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返事をすぐに聞くにはドクトの頭と気持ちの整理がついていないだろうと、2日後の夜にまたここで落ち合う約束をして俺は先に施設に帰った。

一応盗聴器の存在を教えたが、やはりというべきかドクトは既にその存在を知っていた。

というのも彼はそれを側妃への報告に利用していたからだ。

部屋で伝えたいことを呟けばいいだけの簡単な報告は、しかし嘘も誤魔化しも一切通用しない、妹の死と隣り合わせの独り言。

どれほど彼の神経を削っていたことだろう。

思い出すのが遅くて、本当に申し訳なかった。

これで彼の心労が少しでも減ればよかったのだが、事はそう上手くは運ばない。


翌日。

週に1回の補給日であるその日、ドクトには手紙が届けられた。

今までもドクトには妹から手紙が届いていたし、グランプには下級騎士団の仲間から、ドーパには親方から手紙が届くことがあったので、それは別段珍しいことではない。

しかし、差出人欄を見た瞬間、ドクトの顔が強張ったのを俺は見逃さなかった。

ドクトに届いた封筒の差出人欄は空白。

それは妹からではない、別の誰かからの手紙だということ。

そしてドクトに頻繁に手紙を届ける人物は、もう1人しかいない。


そしてさらに翌日。

約束のその日、俺はハーピスと共にドクトを待った。

昨日のうちにハーピスにはドクトとのことを説明しているので、今は他愛のない会話をぽつぽつと話すだけだったが、そうして時間を潰している間にドクトがこちらに歩いてくるのが見える。

「あ、ドクトが来ましたよ」

俺はそれをハーピスに伝えたが、近づいてくる彼の顔色が随分と悪いことに気がついた。

一昨日の夜と比べても遜色ないほどのそれは、彼の目の下にあるクマのせいでさらに酷く感じる。

「お待たせして、申し訳ありません」

ドクトは開口一番に遅くなったことを詫びてきたが、その声にも覇気が全くなかった。

幼子が親とはぐれて見知らぬ土地に取り残された時のように不安と焦燥が胸を占めているような、そんな声だと思った。

「いえ、それは構いませんが、一体どうしたのです?」

俺は彼の謝罪に対し気にしていないことを伝えたが、同時に彼の身に何が起こったかを問う。

彼の憔悴の原因は恐らく昨日届いた手紙だと思われるが、俺は内容を知らないので彼に説明してもらう他ない。

そう思って彼からの説明を待っていると、

「あの、その前に、どうしてハーピスがここにいるのでしょうか」

彼はこの場にいたもう1人の存在を気にした。

そう言えばドクトにハーピスの説明を何もしていなかった。

「そうでした。実はハーピスは対側妃においては私の味方なのです」

俺はハーピスの事情については説明せず、ただ単に味方である旨を告げるにとどめた。

彼の許可なく彼の素性を明かすことはできないし、こちらに味方すると明言していないドクトに言うことはできないと思ったからだ。

「まあ俺はネージュのおまけみたいなものだから、そんなに気にしないで。それよりドクトの話をしてよ」

ハーピスはあっけらかんとした様子で手を振ると、さりげなく話をドクトのことへと戻す。

ごく自然なその手腕に俺は舌を巻く思いだ。

ほんと、こいつが味方についてくれてよかったよ。

「はい、実は…」

そう言ってドクトは俺たちに封筒を見せる。

「昨日これが側妃様から届きまして」

そして中から手紙を取り出すと、それを俺に差し出した。

「こちら、読んでも?」

そういう意図で差し出したのだろうと確認をすると、ドクトはこくりと力なく頷く。

それは頷いたというよりも、重力に首の力が負けて頭が下がったような印象を与えた。

「では、失礼しますね…」

彼をそこまで落ち込ませた内容は一体どんなものなのか。

俺は幾何かの緊張と共に折りたたまれていたそれを開いた。

読了ありがとうございました。

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