9話 女神とホットケーキ
見つけて下さってありがとうございます。
本日分を投稿します。
第9話になります。今回も女神三人のお話です。
赤ビキニがちょっと頑張ります。
『あなたが授かったジョブは『トレーナー』です。世界にただ一人のユニークジョブ。自身は特段強くはありませんが、対象の育成を助け通常の成長よりも遥かに強く成長を促進させる固有のパッシブスキルを所有しています。それが『無限レベルアップ』です』
タウトの説明をまとめるとこうだ。
今回女神たちとの交信が繋がったのはご近所へのお裾分けイベントで俺のジョブレベルが上がり能力の情報開示がアンロックされたからだ。この能力自体は転移直後から発現していたらしい。
俺の場合、料理を相手に食べさせる事でその能力を大きく発揮しており、既に飯を何度も大量に食べさせたガブは元は3だったレベルが今は300を超えている。おまけに今回食事を振る舞ったご近所さんたちもかなりレベルが上がってしまった。サンソンさん一家なんか、街の主婦レベル56、土方レベル78、街の子供レベル50×3って…それ何てジョブだよ。しかも俺のスキルのせいでステの上がり方が通常のレベルアップ時の倍以上。ちなみに第一章のクリア適正レベルは30だから、どいつもこいつも完全に適正越えのオーバースペックになってるな。
もし今後も飯を食べさせ続けたらガブやご近所さんたちはいつかレベルがカンストして異世界霊長類最強人類が誕生してしまう。かなりヤバい話では無いだろうか。
『いいえ、それこそ私たちの望む流れです』
『然り』
「いいのか?俺が何も考えず連中にずっと飯を食わせたらそのうち神すら超える力を手に入れるかも知れないぞ。強くなればよくない事を考えるやつだって」
『今後ガブリエラを死なせない為の布石は多い方が良いと考えています。本人が強くなるだけでなく、住まいとなる街の人間も強くなれば外敵を容易く退ける事が出来ましょう』
『人間はレベル上限がある。無いのはガブリエラたち星竜だけ』
『万が一その手の悪党が出やがった場合は排除して欲しいんだ。お前にはその力がある』
俺は暫し考える。ガブを助けるのは元々俺のしたかった事だから問題はない。しかしガブの身を守れと言われても正直あまり自信がない。むしろ護ってほしいくらいだぞ、こちとら単なる民間人なんだからな。
「俺に力があると言ったな。それはなんだ?だいたい俺のジョブは人を強くさせるだけだろ」
『あなたが成長すれば自ずと見合う力が発現するはずです。それとは別に私たちの加護であなたを護りましょう。元々あなたと使徒契約する際に加護をお渡しするつもりでした』
依頼完遂の為の道具をくれると言うのか。ありがたいが…いったいどんな加護なんだ?異世界あるあるでは神様やり過ぎとか人間の感覚から逸脱してるとかありそうで不安なんだが。
「じゃあ加護について教えてほしい」
『ではまず私タウトの加護から説明しましょう。私の加護は管理の能力です。元々の『ドラゴンパラダイスロスト』はプレイヤーのホーム画面で様々なマネジメントが出来ましたね?キャラクターの育成と管理、様々な街への移動、戦闘マップでの戦略立案と実行、無限アイテムボックス、そしてセーブ…それらが全てあなたの手元で出来る様になります』
「セーブまで?それはもう無敵じゃないか」
『そこまで万能でもありません。セーブはいつでも出来ますが、ロード…つまり時間の巻き戻しはとても神力を使います。その機能だけは私の同意が必要です。何年かに一度使える程度だと思って下さい』
「それでも充分過ぎる。いざという時の保険になるからな。当てにしすぎないように注意するよ、きっと油断してしまうから」
『ゆめゆめ忘れないで下さい。それとあなたのレベルが上がればアンロックされる機能があります。楽しみにしておいて下さい。今後の成長を期待しておりますわ』
シスター…女神タウトから加護を受け取った。俺は早速ドラパラのホーム画面を呼び出して確認を始めた。本当にあの画面だ…何だかとても懐かしく感じる。画面の大きさも自在なんだな、まるで宙に浮いたタブレットみたいだ。
続いて巫女…女神サルティコの説明を受ける。彼女は俺のホーム画面を指差してここを見ろと示した。それは「ショップ」アイコンだ。
『次私。それ開いて』
「ショップ?まさか課金アイテムが買えるのか」
『開けばわかる』
「わかった、こうか?」
ショップアイコンを開くと本来の課金アイテムと並んで、まるで通販サイトのような商品リストがサムネイル付きで表示された。普段のショップ画面が拡張された感じだ。ラインナップは食料品、調理器具、調味料、雑貨とあり、生活用品が中心のようだ。
