15話 教会と大食い勝負
見つけて下さってありがとうございます。
今回も少し早めの本日分を投稿します。
第15話になります。押しかけてきた教会を諦めさせるために大食い勝負を仕掛けるタスクとガブ。果たしてうまくいきますやら。
「お迎えにあがりました、使徒様」
「俺が使徒ですって?何のことですか、俺はごく普通の一般人ですが…」
なんて人数だ、一つの教会あたり10人近くきてるんじゃないか。聖職者のせいか威圧感は少ないが、食堂での場違い感はものすごいものがある。
「いいえ、いいえ。あなた様は間違いなく御使徒様。既にお調べしてございます」
なんでも『白菜の召し物を携し者、我が使徒』とのお告げを教会で寝泊まりしていたすべてのものが夢見に見たと言う。おまけに白菜の豚汁やお好み焼きがビジュアルに表れたそうで。おーい、なんだそのどストレートで速攻特定されそうなお告げは。
何十年ぶりかのお告げの上、大量の信徒が夢に見たと噂になりどの教会も上へ下への大騒ぎ、白菜をキーワードに街中を探った所、俺の白菜料理お裾分けイベントにあっさりと行き着いたそうだ。
「失礼ながら密偵を使ってお調べしました。お料理を今朝もお造りになっていらっしゃる」
密偵が昨日カレー作りをする俺を確認、使徒に間違いないと判断した今朝になって三教会の司祭やシスターたちがやってきたというわけだ。
各々の女神たちのイメージに似た装束の司祭とシスターたち。タウト教とサルティコ教は聖職者っぽいがスクルド教は厳つい戦士にしか見えないな。何しろ元は赤いビキニアーマーだからな…。
「さあ、こんなところに御使徒様を放っておくわけには参りますまい、是非我がタウト教会で手厚く丁重にあなた様を保護させて下さいませんか」
「これは聞き捨て成りませんな、御使徒様を迎えるのはサルティコ教会以外にはありませぬ。タウト教会の狭い建屋にお連れするなどとんでもございません、ささどうぞ広い我が教会へ」
「何を抜かすか!ご使徒様をお守りする力も無い教会どもに任せるわけにはいかぬ!保護には確固たる安全安心な場所が必要、神兵で守られた我がスクルド教会こそ御使徒様を迎えるに相応しい!」
あちゃーどうしよ、そもそも俺は教会なんぞに行きたくないんだよな。女神たちは一体何をしたくてお告げなんかしたんだろう。今から聞くわけにもいかないし。揉めたままどれかの陣営に連れて行かれてもトラブルありまくりだな…。
どうやって諦めてもらおうか?
すると2階からガブが降りてきた。
「おはよーって、ナニコレ?!なんかたくさん人の声が聞こえるなあって思ったら」
「おう、おはようガブ。街の教会から司祭さんたちが来ちゃってな…俺は女神の使徒だから保護するって」
「えーっ?!ちょ、ちょっと待って!うちの団員に勝手に手を出さないで下さいっ、お触り禁止ですよっ」
慌ててガブが俺と教会関係者の間に割って入る。ん?ガブ…そうか、ガブだ!彼女の協力があればこいつらを上手く諦めさせる事ができるんじゃないか。
「ガブ、ちょっと耳貸してくれ」
「え、何」
「良いから良いから。ガブの力を借りたいんだ」
俺はガブに教会に諦めてもらうための案を説明した。ふんふんと話を聞くガブの顔がみるみる嬉しそうな笑顔になっていく。
「うん!それいいよっ!やる!やる!」
「よし、彼らに掛け合ってみよう」
俺は司祭たちに向き直りこほんと咳払いした。
芝居がかった口調で始めてやる。
「ええと…皆聞け!私は確かに三女神から加護を受けし使徒である。皆私を迎え入れる為に熱心になってくれるのはありがたいが、このままではどこも収まりがつきそうにない。そこで一つ提案をしたい!」
「おお、御使徒様、なんなりと」
「何と有難いお言葉、是非お聞きしたい」
「どのようなお話でございますか」
俺は腕組みして静かに溜めをおいてから語りはじめた。
「皆で勝負をさせたい。私が身を置く先が私を保護するに相応しいかを見せてくれ。私が作る料理を最もたくさん食べられる者の元へ行きたいのだ」
「おお…神の召し物を頂けるとは…!」
「やりましょう、我が教会で食に最も優れた者を選出します」
「ふっ、なんと容易い勝負か…御使徒様はスクルド教に寛容であられるらしい」
どうやら受け入れてくれるようだな。しかしこれには俺の考えがある。少なくともこの街の界隈ならば大食いでガブに勝てる奴など居ない。ふふふ、もう今の時点で勝ちは確定なのだ。俺は笑いを噛み殺しながら話を進めていく。
勝負は教会サイドの申し入れで準備期間を兼ねて三日後。世間的にも周知させたいとの目的で大々的に宣伝することになった。
勝負の場所は教会が街議会に掛け合い議会前の遺跡の公園。奇しくもガブが過去にリタイアしたあの大食い大会の場所である。
「ガブ、悪いが公平を期す為に何を競技で食べるかは教えられない、そこは理解してくれ」
「わかってるよぅ、それよりも今から楽しみだよ。きっと私の知らない料理を作るんでしょ!うひひひひ、嬉しいーっ!」
俺はガブに全幅の信頼を置いている。彼女は何を出したってぺろりと平らげてくれるだろう。
大会までの間、女神たちの意図を確かめようと何度も話しかけてみたがうんともすんとも答えがなかった。あちらで何かトラブルでも起きているのだろうか…?
