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「ねえ、ネージュ、ジュン…ネージュン」
「いや混ぜんなし」
相変わらずどこかズレている須藤君との会話がひと段落したところで今度はハーピスが口を開いた。
一応変に混ぜられた名前には「ネージュでいいよ」と言い添える。
「じゃあネージュ、あんたって男なの?」
ハーピスはじっと俺を見つめる。
そこに込められた感情がなんなのか読み取れず戸惑いつつも俺はそれを肯定する。
「そうだな。身体であるネージュは女だけど、心ってか人格である三根純は男だ」
生物学上で言われれば女だが、自分の認識では男であると。
「ふーん、そっか」
ハーピスはその答えを聞いてしばしの間顎に手を当てて何事か考え始めた。
どうしたのだろうと思ったが、
「ねえ三根さん、貴方はいつ頃前世を思い出したんですか?」
と、須藤君が質問してきたので「ゲーム開始時だよ。監獄島に行くその日の朝」と答える。
「えー!けっこう前ですね、僕はさっきも言った通りつい最近で…」
「この世界に転生した理由についてはおじさんの神様が…」
「僕は三根さんが亡くなった後に事故で…」
「目指してたのは大団円ルートだったんだけど、ちょっと無理で今は…」
「え?それって僕と結婚したいっていう…」
「いや、俺は生涯独身を貫くつもりで…」
それからハーピスが喋らないから須藤君と今までのことや前世のこと、今後の予定を話していたら
「よしっ、問題ないね」
突然ハーピスがポンと手を叩き声を上げる。
「え?なにが?」
俺は彼の発言の意味がわからず、横に立つハーピスに視線を戻した。
彼はにまっと笑うと徐に髪を掻き上げ、
「心が男でも身体が女なら問題ないなって話」
と呟いて笑みを深くした。
「え?結局どういう…」
「なんでかよくわかんないけど、エルフ族の秘匿事項まで知っている奴をこのまま放っておけると思う?こういう時は口封じか娶るかになるのがお約束でしょ?で、俺はあんたを気に入ってるから、俺がもらえば問題ないなって」
俺の言葉を遮って言いながら顔を近づけてくる彼の行動に、何故警戒心が働かなかったのか。
多分彼が言っていることの意味を理解することだけで精いっぱいだったのだ。
気がつくと頬に温かく柔らかなものが当たっていた。
「んなぁっ!?」
「へぁ!?」
猫のような須藤君の声と間抜けな俺の声が重なる。
すでに離れたはずなのに、まだそこに熱があるような気がして、俺は思わずそこを押さえた。
須藤君は「な、なにを、み、三根さんが、け、けが、汚され、三根さんの、純潔がー!!」などと意味不明なことを喚いている。
「ってことでネージュ。これが終わったらエルフの国に行こうね」
嫌だって言っても無理やり連れて行くから。
外野の騒ぎなどものともせず、人差し指一本で俺の顎を持ち上げ視線を合わせさせたハーピスは、それはもう凄絶な色香を放っており、俺は本能的に逃げられないと悟った。
読了ありがとうございました。




