっとしてると麺を茹でるのが追いつかない、急がねば。緊張感がヤバヤバだ。


「シスさんっ、私負けませんよ!ずずーっ!」


 珍しく牽制するガブ。とても楽しそうだ。

 

「ふっ、私も負けるつもりはないね。こんな美味い飯なんだ、トコトン行かせてもらおう!つるるるるるるる…」


 余裕のシス、やはり笑っている。


 時間はとっくに30分を過ぎた。

 二人のペースは落ちることなく続いている。

 両者とも11杯、優等生なくらい予想通りのペースだ。

 

「やるな…全くペースが落ちないとはな…」


 俺がお代わりのそれぞれ13杯目を出した時だ。ガブは何を思ったのか、なるとを二本のフォークに刺すとびんぞこ眼鏡の前に翳してシスに見せた。


「めーがね♪」

 

「ぶふっ!」


 おそらくびんぞこ眼鏡を模したなるとだったのだろう、古典的だがシスには効いたらしく吹き出していた。何が起きたのか、食べるのを止めたシスとガブが見合う。

 

「おい?どうした?」

 

「「ぷっ」」


「え?ええ?なんだ?」


「あは、あはははははっ!」

「ふふ、ふふふふ…」


 ガブとシスはひとしきり笑ってから互いに見つめ合い…シスが問うた。

 

「これが試験だったのか?」


「はい、その通りっ!」


「どういうことだ?」


 俺はガブに尋ねた。ぺろっと舌を出してガブが笑う。俺とシスにごめんねと謝って…。

 

「ううん、あのね、一緒に仕事するわけでしょ?一緒にご飯を食べて楽しい人かなって試したかったの」


「全く理由をつけるのがいちいち遠回しだな、つるるる…確かに楽しいものだな」


「なんだ、勝負しようってのもフェイクだったのか、やられたな」

 

 俺は頭に手を当てて苦笑した。

 さっきまでの緊迫した雰囲気から一転和やかになる。

 

「ごめんね。ありがとタスクさん、すっごい美味しいラーメン!もっと食べてもいい?」


「もちろんだぞ。シスも食べるだろう?」


「言うまでもない、大盛りを頼めるか」

 

「わかった、ガブとシス大盛りな。チャーシューメンてのやってやるよ」


 俺はダブル玉にして丼に焼き豚を敷き詰めたラーメンを出してやると俺も自分の分を作って食べ始めた。うん、やっぱここのスープいけるな。

 

「「おおおおおおおお!」」


 特盛チャーシューメンに感動する二人。

 さっきまで大切そうにちまちま喰いしていたチャーシューを思いっきりガツガツ食べ始めて思わず笑ってしまう。

 

「じゃあ、シスは採用だな」


「勿論!よろしく、シスさん」


「シスでいい。こちらこそ宜しく頼む。そうだ聞いてるぞ、食堂をやるんだろう?ぜひ手伝わせて貰おうと思っていたんだ」


「早いな、まだ何にも準備できてなくて。もう少し団員を集められたら進めたいと思ってる」


「だから明日からは団員集めだよ、シスにも手伝ってもらうからね」


 ガブが拳を突き出す。シス、俺が拳を重ね、とんとんと叩き合う。みんなニンマリ笑うとまたラーメンを啜り始めたのだった。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

シスは何だか気に入ってましてレギュラー入りしてしまいました。おかしいなあ、三女神がそのポジションになるはずだったのに。

次回は11/11の20時更新の見通しです。

どうぞよろしくお願いいたします。


いつも読了、ご評価、ブックマークをありがとうございます。とても励みになっています。

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