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12話 キレンジャーと宗教

見つけて下さってありがとうございます。

本日分を投稿します。

第12話になります。今回もカレー作りです。カレー好きな人が登場してちょいと騒がしいです。名前が…。

 ジュワジュワと油の跳ねる音が鍋底から響いてくる。いつも使う家庭用の鍋と違い団体用の寸胴鍋の底からの音は深く籠ったような音がする。寸胴鍋の中をしゃもじ(と言っていいのか知らないがとにかく業務用の両手で握るサイズのしゃもじだ)でゆっくり目に角切り肉を焼き転がす。

 

「にいちゃん、どう?焼けてんの?すげーいい匂いだぞ、たまんねえよう」


 マルコが涎を垂らしながら俺の手元を凝視する。続く三人の視線も強烈であまりの目力に俺の手に穴が開きそうだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってろ、もうすぐ焼き上がる。味見させてやるからさ」


「「「「おおおおおおおーーっ!」」」」


 大歓声である。

 食堂内に子供達とガブの喜ぶ声が響き渡る。

 今回でいよいよ残りの豚肉をほぼ使い切った。かなりの量…2キロを焼いたからな。肉カレーになっちまいそうだ。

 

 お玉を使って焼き締めた豚肉を大皿に移す。ゴロゴロと無造作に皿の上に転がされる肉、肉。脂と湯気が舞い上がり観客達はその度におー、とか、うまそーとか歓声を上げる。

 

「ほい、一人三切れまでだ、塩欲しかったらこれ使ってくれ」


 小皿に小さく切り分けた角切り肉に爪楊枝を立ててた。肉のカケラは一番小さいマゼちゃんを意識しかなり小さく切っておいた。アジシオの小瓶を添えておく。

 

「いただきます!」

「いただきー!」

「わーい!」

「タスクさんありがとー、貰うね!」


 ほふほふ、はふはふと肉を頬張る吐息が聞こえてくる…次いで「美味しい!」と貰って俺はニカっと笑うと野菜を炒め始めた。

 

「さっくさくなのに中のお肉は柔らかいんだね、おいしいよタスクさん!これがもっと美味しくなるの?」


 目をキラキラモードにしたガブが頬っぺたに手を当てながら肉を味わう。はあんとため息をついてうっとりだ。

 

「ああ、豚の油で揚げ焼きになってるからな。この油で野菜を炒めると美味いんだぞ。後は水を足して煮込む、ここまでならシチューとやり方は同じだな。んで煮立ってきたらこいつを入れる」


 俺は箱から取り出したカレールーの塊を見せた。一見すると謎の茶色で平たい四角の物体にしか見えないだろうな。独特のスパイシーな香りがルーから漂っている。

 

「くんくん、すごい香辛料の匂い…この四角いのがスパイスの塊なのかな?私の知らない匂いだけど、何だかすごく美味しそう匂い…!」


「今はまだ塊だからな…これを煮溶かせば美味しいカレーにしあがるぞ」


 ガブは遠慮したが子供達が俺と交代で野菜を炒める作業を手伝ってくれた。重たいだろうにしゃもじでかき混ぜている様子はかなり楽しそうだ。野菜に十分な焼き目がつくと水をたっぷり入れて煮込み始めた。ここからしばらく放置だな。

 

「後は一時間ほど煮るんだ。みんなで窓口にいくか?ガブ、一応待機しておかないとまずいんだろ」


 ガブの話では一時的に活動停止が解除されていたはずだ。団員が二人しかいないとはいえ、誰が来てもいいように事務所を開いていないとまずいだろう。


「うん、多分キーさんが今日来るんじゃないかな、昨日のことで報告に来るって言ってたよ」


「頼もう!」


「……もう来ちゃったかも、はーいはいはい!」


 タイミングよく窓口の方から女性の声が聞こえてきた。慌ててすっ飛んでいくガブを追いかけてみんなで迎えに出ると黄色い皮鎧を着込んだ褐色肌の金髪美人がカウンター前に立っていた。腰にはレイピアを下げている。この人は確か…

 