「これはすごい、俺の世界の商品が買えるのか」
『君のスキルに合わせてカスタマイズした道開の能力。あくまで料理の支援』
『私から補足しますとあなたの世界の大手ネットショップをティコの加護である道開の能力で繋いでいます。購入は簡単ですが品物の返品は出来ません。あなたが向こう側へ戻れないのと同じ理由です』
「欲しかった調味料や道具が手に入る、こいつはかなりありがたい。通貨は…こっちの金、ゴールドで買えるんだな」
『品やジャンルの追加は私に相談』
買えるものの範囲を限定させたのはこちらの世界の文化保存の為でもあると巫女から説明された。異文化のオーバーテクノロジを持ち込まれすぎてもよろしく無いとの判断だ。これで車も買えるんじゃないかと思ったんだが…。
『不許可』
やっぱダメか。
女神サルティコの説明が終わった。最後は赤ビキニの説明なんだが…何故かまだテーブルに伏せたまま動かない、早くしてくれよ。
『スク?』
『スク、あなたまさか…』
びくーーーーっと赤ビキニが震えた。のろのろと上げた顔は情け無くるるるるると泣いていた。滂沱の如き見事な泣きっぷりだ。だいたいなぜ泣く。
『そうだよそうだよソースだよ!あたいには何にも無い!未来視はできねーし、戦も出来ない、無い無い尽くしでお前に何にもしてやれねー、なっさけない神だよ!駄女神だよ!あーん!あーん!』
あちゃーとタウトとサルティコが額に手をあてて天を仰ぐ。この泣きはいっぱいいっぱいになった時の赤ビキニの定番のようだ。強がってただけでこいつは結構豆腐メンタルなんだな。
しょうがない。貰った加護の動作確認ついでにちょいとやってみるか。
「タウト、サルティコ、貰った加護の機能さ、ちゃんと動くか目の前でテストさせてもらうぞ?」
『あ…』
『タスクさん?』
戸惑う二人を無視して俺はショップ購入を始めた。ゴールド残高はかなり入ってるな、購入可能と。ここには何も無いから全部揃えてしまおう。カセットコンロ、カセットボンベ、フライパン、ボウル、おたま、泡立て器、フライ返し、大きめの皿、ナイフとフォーク、布巾、キッチンペーパー、ミネラルウォーター、牛乳、卵、バター、メイプルシロップ、某社ホットケーキミックスを購入した。商品はちゃんと段ボールとラッピングで包装され目の前に届いたのには驚いた、それも即時だ。食料品の一部はクールで届いたのか触るとひんやりしている。成程加護がいい仕事をしてる。
「ではやってみるか」
まず卵と牛乳をかき混ぜる。ここへ追っかけホットケーキミックスを混ぜる。ダマがあってよし、むしろ混ぜすぎ危険。俺はレシピより牛乳を少なめにしてホットケーキが厚めになるよう調節してる。カセットコンロの火を入れてとろ火でフライパンを温めバターを引く。余分なバターは拭き取りつつ、濡れ布巾の上でフライパンを冷ます。そこへ生地を落とし込んだらとろ火の上に三分。ふつふつと空気穴が目立ち始めれば裏返す。うんいい焼き色だ、裏も三分焼いて出来上がりっと。
『いい匂い』
『本当ですね…』
『あーん!あーん!あーーーーん?』
三女神がそれぞれの反応を示す前で二枚のホットケーキが焼きあがった。皿に二枚を重ねて盛り付けバターを添える。シロップのボトルを添えて後はお任せだ。
「ほい、出来上がり。まずはべそっかきに召し上がれだ」
『誰がべそっかきだ!』
「いいから食え。ホットケーキは焼き立てが一番。加護で持ってきた食い物がちゃんと食えるかのテストなんだ。神様自らが試してくれよ」
『うぐっ…そうだ、あたいは女神なんだ…食うとも』
赤ビキニもといスクルドはおずおずとナイフとフォークでホットケーキを細かく切り分けシロップをたっぷりかけた。ほう、スクルドはこういう食べ方か。ナイフを置いてフォークのみになると、一切れ刺してバターにちょんと付ければ口に放り込む。ほく、はふと食べてこくんと飲み込むと…またどばどばと涙が溢れ出してきた。
『う、う、うう、うううううう!』
「あれ、美味しくなかったか?まさか神様って人間と舌の感覚違うのか…」
だーだー泣くスクルドをタウトが覗き込むと、はっとして驚きと喜びの混じった顔を俺に向ける。サルティコは心配なのかタウトとは反対側から寄り添ってスクルドを見つめていた。
『いいえ、これは違います、この子は嬉しくて泣いてます!!』
『マジ歓喜』
スクルドの手が超スピードでホットケーキを次々に口へと放り込んでいく。次第に彼女の体に変化が現れだした。ほのかに体が光りはじめたのだ。
『うわあああ…美味し、美味しい…しみる、あったかい、あたいの真ん中がほかほかあああああ…!もぐ、もぐ、ごくっ…!』
『スク…?あら、あらあら』
『光速電神』
