42
今話はハーピス視点となります。
王子がネージュに触った。
拙いと思ってネージュを見てみれば。
あんたなんで目ぇ開けてんだー!?
馬鹿なの!?
今バレたら全部終わっちゃうだろ!?
焦る俺の思いが伝わったのか、一瞬目が合った彼女はすぐに瞼を閉じた。
全く、と息を吐いた俺は少し上がった心拍を戻そうともう一度息を吸う。
それを吐こうとしたところで、
「はい」
ピラリと王子が見せてきた紙に書かれた文字を見て吐くはずだった息を吹いた。
なんせそこには
『ネージュは生きているんですね。安心しました』
という文字が書かれていたのだから。
「なっ…」
思わず『何故』と問いそうになったが、既のところで口を閉じる。
だが俺の言いたいことは王子に伝わったようで、彼はにこっと笑いながら机の上を指差す。
そこには先ほどバッシルに説明した紙があった。
「入り口からそれが見えたので」
「マジで!?」
だから内容を読んでこの状況を理解していると、そう言いたいのか?
どんな視力してんだこの王子!?
横にいたドクトとバッシルも王子の行動を見ていたから状況を正しく理解したようで、俺と同じく驚いた顔をしている。
特にさっき王族殺しの犯人だと言われたドクトはがくっと項垂れている。
きっと安心したのだろうと俺はその肩をドーパからは見えないように軽く叩いた。
だが問題はそのドーパと王子のお付きたちだ。
彼らにまで説明をするのは容易ではない。
「ねえ殿下。お願いがあるんだけど」
すると今回は何かを考えているのかよくわからないバッシルが再度口を開く。
「何ですか?」
王子は彼の方を向き首を傾げる。
にしても囚人がため口で王子が敬語って、いいのか?
王子本人が気にしてないみたいだからいいの、か?
「ネージュとドクトの移送、お願いできないかな」
バッシルはネージュとドクトを指差すと王子にそんなことを言い出した。
「ついでに俺たちも。監視役の修道女がいないのに囚人だけ残るわけにはいかないと思うし、事情聴取なんかもあるはずでしょ?そっちには護衛もいるし、俺たちは手錠付きでいいからさ」
バッシルはそう続けると「無理かな?」と王子を見る。
他国の王族が乗る船に囚人の同行などできるはずがない。
だからそんな願い出は却下されるだろう。
誰もがそう思っていた。
「あ、それいいですね。そうしましょう」
だがこの王子は思わなかったらしい。
まあ、こちらの事情も全て承知の上なのだからそれでもいいと思うが、不用心過ぎやしないだろうか。
「殿下、何を仰ってるんですか!」
「他国の王族殺害事件になど関わってはなりませぬ!」
当然お付きもそう思うだろう、案の定猛反対の構えだ。
しかし悲しいかな、臣下は主に逆らえない。
「船には余裕があるし、3時間程度問題ないでしょう。それとも、うちの国の兵士は囚人に負けちゃうんですか?」
にっこりと、有無を言わさぬロイヤルスマイルで押し通してしまった。
読了ありがとうございました。