4•リッターと果実酒
1話1000字程度、全7話。
R3/10/23 5:00〜11:00に予約投稿です。
※この物語はフィクションであり、作中の土地、人、食べ物や動植物は総て架空の存在です。
穀物酒の泡を鼻の下につけながら、アルレッキーナはおつまみを買う。
川海老の素揚げには柑橘の皮を混ぜたソルトがキラキラ光っている。塩をまぶした揚げナッツのほうは、細かい塩がまぶされた狐色の木の実が小さな木の器に入れて渡される。器はお土産になっているので返さなくて良いそうだ。
リッターは食べ物には見向きもしないし、サッジは既に好きなだけ買って筏競争の表彰式を見学に行った。そこでアルレッキーナは気兼ねなく好きなものを買っては摘み、泡立つ酒を楽しむ。
酒のコップが空になり、アルレッキーナは赤い果実酒を1種類だけ売る屋台に立ち寄る。少し渋みのある真っ赤な果実酒が川面に反射する太陽を受けて宝石のように煌めく。芳醇な香りが実りの秋を告げている。この屋台では、新酒の他に去年の酒も呑むことができた。
「それぞれに美味しい」
アルレッキーナが去年と今年の果実酒を呑み比べながら土手の下を見やると、表彰式は終了したところだった。見物人はまだお喋りしながら留まっている。舞台では次の出し物を準備し始めていた。
「いたいた」
サッジの声に振り返ると、アルレッキーナは軽くコップを持ち上げる。口にはハードタイプのチーズが入っている。このチーズは海外産だ。材木の町バーキムの更に下流、大きな港町ポルトヴューネで売られている。それを祭りの為に仕入れてきたのだ。一皿にほんの数カケラで値段は張るが、アルレッキーナはせっかくなので試してみた。
「表彰式見なかったの?」
「見なかった」
「リッターは?」
「果実酒全制覇するって」
「ええー?」
色とりどりの布が編み込まれた長い三つ編みを背中に2本ずつ垂らした少女たちが、笑い合いながら通り過ぎる。父親に肩車された男の子が、手を高く上げて風車を振り回している。
件の果実酒屋台は相変わらず賑わっていて、時々新しい樽を積んだ荷車が到着する。
「風が出てきたな」
リッターが2人に気づいて声をかけた。陽が傾きかけている。人々の流れは途切れず、祭りはまだこれからと言った風情である。
「リッター、全種類呑んだって?」
「一応な。一番気に入ったやつをおかわりした」
木のコップには、琥珀色の液体が入っている。リッターがコップを振ってみせると、甘酸っぱくもありまろやかでもある香りが鼻をくすぐった。
「まだ呑んでるの」
「まあな」
リッターは嬉しそうに笑う。サッジは軽く笑い声を立てると、2人に提案した。
「中州島に行かない?」
「いいな」
「行こう」
もともと渡るつもりだったのだ。屋台で買い物しながら聞いた話では、夕方になると中州島で篝火を囲んだダンス大会が行われるとのことだった。
「報酬はないけど、飛び入り演奏歓迎だって」
「いいねえ」
「よし、早く行こう」
「リッター、ダンス大会は陽が落ちてから」
「んん?そうか?」
すっかり酔って陽気になったリッターは、朗らかな笑い声を川辺の道に響かせた。
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