最後の一口は皿に残ったシロップをたっぷり吸わせてから食べた。スクルドが立ち上がるとどこかで見たような黄金色のオーラがしゅんしゅん足元から立ち昇る。赤ビキニが金色ビキニになってる。頼むから微妙な所に引っかからないようにしてくれ。暫くしてオーラが収まると…彼女はもう泣いていなかった。
『視える…』
『『「?!?!」』』
スクルドは宙を仰ぐように両腕を広げて芝居がかったポーズをとる。
『視える…未来が視えるぜ……なんて、なんて幸せな未来なんだ…!』
「そいや」
俺は惚けたスクルドの後頭部をおたまで小突いた。
変なオーラが出てたからちょっと強めにやった。多分大丈夫だろ。それが証拠に叩いた拍子に金色が元の赤色に戻ってる。
『あいとわ。ぶるるるる、いってえぇぇ、てめえなにをする!』
「美味かったか?少しは頭がしゃっきりしたか」
『あ!ああ、美味かった…なんてこった、あたい…いつの間にか神格が上がってる…』
開いた自分の手を見て嬉しそうに笑うスクルド。ざわっとタウトとティコが響めいた。薄々気づいていたらしいタウトは腕組みしてスクルドを睨みつけていたが、程なく柔らかな笑みを浮かべた。
『ええ、スク、確かに神格が上がってるわ。一時的に未来視も出来たようですね』
『タウト姉え!』
がばっと抱きしめ合うタウトとスクルド。タウトは厳しい姉らしいがやはり妹はかわいいのだろう。またスクルドはぼろぼろ泣き出した。
『ぐすっ…姉貴、あたい、あたい…』
『本当に良かったわね、スク…これもタスクさんのおかげ………あら?』
『私にも作って。可及的速やかに性急に迅速に』
「へいへい…」
じゅわああああ…
感動の姉妹劇が繰り広げられる横で、一人素早く強かに迫るサルティコにせっつかれながら俺はホットケーキを焼いた…。
女神三人にホットケーキを何枚も焼いて食わせた後、神格が全員上がっただの、スクルドの加護は暫く保留にするだの、俺への依頼報酬は毎月支払うだの、元の世界で俺が得られるはずだった生涯賃金(これ大事。異世界転移させられた奴はもっと気にしてもバチは当たらないと思う)をきちんと計算して払うように約束させたりだのと結構時間がかかってしまった。ようやく帰れる。
「で、どうやって帰ればいいんだ?」
『大丈夫です、日の出はもうすぐです。朝になり目が覚めれば元に戻っているでしょう。管理の加護でわからない事があればすぐに呼んで下さい、念じれば必ず声が届きますから。本当にありがとうタスクさん、また必ずお呼びします』
「ああ、またな」
熱烈に俺の手を握りしめるタウトにちょっと引きつつ俺は会釈した。最初に会った時よりだいぶん態度が柔らかくなってるな。
『タスクゥっ!』
うわっと!今度はすっかりゴキゲンになったスクルドに肩を抱かれて頭をぐいぐい寄せられる。こいつ物凄く力が強い…ヤバいもげる、俺の首がコキャってもげる…!
『次来る時までにお前の為の加護を用意しとくかんな!神格上がってあたいのやれる事がめっちゃ増えちまってさあ、何をお前にやろうか迷ってんだ。タスクう、お前ほんといい奴だなあ!困った事があれば何でも言ってくれ。お前とあたいでスクスクコンビ、なんてなあ!また…なんか作ってくれな?』
「わかったわかった、ちゃんと作るから。あんまワイルドに揺さぶんな、俺はこういう暑苦しいノリは苦手なんだ」
『なんだよ、あーお前結構恥ずかしがり屋さんだな、もう!しゃあねえなあ』
『絶対違う』
まだホットケーキを食べているサルティコがスクルドに突っ込みを入れた。こいつが一番食ってるな…ガブほどでは無いにしてもよく食べるやつだ、俺の食べキャラリストに追加しておこう。
『君に一つ忠告』
「なんだ?」
『君はガブリエラから逃げられない』
「それはどう言う意味…」
『忠告をもう一つ。私も君を逃がさない。ぱく…必ずまた呼ぶ。次までにキッチンを用意しておく』
サルティコが随分喋るようになったような?ぴろん、と軽やかな効果音と共に彼女の頭の上に花吹雪と【レベルアップ】の文字が表示された。なんでこいつだけゲームキャラっぽい神格の上がり方なんだ。
三人の女神が俺に手を振った。俺も釣られて手を振る。するとどこかへ落ちていくような浮遊感が俺を襲った。段々意識が薄れていく…目覚めるとそこはベッドの上だった。自警団の自室の天井が見える。カーテンの隙間から薄明かりが見え、遠くから小鳥の囀りが聞こえた…。
そして、ガブが横に寝ていた。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
ストックが無くなった為、次回は一週間後を考えてます。
自分に一番いい更新ペースを模索中です。
出来るなら10/10の20時更新で行きたいです。