「いらっしゃい、キーさん!」


 そうだ、この人がキー、キー=レジャイル。公営警察隊の二番隊隊長さんだ。テキストだけでなくバストショットのあるNPCだったからよく覚えている。


「ああ、昨夜は大変だったな。盗賊の捕縛に協力いただき感謝する。警戒態勢が解除になったからその報告にきた」


「キーさんもお疲れさまです。ちゃんと寝てます?ずっと働いているんじゃ」


「ああ、心配無用だ。私もこの報告が終わり次第直帰させてもらうつもりなんだ」


 俺は軽く会釈すると子供達を伴ってガブとキーから少し離れた。仕事の話をし始めそうだったからだ。二人はローカウンターに座り話し始めた。

 

「盗賊たちだが全員捕縛した。逃亡はゼロだ。今事情聴取をしていて、ねぐらや前科を調べているよ。それにどうやって我が警察隊をああも簡単に打ち負かせたかも吐かせている所だ」


「やっぱり幻術使いがいたんですか?」


「それがそのような使い手は見当たらなくてな…おまけに西地区で奴らが化け物に出会ったとかぬかして酷い供述ばかりで、どうにも錯乱している奴が多い。しばらく真相解明には時間がかかりそうだ」


「あの強い警察隊がやられたんですもんね、きっと何かありますよー?」


「恐らく、な…。後な、ガブリエラ、君に盗賊のサブリーダーが供述と引き換えに自分のお宝を君に託したいと言い出してな」


「なんで?!私泥棒の盗品なんて欲しくないですよ!」


 目を丸くしたガブがキーに身を乗り出す。要らないと手を必死で振ってアピールする。

 

「サブリーダーのやつは君の強さに感銘を受けているらしいんだ…やつは戦闘マニアだそうだが話を聞いてもよくわからないんだ。やつと戦って何か気づいたことはあるか?」


「うーん?そうですねえ、剣を何かの踊りみたいに振り回すくらいでどうって事はない相手でしたよ?レベル3の私でも簡単に相手ができましたし」


「謎だな…我々も奴の戯言に耳を貸すつもりはないが、一応そんな話があった事は覚えておいてくれ」


「はーい。あ、そうだ。キーさんはこれからもう帰られるんですよね。よかったらうちでご飯食べていきませんか?タスクさんのご飯とっても美味しいんですよ」


 俺は子供達の遊び相手になりつつ耳をそば立てて二人の会話を聞いていた。正直、冷や汗だらだらだ、今のガブやご近所さんならあの程度の盗賊など簡単に追い払える、何故なら俺の飯を食べて強くなってるわけだから。うーん、要らぬ混乱が生じている気がするぞ…。

 

「おお、彼が例の新人かな」


 俺は呼ばれた雰囲気を感じて立ち上がる。


「た、た、タスク=キミオです。この街に流れ着いて途方に暮れている所をガブリエラさんに助けられたんですよ。まだまだ昨日今日の新人です、どうぞ宜しくお願いします」


「助けられたのは私なのに、タスクさんたらもー」


「ふふ、微笑ましいな。こちらこそよろしくタスクくん。私は公営警察隊のキー=レジャイルだ。私の事はキーと呼んでほしい。ん…?この匂い…?」


 突如キーは立ち上がると俺の前までツカツカ歩いてきた。なんだ?俺何かやったか?がしっと両肩を掴まれさらに急接近、くんくん匂いを嗅がれてしまう。うわーなんだ、臭い?俺臭い?

 

「キーさんっ?!一体何を…」


 固まる俺を助けようとガブがキーに駆け寄る。そんなガブにはお構いなしでキーは俺の胸元や肩に顔を押し付けて匂いを嗅ぐ。やだ何この状況。子供達もポカーンとしてるぞ。かと思うとキーは顔を上げて鼻先が触れ合うほど顔を近づけ叫んだ。

 

「タスクくん!」


「は、はいっ?!」


「こっ、このっ、このスパイシーな香りはなんだ?!」


「へっ?あ、ああ、カレーの匂いですか?」


「カレー?!カレーがここにあるというのか!!なんてことか!夢にまで見たこの香り…スパイスたっぷりの刺激的な香り…おほおおおおおお…!」


 一人盛り上がるキーをよそに、俺とガブはアイコンタクトで何なのこの状況?…さあ、知らない…みたいなやりとりをしつつ困惑した顔を見合わせるしかなかった。





 俺はガブ達には窓口の留守番をお願いし、火の加減を見るため厨房へと戻った。勿論キーがくっついてきた。煮込み中の鍋と共にバラしたカレールーをキーに見せた。

 

