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※今話はハーピス視点となります。

「ドクト、ハーピス、今の、どういう意味?」

ゆらりと幽鬼のような足取りで一歩踏み出したバッシルは、俺に抱えられたネージュを見る。

慌てて俺も視線を転じれば、ネージュは咄嗟に目を瞑ったのか、綺麗な寝顔がそこにあった。

「バッシル、あの、これには訳が…」

ドクトは状況を説明しようとしたが、ここは盗聴範囲内であるためそれは叶わない。

「訳?訳って何?なんか妹が殺されるとかなんとか聞こえたけど、それが訳?」

だから事情を知らないバッシルは目を据わらせたままドクトに詰め寄る。

「あんた医者だよね?命を救うべき医者が、妹可愛さにネージュを殺したの?何の罪もない、どころか俺たちの恩人を救ってくれたネージュを、暗殺者から助けたあんたが殺すの!?」

自分の胸元よりも高い位置にあるドクトの胸倉を掴み、ガクガクと揺さぶりながら普段の無口が嘘のようによく喋った。

「今殺すなら、何であの時助けたんだよ!!」

そしてその目元ではネージュが倒れた日にも見た煌きがあり、それは照りつける太陽の光を受けてあの日よりも一層の輝きを放っていた。

ネージュが「ふふ、バッシルって意外と泣き虫さんなんですね」と淡く笑っていた光景をなんとなく思い出す。

年下のはずの彼女の姉のような顔と、照れながらもそれを嬉しいと感じていることが窺えたバッシルの顔を。

俺は次第に力を失い砂地に膝をつく彼を見て、ああ、バッシルはネージュが好きだったんだなと唐突に思った。

それが恋情か親愛かまではわからないが、そう理解した時、俺はもう一つ気がついた。

彼がネージュに向ける感情と、自分が彼女に向ける感情は酷く似ている、と。

そう気がついてしまった。

あの時に、もう二度と大切なものは作らないと決めていたのに。


「バッシル、とりあえず一旦落ち着こう」

俺は懐から術式が書かれた紙を2枚取り出すと、「クリーン、キープ」と続けてそれを発動させた。

「クリーンは洗浄の魔法、キープは状態を保持する魔法だ。これならしばらく綺麗なまま保てるから、一度施設に戻ろう」

実際ネージュは生きているのでキープは必要ないのだが、生きている人間に掛けて害のある魔法ではないので、ポーズとして発動させておいた。

「今ここで話をしても、施設に帰ってから話をしても結果は変わらない。なら、一度頭を冷やすために時間を置こう」

な?と俺はバッシルに笑いかける。

だが、それがよくなかった。

「…なんでハーピスはそんなに冷静なの?」

ドクトへ向いていた矛先が、今度は俺へと向いてしまった。

やばい、なんとかして落ち着かせないと、俺のことまで敵認定しそうな雰囲気だ。

「冷静なわけじゃないよ。ただ自分より冷静じゃない奴を見ると逆に落ち着いてくるってだけ」

そう言って俺はこれ以上話を続けられないように懐から陣を取り出しながら立ち上がると「レビテーション」と浮遊魔法を唱えた。

ネージュには申し訳ないが、俺は人ひとり抱えて長距離(施設までは100mあるかないかくらいだが)を移動するのは無理だから、魔法で運ばせてもらう。

ネージュを殺したことになっているドクトには頼めないし、バッシルも俺と同じだろうから、今はこれしか方法がないのだ。

「皆にも話さなきゃいけないけど、とりあえず3人だけでネージュの部屋で話そう」

俺はそう言い、バッシルに見えないようにドクトの背を軽く叩いた。

読了ありがとうございました。

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