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12話番外編 盗賊の話とカレーパウダー缶

見つけて頂いてありがとうございます。

今回は番外編です。

前回の12話で語れなかった盗賊達のお話が中心です。

キーが辛いの大好きなのもちょっと話してます。

 これはキーが俺に語った盗賊団の事情聴取の話。

 

 どんな実態だったのか知っておきたくてカレーを煮込む間にキーに聞かせてもらったんだが…あまりに酷くてガブたちには聞かせられない内容だ。やつらはガブやご近所さんたちにどれだけコテンパにされたか、俺は生々しい真実を知る事となった。

 

 



〜キーの語った盗賊団の取り調べの様子〜


《強盗団手下その1の供述》


「東の街の警察は大した事なかった、てんで力は無いし簡単にだし抜けた。え、お前らがそうなのか?一人をひねれば他の奴らは怖がって近づいてこねーし、よえーなお前ら。この仕事は楽だ、そう思ってたのにくそっ!大将が街の西側までやっちまおうって欲をかいたのが不味かったんでえ」


「西側の街のやつら一般人のくせして強すぎだろ、あっちゅうまにリーダーがボコられて慌てたサブリーダーも変な眼鏡相手に手間取ってよ…まるで子供扱いだった…あんなの見た事ねえ」


「それによ、何だあのガキどもは!人質に取ろうとしたらよ、泥団子を投げつけられて仲間が次々ぶっ倒されたんだ!レベル28の俺がだぞ?えいえいとか可愛らしい声で投げる玉っころが金属の兜や鎧をべっこべこにしていくんだぜ、見ろよこの脇腹、青痣が酷えだろ。ガキの投げた棒切れが鎧を貫通して内側の鎖帷子でギリ止まってたんだ。下手すりゃおりゃあ死んでたんだぞ。ガキこええ…こええよ…」


《強盗団手下その2の供述》


「弓が届かねえんだ…警察隊供の足を何度も止めた弓師…俺はレベル35のベテランだ、あんなことありえねえ。射っても射っても矢が届きゃしねえんだ…あれは何かの間違いだ、街の女どもがシーツ仰いで起こした風で射った矢を吹き飛ばすなんざ、俺は夢でも見てたのか」


「おまけに背後から「こりゃあ!」とか突然爺婆が叫んだかと思ったら耳鳴りでおかしくなっちまって体が痺れて動けねえ。何もできねえ俺らは街の男どもにボコられて、挙句縛り上げよ。今も耳がおかしくてあんたらの声が所々はっきり聞こえねえんだ…。もういやだ、こんな人外の住む街なんかに来たのが運の尽きだったんだあ……!」


《強盗団サブリーダーの供述》


「あの奇妙な眼鏡の娘は何者だったのだ。相手は素手だった。彼女は付かず離れず私の背後をずっと取り続けた。私が剣を振るえば切っ先はおろか、太刀風すら届かず、離れようとすれば吐息が掛かるほど間近まで忍び寄る。掴みどころのない奥深さと決して諦めぬ執念深さに恐怖すら感じた。レベル50魔剣士であるこの私がだ…私の秘剣・殺戮演舞が全く効かなかった…。「いい加減降参して下さい」などと耳元で囁かれ私は気が狂いそうになった。彼女は自分がレベル3と言っていたが謙遜にも程があろう」


「…私などまだまだ未熟であった…。私はカシラの強さに惚れ込み10年間副長を務めてきた。人に後ろ指を刺されても強ささえ手に入れれば我が人生に悔いなしと思い帝国軍の幹部の道すら捨てて今日まで生きてきた。これは自らの剣に溺れた私の過ちだ。これまでの全ての罪を洗いざらい話す。だから私の願いを一つ聞いてはもらえないだろうか。あの眼鏡の娘に託したいものがあるのだ…」


《強盗団リーダーの供述》


「ひっ!眼鏡!めがねくるなめがねくるくるくるあるあらああひあっ!ぐぎゃらぁああああ!」


「なんだこいつ、突然私の顔を見て暴れ出して…?!」


「おい!交代の時にきちんと話を引き継いでいないのか!取調官は眼鏡を外してこいって。この男はな、眼鏡を見ると途端に怯えてしまって会話にならないんだ。想定レベル90超えの荒くれ男がここまで怯えるなんて一体何があったんだ…?」


「見かけたら戦わず逃げろとまで言われたこの荒くれ盗賊のカシラがなあ。俺はこいつと一度相手をしたことがあるがあっさり剣を折られて逃げまわるしかなかったのに…。本当にこいつはレベル90だったのか、それとも幻術使いだったのか、今となってはわからないことばかりだ…」


