3•屋台めぐり
1話1000字程度、全7話。
R3/10/23 5:00〜11:00に予約投稿です。
※この物語はフィクションであり、作中の土地、人、食べ物や動植物は総て架空の存在です。
※オイルシードグラス油 はわざとです
筏は次々にゴールする。飲み物は選手全員に配られるらしく、船着場は持ち手のない木のコップを手にした男たちで溢れている。女船頭の率いるチームもあり、子供が混じるチームもある。女船頭チームは5着、なかなかの健闘ぶりだ。
ゴールでは、順位の書かれた木札を首に下げて貰う。子供のいるチームは、リーダーである小太りのおじさんが8という札を下げていた。子供もなかなか頑張った様子。チームメイトに褒められて得意そうだ。老人たちで構成された御隠居チームは、ひとつ上の7位の札を下げて満足げに談笑している。
アルレッキーナたち一行が会場に着いた頃、最後のチームがゴールした。係が大声を張り上げて表彰式に誘導を始めた。旅の3人も人の流れに乗って岸辺に用意された舞台へと急ぐ。
「飲み物買ってくる」
「酒がありそうだな」
「当然あるでしょ!」
サッジが小さな声で飛行魔法の歌をうたう。人々の頭を飛び越えて、涼しい顔で先に行く。その背中をリッターとアルレッキーナが追いかける。
黄金色の穀物酒や紅玉のような色の果実酒を手に手に掲げて笑いさざめく村人たちを見れば、酒類の屋台があるのは明白だ。
土手の上に着くと、軽く鼻歌を歌いながら穀物酒とおつまみ類を周りに浮かべて戻ってくるサッジがいた。
「魔法便利だねえ」
「でしょー?教えてあげよっか」
「え!」
「ぜひ」
「うん、じゃあ後で」
川魚のナッツ焼き、揚げた細麺や飾り切りされた果物盛り合わせ、果実オイルで焼いた羊肉などを鼻歌で操りながら、サッジは表彰式の見学に向かう。
オイルグラスシード油とナッツを惜しみなく使った名物の焼き魚には行列が出来ていた。買っていたら表彰式は見られないかもしれない。
「手分けして買うか」
「そうだねえ」
「揚げ物は一つ買って分けられるしな」
「スープいる?」
「俺は後で買う」
「そう?じゃあ後でね」
「うん」
リッターとも一旦別れたアルレッキーナは、目の前にあった屋台でハーブたっぷりのすり身団子スープを買った。これをふうふういいながら啜りつつ、他の屋台を見て歩く。すり身団子は軟骨もそのままのザックリと粗い口当たりが美味しい。
スープを食べ終わる頃に屋台の一番端につく。目星をつけた屋台に戻る途中、リッターを見かけた。使用済みコップを濯いでおかわりの酒を求めようとしているところだった。
「アルレッキーナ。果実酒もたくさんあるぞ」
「何杯目?」
リッターはほんのり顔が赤らんでいる。
「もう5杯呑んだ。まだまだ全種類には遠い」
「お金足りるの?」
全種類制覇は決定事項のようだった。もう表彰式には興味を失っているようである。名物である川魚のナッツ焼きのことも忘れてしまったらしい。
「しばらく野宿だから大丈夫だ」
「えー?明日は町に着くと思うんだけど」
「仕事が見つからなければ外で寝るさ」
「そんなに呑みたいの?」
「祭りだからな!」
真っ白な歯を見せてリッターが果実酒屋台に戻ってゆく。老若男女がコップ片手に並んでいる。皆リピーターのようだ。屋台の裏には樽が山積みになっている。呆れて思わず遠くを見たアルレッキーナは、樽を積んだおじさんが5人慣れた様子の一列縦隊でこちらに向かうのを見た。
「毎年こうなのね」
苦笑いでつぶやくと、アルレッキーナは普通の賑わいをみせる穀物酒の列の後ろについた。
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