11話 ピーラーと暗黒物質
更新が遅れてすみませんでした。
風邪にやられちゃいました。
見つけて下さってありがとうございます。
本日分を投稿します。
第11話になります。今回もカレーを作る回です。ガブの暗黒物質生成のお話を挟んでます。
「よし、こんなもんかな。みんなありがとう。野菜を水切りしたら次は皮剥きだぞ」
「ふえー終わった…んじゃないのかよ!」
「兄さんまだこんなんじゃ食べられないよ?」
「じゃぶじゃぶーじゃぶじゃぶんー」
野菜の水洗いをみんなでやり切り、俺は皮剥きを始めた。子供たちは休憩させるとガブにお願いして相手をしてもらう。
皮剥きはピーラーを使う。ナイフでもいいんだが速さが段違いだ。じゃがいもの芽が気になる時だけ避けておいて後でナイフを使ってほじくるつもりだ。うん、やはり新品のピーラーはよく剥ける。
「わーおもしろーい」
「するする剥けてる、タスクさんそれなに?」
「ピーラーっていう、皮剥き専用の道具だぞ、誰でも簡単に速く皮を剥ける」
一個のじゃがいもを持って目の前で実演する。まるでスーパーの実演販売をやってる気分だな。一分とかからず綺麗に皮がむけて次のじゃがいもを手に取る俺にノアが声をかけてきた。
「あのっ、それ僕もやってもいいですか?」
「ん?ああいいよ。一緒にやってみるか」
ノアにじゃがいもとピーラーを渡す。ノアの後ろに周り、軽く手を添えてじゃがいもに刃先を当てると撫でる感覚でしゅっと手を引いてやる。
「わっ、こんなに簡単に…」
「簡単だが自分の手を撫でたり擦ったりしないように。一応これでも刃物だからね。じゃあ、俺も続けよう。芽は食べられないから見つけたら教えてくれ」
「はーい、うわっ、おもしろい…!」
ノアは飲み込みがいいのかしゃかしゃかと芋を剥いていく。マルコとマゼはノアに寄って手元を面白そうに眺めている。何故かガブはちょっと離れてその様子を見ているが…あ、こいつ目をキラキラさせてる!
「タスクさん、これだったら私も手伝えそう!道具まだある?」
「あるぞ、そうだな…マゼちゃんと二人でゆっくりやってくれるか。マルコは…自分だけでやりたい?そうか」
「やったあ!」
「わあい!」
「りょーかいだよ、ほむほむ、これがピーラー…」
「ガブとマゼちゃんは人参をやってもらおうかな。ほらこんなふうにするりっとな」
人参を一本手に取るとピーラーで剥く、細く薄い皮がするんと剥ける。ガブも手に持ちマゼと二人でゆっくりゆっくり剥いていく。
「あっ!ほんとだ、するーって剥けた!」
「おもしろーっ!」
「あんちゃん、これすげーな、これあれば俺でも母ちゃんの手伝いできそうだぞ」
マルコもじゃがいもの皮剥きを始めて驚いている。確かに包丁でやってる時より遥かに楽だからな、何より安全で速い。でもここはきちんと最初に注意しとかないと。
「何度も言うが刃物だって気持ちは忘れないでくれ。間違って指先とか手に当てたら危ないから。ゆっくり、ゆっくりでいい」
「はい!」
「はーい」
「うん」
「なんかあんちゃん先生みたいだ」
「本当に料理の先生かもだよ。私はこれからタスクさんに色々教えてもらうんだよ」
そうだった、暗黒物質生成ウーマンに勉強してもらう話があるんだった。いまのとこ火を使わなきゃ大丈夫だろうか?