「多分キーさんが気になってるのはこれかな?これはカレー粉とかカレールーっていいます」


「おおっ!こ、この香りだ!ああ…なんて懐かしい香りなんだろう。本来なら三つ四つのスパイスを混ぜて作るんだが、これはそれが全て練り合わさっているように見えるな」


「そう言えばそうですね、故郷では好きな人は本当に何種類かのスパイスを混ぜて作ってましたよ。俺はこのカレールーで簡単に作ります。ほら、もう肉と野菜は煮えてるんですよ」


 俺は寸胴鍋をキーに見せた。煮立つ鍋を見せられておおっと声を上げる彼女はもう居てもたっても居られないらしい。オリエンタルな雰囲気の美人さんが子供みたいになってら。

 

「ああ、わかる、わかるぞ、ここにそのスパイスを入れて完成なんだろう?まさかここでカレーを食べられるとはな…」


「ま、見ててくださいね」


 カレールーを砕いてお玉に乗せると煮汁に浸す。流石に量が量だけに何度も繰り返す羽目になるが…しっかり溶かさないと後でじゃがいもかと思ったらルーの塊に対面しちまうからなあ、きっちりせっせとかき混ぜる。厨房から食堂へとあのカレーの香りが漂い始めると、誘われるようにガブと子供達が入ってきた。最初から居るキーに至っては目を閉じて口を半開きにして呆けた顔をしている。

 

「キーさんはカレーライスのこと知ってたんですね」


「ああ、この国にはカレーはおろかスパイシーな料理は皆無だからな…国を離れて何年振りだろうか、カレーを食べられるとはなあ、生きててよかった…!」


「こんなはしゃいだキーさん初めて見ましたよ」


「なっ!ガブ、私とてお前と変わらんよ、好物を前にしたらキー隊長ではなくただのキーになるのだ、ああ、もう辛抱堪らないな」


 俺はカレーを混ぜていよいよ完成前に、ふと思い出した。このカレーに使っている肉、豚肉なんだが…キーさん食べても大丈夫だろうか。所謂宗教上の何とやら、確認しておかないと。

 

「キーさん、ちょっと聞いておきたいんですけど」


「うん?何でも聞いてくれ、今ならスリーサイズでも答えられる気分だ」


 上機嫌のキーが冗談をぶちかます。うわあと少し引き気味のガブが漏らす。


「キーさん…それはちょっと」


「いやっ、聞いてみたいけど、いや、いやガブ違う違う。キーさん、豚肉大丈夫です?信じてる神様の関係で食べられないとかありません?」


「何!豚肉だと!それはまずいな……」


 やはりだめだったか…?となるとここまで作っておいてキーさんお預けはかなりきつかろう、すぐ新しいのを用意…

 

「………だいっ好物すぎる、ますます辛抱堪らないではないか!」


 拳を握りしめて叫ぶキー。ガクっと俺とガブは項垂れる。なんだよー、思わせぶりな。

 

「タスクさんどうしよう…私の知ってるキーさんじゃなくなってるう……」


「何を言うガブリエラ、私はいつも通りだ。カレーを前に気持ちが抑えきれないのだよ。しかも豚肉のカレーだ、私のプロフィール調査でもされたのかと言うくらいどストライクな好物だぞ?」


「と、とりあえず食べられるようでよかった。俺の故郷じゃ宗教上の理由で豚肉はダメとかあったもんですから」


「少なくとも私の信ずるタウト教にはそんな教義はないな、安心したまえ」


「私はスクルド教ですけどそんな話は聞いたことがないですねえ。サルティコ教も食に厳しいなんて話は聞きませんし」


 俺は宗教名を聞いてしゃもじを取り落としそうになった。その神様たちと昨晩会って話をしてきたばっかりなんですけど。てーか、ガブはスクルドのとこだったか…あいつなんだか頼りないんだよな、これから大丈夫かな?

 

 そうこう騒いでいるうちにサンソン奥さんも合流していよいよお昼の時間となった。

 

「お待たせ、さあ、カレーライスの出来上がりだ。」


最後まで読んで頂いてありがとうございました。

次回は10/26の20時更新の見通しです。

やっとカレーをみんなで食べるかな…後、タスクが悩んでる話も進みそうです。

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