7•音は流れてきらめく明日へ
1話1000字程度、全7話。
R3/10/23 5:00〜11:00に予約投稿です。
※この物語はフィクションであり、作中の土地、人、食べ物や動植物は総て架空の存在です。
※この部分の歌には特定のメロディはありません
※ 「今からファンアート2021」でぴったりの挿絵を見つけました。以下あとがきに載せました。
月影清かに注ぐ夜は
あの山超えて谷超えて
木の葉は囁き小川は誘う
遥かな時を人知れず
横たわりたる銀の竜
乙女は急ぐ泉へと
母の命を救うため
千歳を生きる銀竜の
鱗を滑り溢れる月を
集めて光る不思議の泉
ひらりひらりくるくると
仄かに白く浮かびたる
乙女の裸足の麗しさ
コーラスに入り、歌い手たちが唱和した。子供が可愛い声を張り上げる。老夫婦が掠れた声を添える。調子外れなおじさんも、少し遅れるおばさんも、みんなみんな加わった。
ひらりひらりくるくると
仄かに白く浮かびたる
乙女の裸足の麗しさ
踊り手の鈴が銀の音を鳴らす。溢れる月の光のようだ。楽師の袖や裾を飾る鮮やかな色のふさが陽気に揺れる。
ひらりひらりくるくると
仄かに白く浮かびたる
乙女の裸足の麗しさ
3回目のコーラスで、サッジが少し調子を変えて合図を送ると、アルレッキーナのリードで楽師たちだけが歌の旋律を繰り返す。
コーラス部分まで器楽だけで終えて、いよいよ乙女と竜が出会う。突然ぱっと総ての音が止む瞬間だ。
乙女は辿る月の道
苔生す岩を通り過ぎ
走る水さえ追い越せば
遥かな時を人知れず
伏したる竜の岩殿へ
乙女よ乙女月を背に
母の命を救うため
訪ね来たるは不思議の泉
佇む姿たおやかに
竜と人との縁結び
ひらりひらりくるくると
仄かに白く浮かびたる
乙女の裸足の麗しさ
ひらりひらりくるくると
仄かに白く浮かびたる
乙女の裸足の麗しさ
ひらりひらりくるくると
仄かに白く浮かびたる
乙女の裸足の麗しさ
はるか昔の山奥で生まれた幸せな恋の歌に乗って、祭りの夜がふけてゆく。やがて、魔法のランタンを舳先に掲げた小舟が人々を対岸へと運び始める。いつしか屋台は片付けられて、それぞれの町や村へと帰ってゆく。
アルレッキーナたちは渡し船に乗らなかった。渡し守の家は対岸にある。明日の朝こちらにきてもらう約束をして、3人は何もない広場に小さな焚き火をおこした。
広場では篝火も消えて、組まれた薪も囲いもすっかり取り払われている。秋の夜はしんと冷え込む。野宿に慣れた3人は毛布を被り、サッジの歌う風除けの魔法で火を守り、わずかばかりの暖を取る。
ふと、リッターが星空を見上げてゆったりとした歌を口ずさむ。旅の剣士リッターが遥かに思う故郷の歌だ。アルレッキーナとサッジは黙って焚き火を見つめている。
赤々と火を映し、どの顔も少し疲れて見えた。それでもまだ寝るには惜しい。遠い旅路に想いを馳せる3人の旅人たちは、ただ静かに揺れる火を囲んでいるのであった。