「ガブはマゼちゃんを見ててやってくれ、俺はそろそろ材料を切るから」
「はーい」
剥き終わった野菜を一口大に切り分けていく。流石にこれは包丁でやるしかないので俺が全てやることにした。面取りはしない、少々野菜が煮崩れようがとろみの足しになって、俺は好きだ。
大人数でやったおかげか、思いのほか野菜の皮剥きが早く終わり手を動かしているのは俺だけになった。子供たちとガブに見つめられての仕込みはなんだか恥ずかしくなってきた。俺は気逸らしついでにガブにお願いをした。
「ガブ、解凍してある豚肉の固まり、シンクの上に移動しておいてくれないか」
「うん、こっちの水垂らしてるザルのことかな?うわ、なにこれツンツルテンの透明なのに包まれてる」
昨夜のうちに買っておいたラップで肉を包んだんだ。それをザルに入れてタライの水に漬ける。更に別のザルで蓋をして上からゆるい勢いの水をかける…凍ったものをなるだけドリップさせずに優しく解凍するお婆ちゃんの知恵みたいなやつだ。
「そうだ、それで合ってる。つるつるのやつを受けのザルごとシンクにおいてくれ。シンクは濡れて構わないから」
「はあい、よいしょっと」
ガブの手付きや持ち運ぶ様を見ていたが特に危なっかしい所はない。本当に料理が下手なんだろうか?俺は疑問に感じて子供たちに聞いてみた。
「なあ、みんな知ってたら教えてほしいんだけど、ガブがどっかのうちの飯を手伝ってやらかした話しって知ってるか?」
「なっ!なんで今それ聞くかな、タスクさん!」
「いやあ、料理得意じゃないって言う割にちゃんとしてるように思ったから」
子供たち三人は顔を突き合わせ、こちらにちょっと難しそうな顔向けてしばらく黙っていた。やがてマルコが最初に口を開いた。
「それ、多分うちのことだと思うぞ」
「なんだ、サンソンさん家でやってたのか」
「うん、俺たちもガブ姉ちゃんのご飯食べれるって作るのみてたんだ、そしたら、なあ?」
マルコがノアに話を振る。頷いて話を続けるノア。
「ええとですね、母さんが台所を離れなくちゃいけなくなってガブ姉ちゃんに鍋の番をお願いしたんです、五分間くらいかな、僕たちとお話しながらお姉ちゃんが火の加減を少し触ったと思ったら真っ黒な煙が鍋から上がって…」
「全部まっくろくろくろのころころだったの」
最後に話を引き取ったマゼちゃんの言葉が全てなのだろう。真っ黒なのはわかるがころころってなんだ。
「ころころって、何か丸くなったのか」
「ええと…訳わかんないんだけど南瓜のスープ煮だったのに中を開けたらなんか黒くて丸いのばっかになってたぜ」
「あんな材料入ってなかったと思ってたんですけど。ちょうどこれくらいのがいっぱい」
マルコとノアが人差し指と親指で小さな丸を作る。手のひらにすっぽり収まるくらいの大きさ、ビー玉のでかいやつくらいだろうか。
「ガブはそれ何だと思う?」
「うううう…わ、わかんない…火を触っただけであんなになるなんて私知らなくて」
耳まで真っ赤にして縮こまるガブは困惑した様子で告白した。うーん、話だけ聞いてると本当に呪いとかあるんじゃないのか。
「その黒いのはどうしたんだ?」
「母ちゃんが言うには水に流すと詰まりそうだったから裏庭に埋めたって言ってた。片付ける時一個床に落としたらしいんだけどそれ以来台所にゴキブリが出なくなってカビも生えなくなったってさ」
「げ、なんかすげー殺虫効果っていうか消毒効果もありそうだな。そんなの埋めて裏庭は大丈夫だったのか」
「何ともないみたいです。そこだけ草生えない何てこともなく」
土に返せば無害ってことか。何ともすごいダークマターが出来たもんだな。あーあ、ガブがシンクに頭を突っ伏して震えてら。
「お願いもーそろそろこの話は許してぇぇ…」
「いいこいいこ」
とうとうマゼちゃんに慰められてる。これ以上はガブが持ちそうにないのでやめとくとしよう。さあ、肉と野菜を炒めるか。
水揚げしてもらった豚肉を細かく賽の目切りに分けていく。脂身もちょっと多めにもらおう。鍋を火にかけて脂身のかけらを放り込む。いい音を立てて鍋底に油が行き渡る…いい香りがして来た。
「あ!めっちゃ腹が減る匂い!」
「本当です、何のお肉ですか」
「ああ、今日は豚肉を使う、油が跳ねるかもしれないからその辺から観戦しててくれ」
ガブと子供たちはぎりぎりの位置から身を乗り出して肉の焼ける香りを楽しんでいるようだった。ちょっとくらいなら味見させてやろうかな?
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
次回は10/21の20時更新の見通しです。
ようやく自分のペースが掴めてきた感じでさあどんどんいこう思った矢先、熱はないのに咳とだるさがきつくて休み休みやってました。その為誤字脱字がいつもより多いかも知れません。
どうぞ皆さま季節の変わり目、特に気温の変化にはお気をつけ下さいね。喉いたひ…。




