5•中州島の宵
1話1000字程度、全7話。
R3/10/23 5:00〜11:00に予約投稿です。
※この物語はフィクションであり、作中の土地、人、食べ物や動植物は総て架空の存在です。
船着場はまだ人影もまばらで、アルレッキーナたち一行は並ばずに渡し船に乗ることができた。この小舟には、渡し守のお姉さんを含めて一回に5人まで乗れる。渡し賃を1人ずつ支払うと、3人は共に船上の人となった。うっすら灰色がかってきた空を見れば、ちぎれ雲を縫って枯葉色の鳥が悠然と翼を広げていた。
中州島には蔦の絡まる木々が生え、胸の赤い小鳥や声の美しい灰色の鳥がいた。地面を走るトカゲは美しい青を木の根に沿えている。灰色リスが頬を膨らませて大木の根元を掘っている。
両脇から差し伸べられる枝々をくぐり、森の小道を抜けた先には屋台の並ぶ広場があった。ここの屋台には屋根があり、鮮やかなリボンや花で飾られていた。売られているのは食べ物より民芸品が多い。ダンス大会に使う木枠に嵌まった鈴も売られている。子供用の小さなものから、踊りの名手が使う複雑な形のものまで様々な種類があった。
「へえー、土手より華やかだねえ」
「あ、リッター、もうお酒買ってる!」
「こっちには穀物酒しかないけどな」
アルレッキーナはリッターを笑いながら、踊り用の鈴をいくつか振ってみる。
「ここは初めてかい?」
鈴売り屋台のおばさんが、気さくに話しかけてくる。
「あんたたち旅芸人だね」
「えー、うーん、僕は芸人じゃないけど」
「ふうん?護衛かい?お嬢ちゃん有名人?」
「たまたま道連れになっただけだ」
リッターは何でもないような口調だが、目には警戒が宿っている。
「やだよ、お兄さん。おお、怖い」
鈴売りおばさんは眉根を寄せる。リッターは目線を粉焼き屋台に移して背中を向けた。サッジに促されてアルレッキーナも鈴を置いてついてゆく。少し不満そうに2人を見るが、とりあえずは黙っておく。旅芸人と剣士や魔法使いでは感覚が少し違うのだろう。
細かく千切れた狐色の薄焼き菓子が、大きな葉っぱに小山を作る。黒いスグリのソースがたっぷりかけられたこの菓子も、筏祭りの名物だとか。
「始まるな」
「ん?まだお手本の人たちの練習じゃない?」
笛と太鼓に踊りの鈴が加わって、陽気な音が流れ出す。3人はバーキムの人々に混ざって踊りの開始を待つ。森の小道にあかりが灯り、親子や恋人同士が連れ立ってやってくる。小さな子供たちは今年初めて鈴を買ってもらい、物珍しそうに振っていた。
サッジはじっとお手本の練習を聞いている。アルレッキーナはもう指だけ動かしている。アルレッキーナの細い笛には孔が3つしかないが、澄んだ音色で自在に歌を紡ぐのだ。やがて陽が落ち広場中央の篝火が点くと、ふさ飾りのついた袖を揺らす楽師たちの演奏に、アルレッキーナは危うげなくついてゆく。
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