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「確認もすみましたし、このまま施設に戻りましょう」

ここから作戦の第三段階だと確認の意を込めて俺は2人を見る。

時刻は11時半ばくらいか。

天頂に至っていないながらも光り輝く太陽はギラギラとした陽光を浴びせてくる。

「そーだね。もっかい術式練り直さなきゃいけないし」

ハーピスはいつも通り飄々と頭の上で手を組みながら口を尖らせる。

例え相手に見えなくても仕草込みで演技をした方がリアリティが出るのだろう。

その声音は実につまらなそうだ。

「ではハーピスは前を警戒してください。私は殿を務めましょう」

ドクトは顔を緊張で強張らせているが、俺を見ると胸元の拳にぐっと力を込めて真っ直ぐ前を見つめた。

緊張感は大事だが、緊張のし過ぎで動けないとなると目も当てられない。

けれど彼はちょうどいい緊張感を保っていられているようだ。

死ぬだけの俺がこの中では一番気楽にしていられるが、その俺のせいで計画が台無しにならないよう、俺は改めて気合を入れた。


「ドクト、そっち行ったよ!」

帰ろうとしていた俺たちの前にタイミングよく現れたのは無効化すら持っていない弱い魔物だった。

これ幸いと俺たちは魔物と戦い、その後ドクトに俺を殺させる隙を作る。

「はっ!」

気合の息を吐きながらドクトは自身に向かってきた魔物を一刀のもとに切り捨てた。

そのまま魔物から目を離さず、万一のことがないようにと死体が完全に消えるまでそれを見つめていた。

「お疲れ様でした。流石ですね」

俺はそう言いながら消える魔物を見つめるドクトのもとへ小走りで向かう。

これからのことを考えて逸る心臓の鼓動を感じながら、俺はドクトの前まで来ると小さく息を吸った。

緊張で浅くなってしまった呼吸を補うためだ。

そして目が合ったドクトに大丈夫だと伝えるように再度息を吸ってから頷けば、彼も頷きを返す。

「いえ、弱いと思って油断してしまいました。少し手を切ってしまったようで」

ほら、とドクトが俺に手を見せる。

そこにはもちろん傷なんて微塵もない。

「え?本当ですか?ちょっと手を見せてください」

けれど彼に近づくために俺はその手を取った。

「どれどれ…。んー…?傷なんてどこにも」

ないですよと俺が言うのと同時に、

「ネージュ、すみません」

そう言ってドクトが俺の背後の砂地に剣を突き刺した。

「……ぁっ」

俺はその音に合わせて小さく声を漏らすと、その場に膝から崩れ落ちる。

思ったより声が出なかったが、盗聴装置は無事に声を拾ってくれるだろうか。

「ネージュ!ドクト、一体、何を…!?」

そしてハーピスは俺に駆け寄り、上半身を抱きかかえるように支えながらドクトを見る。

…おいこら、今小さい声で「重っ…」って言ったろ!?

ネージュは守りたくなるような華奢な体つきのはずなんだから、俺が重いんじゃなくてお前が非力なんだよ!!

俺はギロリとハーピスを睨むが生憎ドクトの方を向いていたため、その顔を見せることはできなかった。

「仕方なかったんです!こうしないと妹が、ナナリーが、殺されてしまう…!!」

「なっ、一体、どういう…!?」

俺がそんなことをしている間にも2人はちゃんと演技を続けていた。

今は演劇で言うなら山場であり、ドクトもハーピスも中々真に迫った掛け合いをしているので、こんなことで邪魔は出来ない。

しょうがないからハーピスの発言についてはひとまず置いておこう。

「そうだ!ポーションを…」

真面目に演技を続けているハーピスはそう言って出す気もないポーションを懐から取り出そうとガサゴソ音を立てるが、

「…無駄です。正確に心臓を刺し貫いたんですから、ここに常備している程度のポーションでは間に合いませんよ」

というドクトの言葉に動きを止め、その手を力なく砂地に下ろす。

「そんな…」

ハーピスがそう言って悲嘆にくれたような声を出した時、予想外且つ中々面倒な事態が起きた。

「……どういうこと?」

偶然通りかかったバッシルにドクトの発言を聞かれてしまったのだ。

読了ありがとうございました。

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