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0話 プロローグ

見つけて下さってありがとうございます。

私の初作品になります。

楽しんでいただければ嬉しいです。

今回は0話から3話まで投稿します。


本日投稿分 1/4 です。

「よっし、やるか」


 俺、タスク=キミオは今日も厨房に立つ。

 拳を手のひらに叩きつけ気合を入れる。早朝起き抜けの緩んだ気持ちに喝が入ると割烹着の腰紐を締めた。ここは自分の店を持たず元々ある食堂を短い時間だけ間借りして営業する、いわゆるゴーストレストランてやつだ。特に店の名前は無い。自警団が持て余す無駄に広い食堂を一般解放してもらい、月水金の昼のみに日替わり定食オンリーの店を開いている。店で出すのは料理人の修行などしたことも無い俺が作る平凡な家庭料理だ。


 今日は金曜、定番のカレー定食。サイドにレタスとキュウリのサラダと温泉卵を付ける予定だ。昨日ご近所さんのツテで良い玉葱と豚肉が手に入ったのはとてもラッキーだった。何よりカレーは客の受けが結構良い。前に出した時は大鍋をすっかり空にされたから今回は二つ用意するか。作り置きのチャツネはまだ有ったよな…。


 俺は玉葱の皮剥きを始めた。

 そこへあいつが現れた。


 あいつの名前はガブリエラ。愛称はガブと呼ばれてる。年齢は18歳。自警団の団員見習い兼団長代理という、偉いんだか偉くないんだかよくわからない妙な肩書きの持ち主だ。


 容姿はパールブロンドの長い髪をポニーテールにしたヘアスタイルで、丸まった感じの耳長、瞳は透き通る様な空色、肌は色白の小柄な女の子だ。ただし小柄といっても出るとこはしっかり出た反則ボディが実装されている。


 しかしだ。大抵の人間はその反則ボディに気づくより先に、極めて目立つある装飾品に視線を奪われ、即座にガブを残念なやつと判断する。


 その装飾品とは何か?


 それは彼女が常に着用しているびんぞこ眼鏡だ。大きな虫眼鏡を二つ連結しただけに見える厚いレンズが特徴的で、これを掛けてニヒーと歯を見せて笑えば目を逸らされること間違いなしだ。


 今朝は自警団制服…胸元に水色のリボンタイのついたドレスシャツ、街の象徴である巨岩遺跡をデザインしたエンブレムを肩に付けた青ジャケット、見習いを示すオレンジ色の腕章、下は白のミニスカートと膝上ニーハイブーツ、ご覧の姿で登場だ。


 昨夜はちょっとした遠出イベントがあってガブと俺はかなり帰りが遅くなった。あいつ、すげー疲れただろうに、こんなに朝早くから起き出してくるとは。普段の寝坊助が珍しい。

 

 彼女はカウンターの定位置に来ると腰掛けが継ぎ接ぎだらけのバーチェアに座り厨房の俺に向かって手をぶんぶかと振る。


「おはよー、朝早くからおつかれさまー」


「おはよう。まだ寝ててよかったんだぞ。今昼の材料を仕込んでるとこだ。ガブは朝飯何にする?」


「大丈夫だよぅ。今朝はタスクさん特製のモーニングがいいかなあ、それとも…」


「ほいほい、モーニングなら卵を何にするか決めてくれ、スクランブルか、目玉か、オムレツか」


 俺はカウンターへ向かうと冷水の入ったグラスを差し出す。


「卵かあ…あっ、ずっと前に食べたふかふかパンケーキもいいね!あれ分厚くて甘くって口の中でしゅわっととろけて」


「なんだモーニングじゃないのか。あのパンケーキはメレンゲ作るのに時間がかかるぞ」


「うふふ。どれも美味しいから迷うけどやっぱりこれしか無いかな!」


 彼女はぴしっと人差し指を立て、いつもの気軽な調子で突然とんでもない注文を言い放った。


「今とっても疲れてる私はすっごく栄養をつけたいの。だから今朝はタスクさんにしようかな」


 こいつまたカッコつけて注文端折りやがって。

 俺はそう思って聞き直す。


「なんだって?」


「だから、タスクさんをよろ」


「またまたご冗談を」


「タースークーさーんーをーよろ★」


 ピシッ


 時間が止まった。


 グラスを差し出す手が止まった。


 俺の息の根も止まりそうだった。


 彼女はカウンターに頬杖をついて笑う。

 顔はニマニマしているけど…眼鏡の奥底に見える彼女の瞳は真剣だ。揶揄っているようには見えない。


 やがて時間停止を免れたグラスが俺の手から滑り落ちた。


「おっとー!」


 ガブがグラスをナイスキャッチするとそのまま口へ運ぶ。こくんこくんと喉を鳴らす音がやたらに大きく聞こえる…。


 やっと動けるようになった俺は自分で自分を指差して彼女に三度目の確認をする。俺?ミー?


 こくこく頷くガブ。


 彼女は口元に三日月のような…寒気を感じる笑みを浮かべた。背後で仄かに虹色のオーラが湯気のように立ち昇っている。それは天井に頭をつかえさせる程大きな竜のシルエットを形作った。あれは星竜だ…ゴゴゴゴゴと効果音まで見えてきそうな程の圧倒的なプレッシャーを肌に感じた。


「ねえ『旦那様』ぁ、私やり遂げたよー?まだご褒美を貰ってなかったよねぇ」


 彼女は鋭く細めた目で俺を睨む。

 静かで低い声がめっちゃ怖えー。


「昨日の事で私わかったんだぁ、もう一日たりとも待てないって、待っちゃいけないって」


 チラチラとガブは俺の左手を見ていた。


 俺の左手……一見何の変哲もない薬指と小指がヒュンヒュンと眩い光を放ち始めた。それはガブの放つオーラと同じ虹色だった。指に絡みつくように半透明の細い何かが指関節の上をするする這い回っている。


「だ、か、ら…」


 俺が返答に困っていると彼女はびんぞこ眼鏡を外し鞘をカリっと噛んだ。そして悪い顔はどこへやら、頬染めた上目遣いで容赦の無い注文をかぶせてきた。


「特盛りでお願いするね♡」


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