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「ここまで来ればもう大丈夫。喋っていいですよ」

ずんずんと結構な勢いで歩く俺に文句も言わずついてきたドクトは、振り返った俺に一瞬びくっと肩を竦めた。

まあ、目に見えて機嫌が悪い人間に対した時にそうなるのを咎められはしないが、往々にしてそういう態度は相手の機嫌をさらに悪化させる。

まるで俺がいじめているみたいじゃないかと。

「そんなに怯えなくてもいいじゃないですか?それとも、寝ている女は怖くなくても、起きて扉をぶつけてくるような女は怖いんですか?」

だからつい苛立ちに任せてきつい言葉をぶつけてしまう。

後から思えばそんな女怖いに決まっているが、今は肯定されようものならさらに倍の暴言を吐く自信がある。

幸いにもドクトは「いえ、すみません…」と消え入るような声ではあったが謝罪を返したので、俺の暴言は続かなかった。

ありがとう、お陰でこれ以上の黒歴史にならずに済んだよ。

「では時間も時間なのでさっさと本題に入りますがよろしいですか?」

しかし苛つきが収まったわけではないので、まだ俺の言葉には棘が生えたままだ。

ドクトがそれに青い顔のまま頷くのを確認し、再度口を開く。

「単刀直入に言います。ナナリーさんの命を救う手助けをするので、私の命を狙うのを止めてください」

その言葉に、元々青かった顔が蒼白に変わっていくのを俺は黙って見つめていた。


「……何故貴女はそのことを…?」

ややして多少の血色は戻ったものの、まだ青白い顔のドクトは消え入るような声で小さく問うた。

今頃彼の頭の中は「何故気づかれたのか」「何故知っているのか」「側妃に知られればナナリーの命が危ない」「ネージュを信じていいのか」あたりの疑問が渦巻いていることだろう。

その疑問の答えにドクトが辿り着くことはできないが、なまじ頭が良いだけに自分のミスで妹を窮地に追いやった可能性を考えてしまうはずだ。

そうではないと説明するのは簡単だが難しいので、俺はこの世界に沿ったことだけを彼に伝える。

「それに答える前に確認ですが、貴方は何故私が側妃に命を狙われているのか、その理由をご存知ですか?」

そのためにはまず事実確認が必要なので、俺はドクトがどの程度まで事情を把握しているのか尋ねた。

「いえ、特に説明は受けていません。ただ貴女を始末しないと妹を殺すと脅されて…」

するとドクトは頭を抱え、ほとんど何も知らないということを告げた。

それはゲームと同じだったので、ならば彼への説明は当初の予定通りで問題ないと判断する。

下手に事情を知っていて説明がややこしくなるよりは、全く知らない方がよほどいい。

「なるほど。では私が今は亡き正妃の子であることも、それを邪魔に思っている側妃に命を狙われているということもご存知ないと。そういうことですね?」

俺は一つ息を吐くと、自分の生い立ちと側妃との関係性を簡潔に言う。

言い方がちょっと嫌味たらしく威圧的だった気もするが、とりあえず大事なことは伝えた。

そして告げられたドクトはと言えば、一度戻った顔色を再び蒼白にさせてへたり込み、ガクガクと震える自身を掻き抱きながら俺を見上げた。

「お、王族…?本当に貴女は、王族だというのですか!?ならば私のしたことは、貴女を害そうとしたことは…」

王族殺しは大罪。

それこそ現在のドクトの罪とは比べ物にならない。

確実に妹どころか一族郎党が断頭台に送られるほどの罪。

妹を人質に、側妃はそんな大罪を何も知らない自分に犯させようとしていたなんて。

「はっ!?ということは、まさか…」

ドクトは俺の言葉からあることに気がつく。

それは側妃の狙い。

「はい。恐らく側妃は私こと第一王女殺害の罪を貴方に全て着せ、邪魔者も証拠も全てを無くして安穏と暮らす予定なのでしょう」

ドクトも気がついたそれを俺は言葉にする。

ああ、それはなんと卑劣な考えだろう。

だけどそれを考えたのは、側妃という人間にそうさせたのは、前世の俺だ。

口に出したことで強くその事実を自覚したら、ドクトへの苛立ちが自分への苛立ちへと変わっていく。

側妃の狙いを伝えてドクトを説得しようと思った時、そのことを頭では理解していたのに。

なのにいざ本人に伝えてみれば、なんてことはない、どう言い繕ったところでそれは俺の罪に対する言い訳でしかなかった。

彼にしようとしたことを思えば、たかだか4日の睡眠不足くらいで怒ることなどしてはいけなかったのに。

俺は本当に狭量で自分勝手で、誰にも優しくなんてできない人間なんだ。

神様おじさんは俺のことを優しすぎるって言ったけど、全然そんなことはない。

優しくないから、優しくあろうとしているだけ。

けれど本質は優しくないから、ふとした時にそれが露見して、それに気がついて自己嫌悪して。

でもそれも自己満足以外の何物でもなくて。

本当にどうしようもない人間だ。

しかし今それを反省している時間はない。

俺は拳を握り自分を奮い立たせると、ドクトの目を見つめる。

「側妃は貴方を利用して捨てる気です。彼女の味方に付いても貴方にはなんの益もない。だから、私の味方になってください」

読了ありがとうございました。

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