「めがねっ!びんっぞっ!!もうっ、まうう、こないでくれええぇ!っはぁぁあっ!!!」





「とまあそう言うわけでな、西側の自警団に新入りが入ったと聞いたから今回の一件でその新入りがかなり強いやつで盗賊達を蹴散らしたんじゃないかとか、色々想像していたんだ。所が君は寝込んで出動していなかったそうだし、結局真相は今もわからないままだ」


「な、なるほど…盗賊達はこれからどうなるんですかね?」


「しばらく調査をしてから監獄行きだな。この街にはあんなにたくさんの人間を長く勾留する施設はないから首都近くにある刑務所へ移送することになるだろう。余罪がかなりありそうだから、ヘタをすると一生出てこられないかもしれんな」


「………となるとこのイベントはもう発生しそうにないか」


「ん?なんか言ったか?」


「いえ、何も。それよりもほら、入れたカレールーが溶けましたよ。ちょっと味見してみますか」


「いいのかね?!したい、ぜひ味見をさせてくれ!」


 俺は小皿にひとすくい、じゃがいもと肉を含んだカレーを盛り、スプーンと共にキーは差し出した。


「おお、おお!これは…!なんとも芳しい、久方ぶりすぎて涙がでそうだよ!ん、ん、ぱく…お、お、おおおおおお!美味い……!そうだ、この味、この辛さだ!」


「どうですか?キーさんはカレーの本場の方のようですから、辛さが足りないかもと思ってるんですが」


「何年かぶりだからな、今はこれくらいでちょうどいい。しかし君のその言い方だとまだ辛くできるのかね?」


「ええ、俺はこれを使おうかと」


 俺は赤いカレーパウダーの缶を取り出してみせた。こいつをスプーンひと匙かければ程良い絡みが追加される、もう少し辛さが欲しい時にかけるんだ。


「ほう?試してもいいかね?」


「どうぞ。結構効きますから最初は少しずつで」 


「うん、これくらいか…ぱく、ん!ん!!!ほおおおおおおおおおっ!!!」


 キーがかけすぎたのか、辛さでつま先立ちになって震えている横で俺は今回の盗賊イベントについて思い出していた。

 

 キーも、ガブ達も知らないよな。あの盗賊団が実際はどれだけ強かったかなんて。


 あれは極低確率で発生するレアイベントの一つだ。レベル1で当たり前の初期の街で最大レベル100のボスなんて気の狂った強さで出現し、戦闘は強制敗北、その後は会話イベントと探索パートが入り、選択肢次第で強盗団の根城を突き止めてレアアイテムをゲットするストーリーになっていた。かなり長期間最初の街にいると発生するアイテムゲットチャンスのお助けイベントだったらしい。

 

 俺はこの街で半年の間ガブ達を育成して、二回このイベントに出くわしている。とにかく敵のレベルが高く慌てた印象が強い。幸い俺はガブ達をレベル200以上上げていたおかげで勝てはしたが…。もらったアイテムはなんだったかな、ドラゴンナックルだったか。多分サブリーダーが渡したいって言ってるのはそれだろうな。

 

 敵のレベルを遥かに超えたガブたちが盗賊を相手にしたんだ。レベル30台の盗賊なんて軽く一捻りだろう。しかもガブは今レベル300だろ、ボスがイベントレベル上限の100であっても欠伸してても勝てる。そりゃあ盗賊団の奴らは圧倒的なレベル差に錯乱しちまうだろうな…。

 

 今目の前のカレー舐めてるキレンジャーもといキー=レジャイルのやつも味見しながらぐんぐんレベルアップしてる気がする…また一人、人外魔境が育ってしまうのか…。

 

「味見、お代わりしていいかな?次は辛味を二倍にしてみたい!」


 さっき辛すぎて飛び上がってなかったか?この人、普段どのくらい食うのか知らないが、カレーに関してはかなり食べるかもしれない。お手柔らかに頼みますと願いつつ、俺はカレーをよそってキーに渡した。ちょうどガブ達もやってきた。

 

「あー!キーさんずるーい、先に食べてる!」


「いやっ、これは味見でだな…」

 

 

 この日のキーとの別れ際、かなり熱烈で執拗にカレーパウダーの缶をねだられる羽目になろうとは予想だにしていなかった俺だった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

今回は突発で更新しました。

次回は予定通り10/25の20時頃に更新する見通しです。


いつも読んでくださって本当に感謝しています。

私の頭の中にしかなかった物語がたくさんの人に見てもらえてる、共有してもらえている事がとても嬉しいです。


これからもゆっくりのんびりと楽しんで頂けたら幸いです。

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