◆◆◆◆◆
三日後。
勝負の会場には四名の参加者が集った。
どうやら各々の教会は大食いで名のある人間を雇ったらしい。
自警団からガブ。
言わずもがなの最強大食い女王様だ。
今日も食い気は完璧、コンディションは最高だ。
「いえーい、今日はがんばるよっ!」
対する陣営の様子を見てみよう。
サルティコ教会からフードファイターグルマン。
ガブとグルマンは因縁の相手同士である。
彼は前回の大食い大会の飯の食い方に問題がありこの街の催し物へは出禁になっていた。しかし今回はタウト教会の計らいで出禁が解除になり、彼はガブへのリベンジ戦の機会を得た事になる。
「はっはー!ガブリエラ!貴様とは真の決着をつけたかったのだ!まさかこのような戦いのチャンスが巡ってこようとはな」
「いーだ」
あーそうだ、ガブはこいつの食い方が嫌いだったな…。
タウト教会からキー=レジャイル。
おいおい、そんなのありか。確かにこいつは信者だけどさあ。味変は自由とは言ってあるが…キーは辛ささえあればそのポテンシャルは計り知れない。あのカレー粉の缶を携えての出場だ。
「私にはカレーがある!これさえあればいくらでも食べられるぞ!」
料理が甘いものとかだったらどうするつもりなんだろう。
スクルド教会から謎のフードファイター。名前をシスと言う。この人間については全くわからない。金髪長身のスラリとした女性ファイターなのだが目が隠れるほど伸びた前髪のせいで表情が読みとりにくい。真っ白の猫耳フードをつけているのはふざけてるのかキャラを作ってるのか…?
ゲーム中にこんな奴はいなかったはず。未知数なところが少し不気味ではある。何故か彼女は俺に握手を求めてきた。
「今日は美味い料理がたらふく食えると聞いてやってきた。どうぞよろしくお願いする」
「…ああ、楽しんでもらえると嬉しい」
妙に落ち着いた様子だが…しかし。
俺はガブの勝利を確信していた。
あの強さに勝てる人間などいないはずだ。
勝負は単純。
60分間に一番たくさん食べた人の勝ち。
料理は…おでんだ!
ちょうど今日は曇り空でやや肌寒い風が吹いている。天気のコンディションは最適だろう。
味変オーケー、一応デフォで辛子や甘味噌、柚子胡椒は備え付けてある。
具はだいこん、ゆで卵、こんにゃく、すじ肉、ちくわの五種類。この五種がスープ皿に盛り付けてある。準備に一日近くかかったが教会関係者の協力もあり、大量のおでんが準備できた。具の下処理が大変だったがみんな献身的に手伝ってくれて本当に助かった。
特にすじ肉の下茹では二回やっている。アク取りと丁寧な水洗いが肝だ。手伝いのシスターたちはすじ肉なんてと最初は引いていたが、下処理をきちんとしたすじ肉を試食して驚いていたな。柔らかで美味しいと。これを特製のだし汁で煮込むのだからさらに旨くなる。
今回スープ皿を選んだのも理由がある。熱々のだし汁に浸した出来立てを提供したかったからだ。ただし食べるのは具のみでだし汁は飲まなくて良い。好きなやつはごくごく飲んじまうだろうけどな。
「俺もおでんを食べたかった!段々寒くなってきたからな。今回のおでんは…関西風の甘辛のだし汁だぞ、ご飯にも合うやつだ!」
さあ、ガブ!
おでんをたんと食べてお前の強さを教会のやつらに見せつけてやれ。ガブの勝利を確信して俺は自信たっぷりだった。
調理は既に終わり審査員席に俺は座っていた。
給仕は担当者たちに任せてある。
おでんは四人がどれほど食おうとも大丈夫な量を用意してある。過去の収穫祭の大会同様、観戦者にも振る舞える程の量だ。
「しかし観戦者が多いな…どんだけ宣伝したんだか」
恐らく街を上げての大食い勝負になってしまったのだろう。
ご近所さんたちをはじめとして大勢が公園に集まり、ガブたちファイターが座る舞台上の席を固唾を飲んで見つめていた。色んな屋台まででてあちこちが大賑わいだ。俺は舞台袖に近い各代表者の席から少し離れた審査員席に座っていた。
「へへーん!私頑張るよっ!」
どうやらガブは絶好調のようだ、いいぞいいぞう、あとは任せたからな!
俺はガブに目線を送った。ガブもまた目を合わせ、うんと力強く頷く。やがて料理が運ばれ試合開始目前となった。もちろんファイターたちにとって初めて料理と対面だ。司会からルール説明がされた。さあ、みんなしっかり食ってくれよ。
カーンッ!
開始の鐘が鳴り試合は始まった!
四人のファイターが一斉におでんにかぶりつく。
皆が美味い!と表情で伝えてくる。
手応えを感じた俺は思わずよしっとガッツポーズをとった。だが…一人だけ手が止まっているファイターがいる事に気づいた。
ガブだ。ガブの手が止まっている。
呆然としたその表情…
何が起こったというんだ…?
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
次回は11/4の20時更新の見通しです。
次回もよろしくお願いいたします。
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