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「…え、えっ!?」
「なん、そんな」
「先頃亡くなったと…」
「やはりジツィー様によく似ていらっしゃる」
「大きくなられたな…」
王城に入るなり、様々な声が耳に入る。
今は須藤君たちクロマンス王国一行が先頭となって歩いているが、視線は一様に俺に注がれているようだ。
そりゃ修道院に預けられたまま帰って来ない第一王女ってだけでも目立つのに、さらに死んだはずが生きているのだ。
気にするなと言う方が無理である。
だからちらりと何気なく声の方を向いたら全員が明後日の方向を向いたことなんか気にしない。
そんな腫物みたいに扱わなくたって、なんて思ってない。
思ってないったら。
「あ、テメェ、バッシル!!」
すると廊下の奥からとてとてと駆けてきたちびっこがバッシルを指差しながら名前を呼んだ。
すっとぼけるわけではないが、彼がバッシルに知ったかぶりを指摘された第二王子だろうか?
彼の投獄理由に出てくるだけで何の設定もしてなかったし、修道院にいたから顔はおろかガイルという名前と9歳くらいだったことしか知らないので確信は持てない。
「なんでこんなとこにいやがんだよ!お母様に言いつけて監獄島送りにしたのに!」
彼は地団太を踏んで喚き散らす。
どうやら推測は間違っていなかったらしいが、ではどう対処すればよいかと迷っていると、
「ガイル、恥ずかしいからやめて。今はルイス王子とお姉様もいらっしゃるのよ?」
彼の後ろから同じくらいの歳の少女が現れた。
扇を持って佇む様は小さいながら淑女と言えなくもない。
「ティアナ!邪魔すんな!」
「邪魔したんじゃなくて、やめるように言ったのよ。姉の言うことは聞きなさい」
「ああ?双子に姉も弟もねぇよ!」
「……あんたって、やっぱり救えないほどの馬鹿ね。グウェンの方がまだマシだわ」
「なんだと!?」
第二王女と同じ名前で呼ばれた少女とガイルは周りを置いてけぼりに舌戦を繰り広げるが、なんというか、頭の出来が雲泥の差のような気がする。
はて、何故そんなことに。
ちなみにグウェンというのは今年6歳になる第三王子だったはずだ。
「ティアナ様、仕方ないですよ」
「バッシル先生、でも」
「いいんです」
首を傾げているとバッシルがティアナに話しかける。
2人は本人たちの言う通り双子で同じ学園の同じクラスに在籍しているはずなので、ガイルに教えていたということは同時にティアナにも教えていたことになる。
だから顔見知りでも不思議ではないし、先生と呼ばれていても当たり前なのだが。
ごめんバッシル、違和感凄くて、こんな時なのにめっちゃ笑える。
見回した他の面々、特にハーピスとグランプなんかも肩が震えているので俺と同じように笑いを堪えているのだろう。
なのに。
「だってカタツムリの殻を外したらナメクジになるって大声で吹聴するような馬鹿ですよ?相手にするだけ無駄でしょ?」
「「「ぶっふう!!」」」
バッシルったらなんてネタをぶっ込んでくれるんだ。
お陰で俺とハーピスとグランプが吹いたじゃないか。
せっかく必死に耐えてたのに!
「笑うなー!!」
笑われたガイルが顔を赤くしながら怒鳴るが、そのせいで余計に笑った。
「先生たちはお母様のところへ向かっているのですよね?私もご一緒して構いませんか?」
ややして笑いが治まった頃、ティアナが途中まではバッシルを、途中からは俺を見ながらそんなことを言い出した。
正直何が起こるかわからない場所へ子供を連れて行くことは気が引けたが、
「私がいれば少しはお母様への牽制に使えるかもしれませんよ?」
とロイヤルスマイルで押し切ってきた。
この子、本当に9歳か!?
すでに大人と対等かそれ以上に会話できるだけの能力を持っている気がしてならない。
「お、じゃあ俺も行こ。何しに行くか知らねーけど」
そこにへらへらと調子よく笑いながらガイルも同行すると宣言してきた。
その言い方からはこちらがどんなに駄目だと言おうと勝手についてくる気満々と言う様子がありありと窺える。
この子は本当に9歳だなぁ。
いっそ微笑ましくて、俺はつい彼の頭を撫でてしまったのだった。
読了ありがとうございました。