2 筏競争
1話1000字程度、全7話。
R3/10/23 5:00〜11:00に予約投稿です。
※この物語はフィクションであり、作中の土地、人、食べ物や動植物は総て架空の存在です。
※筏の歌は、課題曲の主旋律に乗せて歌えるようになっています(イントロ→歌詞を乗せるところ→インストにて最後まで)
曲は、後書きより下にあるバナー上部の「企画概要」をクリックすると飛べるページにリンクがあります。
※作品全体も課題曲のイメージを追っています
筏は湾曲した川を巧みに下ってゆく。筏の上ではいなせな若衆が威勢よく呼び交わす。若者たちは、前を打ち合わせて荒縄で腰を結んだ袖なしの上着を素肌に羽織り、汗を煌めかす。よく見れば女性や子供も混ざっている。筏の立てる川音と乗り手の掛け合いとが一体となり、アルレッキーナたちの心は浮き立つ。
秋空は
流れに戯れ踊るよ
天高く
飛沫も燦き歌うよ
勇ましく
筏は流れを下るよ
水草も
魚と揺れるよ踊るよ
筏が3艘くらい並んで通れる川幅で、筏同士が競っている。全部で10チームくらいはあるだろうか。アルレッキーナたちが流れに沿って岸辺の道をしばらく下ると、沿岸に見物客も見えてきた。曲線をいかに有利に通るかが技量の見せ所らしく、巧みな竿捌きや素早い進路変更に歓声が上がる。
吹き抜ける
風さえも
草を分け
地を駆け抜けて
岩を打ち
走り去り
水面にも
逆巻き踊るよ楽しく
きついカーブを抜けると、川幅を生かして直線を狙う。乗り手の眉がきりりと上がり、目つきも一際真剣になる。
丸太を運ぶときには材木の町バーキムまで下るのだが、今日はどう見ても競技である。筏下りのお祭りだ。ゴールと思しき場所には、臨時の船着場が作ってあった。
船着場にはカラフルな布で飾りつけられたゲートも建つ。土手の上に並ぶのは、この地方の特産品だ。端材を利用した小さな木彫りの動物や、木の皮を貼り付けたトレイ、木でできたアクセサリー類が見栄え良く並んでいる。
草原に自生するオイルシードグラスという植物の油は、加熱するとさわやかな草原の香りがする。その油で焼いた川魚は、そのままで充分に美味しい。だが、刻んだナッツや薬草と共に焼くと、噛むたびに芳しく、またカリカリと砕ける音も楽しめる。小さく切った塩漬けのレモンを添えるのも人気だ。
川沿いをそのまま行けば河口も近いバーキムに着く。街道へと続く別れ道を内陸に進めば、羊の煮込みで有名な肉の町ラグシへと導かれる。アルレッキーナたち3人が目指している町だ。ラグシに行くなら、今一行がいる場所からだと一泊は野宿をしなくてはならない。
目の前に見えているお祭りで腹ごしらえをするのも良い考えだ。
「寄って行かない?」
アルレッキーナの提案に、リッターとサッジも賛成した。
「いいね」
「急ぐ旅でもないし?」
そうと決まれば足取りも軽い。魚を焼くオイルシードグラス油の香りが漂ってきた。お祭り屋台はすぐそこだ。
「川魚のナッツ焼きが食べたいな」
「バーキムの名物だそうだな」
「それは外せないよねぇ」
アルレッキーナたちを追い越して、競技の筏が川面を滑ってゆく。人里にも近いこの辺りでは、流れも次第に緩やかになる。所々に大岩が見えている以外にこれといった障害物もない。屋台より少し下流には中州島があって、バーキム周辺に住む人たちの遠足スポットになっていた。祭りの間、そちらにも屋台が並ぶ。
「あっちにも渡ってみない?」
サッジは祭りを楽しむ気まんまんだ。
「そうだな。食事だけというのも味気ない」
「うん。全部見よう!」
話しているうちに、一等の筏がゴールする。人々の歓声が澄み渡る秋空に響く。ゴールの先に筏を進めて陸に上がった優勝チームは、ひとまず飲み物を受け取って汗を拭いていた。
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