1•川沿いの道
1話1000字程度、全7話。
R3/10/23 5:00〜11:00に予約投稿です。
※この物語はフィクションであり、作中の土地、人、食べ物や動植物は総て架空の存在です。
秋も深まる草原を3人の若者が歩いてゆく。旅の途中で偶然出会い、気が合ったので連れ立っている。
片手笛を持つ腕に太鼓をかけて愉快なリズムを響かせるのは、くすんだ金髪の少女だ。彼女の名前はアルレッキーナ•ブフォン。旅芸人の少女である。
さても愉快な 道連れは
笛と太鼓の 音に浮かれ
緑輝く 草原の道
さざなみ揺れる 湖の畔
細い金属の笛は三ツ孔だ。三本指を踊らせながら、息の強さで音程を決める。笛を挟んで支えていた薬指で時折ベルを半分ふさぐ。
見上げる空の 雲白く
小鳥の歌は 枝えだに
辿る旅路は 終わりなく
行先決めずに 歌いゆく
少女の灰色がかった金髪は肩先でふたつ結びにされている。いきいきとした瞳は、草原の色を映して煌めく。
袖、裾、襟ぐりには葉っぱの連続模様が刺繍されたチュニックが、風を含んで僅かに膨らむ。袖口の広いゆったりとした袖は、アルレッキーナのあやつるバチの動きと共にはためいた。
つば広の道中帽子は茶色い革に花柄が焼きで入っている。足元を見れば、緑のブーツに繊細な花柄が描かれていた。低い踵で草を踏み、轍の間を縫って踊るように進む。
さても愉快な 道連れは
笛と太鼓の 音に浮かれ
昼なお闇き 森の奥
雲つく山の 峠道
アルレッキーナの笛と太鼓に合わせて、ロープ姿の小柄な少年と大柄な青年が歌を歌う。
流れる川の 誘うまま
囁く風の 吹くままに
辿る旅路は 終わりなく
行先決めずに 歌いゆく
傍をゆったりと流れる幅広の川に似た薄青色の細目をした小柄な少年は、歌の上手な魔法使いだ。奇跡の美声を持つ彼の名は、サッジ•ストレゴーネ。
歌えなければ魔法は使えないが、美声も技巧も表現力も全く関係ない。魔法を使う為だけならば、歌が下手でも大丈夫なのだ。しかしサッジは純粋に歌の申し子であり、また歌うのがすきだった。
大柄な剣士はリッター•ヴァンダーシャフト。サッジに合わせる低音が魅力的だ。彼も芸人ではなくて、武者修行中の貧乏剣士である。貧乏なのに気前が良いので、ちっともお金は貯まらない。
リッターは短いブリュネットにスミレの目。若いながらに鍛え上げた体躯で威圧する。誠実そうな顔立ちだが、流れ者特有の隙がない目つきで周囲を警戒している。
3人が歩く川沿いは、秋の草花が濃い色合いを揺らしている。上流から力強い歌が聞こえてきた。やがて山の奥から切り出した丸太を組んだ筏を操る若い衆が見えてくる。
筏は乗り物ではなく、材木の運搬手段だ。手頃な太さの丸太を数本並べて魔法で強化した縄で繋ぐ。筏乗りは、下流の町に住む材木問屋の若い衆である。木こりから直に買い付けて運送業者を通さずに運ぶ。
川は特に整備されず、山から流れ出して森を抜け草原を走る。水は金色に輝きながら互いに追いかけ合い海を目指す。
筏乗りが景気付けに声を張る。漕ぎ手のリズムを乱さないように、アルレッキーナたちは演奏をやめた。
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