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「あ、そういえば先日これを海岸で拾ったのですが」

無事見回り組に同行できることになった俺は、皆が揃っているこの機会にもう一つの用事も片付けることにした。

1週間ほど存在を忘れていたが、なんとなく見覚えがあったそれも、もしかしたら何かに役立つフラグかもしれないからだ。

「この金色のピアス、どなたのでしょうか」

ポケットから取り出したそれはころりと手の中で転がる。

揺れるそれを見た双子は「「あっ!」」と揃って声を上げた。

「それ、ドクトのじゃない?」

「前に見せてもらったやつかも!」

きゃっきゃとはしゃぐ2人の声に、俺から離れていたドクトが慌てて近寄ってくる。

何故だろう。

何でもないはずの、たったそれだけのことが嫌に頭の隅に引っ掛かった。

「本当だ。それ、探していたんですよ。普段はチェーンに下げていたので、ピアスだってことを忘れていました」

ドクトはそれを受け取ると、自分で言っていたように首に下げていたチェーンに通した。

ピアスはリング状だったので、そうするとまるで指輪を通したように見える。

彼の胸元に光るそれを見て、また何かが頭を過る。

ドクトのネックレスの指輪…?

俺は何かを思い出しかけた。

何だろう、忘れてはいけないことだった気がする。

悩む俺の前でドクトは「ありがとうございます」と頭を下げた。

「危うく妹に怒られるところでしたよ」

安心したようにそう言いながら、ふふ、と苦笑する彼に兄としての姿を見た。

そのお陰で先ほどまでの言い争っていた気まずさはなくなったように思う。

なのに俺の中では小さな焦燥がなくならない。

「見つかってよかったねー」

「なっちゃんと半分こなんだっけ?」

ピアスを握りしめながら胸を撫で下ろすドクトに双子が左右から笑いかける。

「ええ、妹と片方ずつ持っている、とても大切な物なんです」

双子の言葉に、ぎゅっとそれを握るドクトは照れたように笑った。

どうやら2人が言っている『なっちゃん』とは、ドクトの妹のことらしい。

ところで、双子の語り口からは伝聞で聞いたのではない、実際の知り合いであるという様子が窺えるのだが、何故2人はドクトの妹のことを知っているのだろうか。

恐らくそこがこの引っ掛かりを解くカギだ。

思い出せ、思い出せ…。

「お前らドクトの妹と知り合いなのか?」

引っ掛かりを解こうと奮闘するあまり本人に聞けばいいという至極簡単なことを忘れていた俺の代わりに(という認識は本人にないだろうが)グランプが3人に問う。

グランプ、ナイス!と心の中で彼に賛辞を送っていると、

「うん。なっちゃんはお城でメイドさんしてるの」

「僕たちにお菓子とかくれたんだよー」

という肯定が返ってきた。

「確かもう少しで側妃付になるって言ってたよ。侍女に格上げだって喜んでたねー」

「まあ、それを見届ける前に僕たちはここに来たから、今どうなのかはわかんないけど」

ドクトの妹との会話を思い出し、「「ねー」」と顔を見合わせて笑い合う姿は本当に天使のようで愛らしいのに。

今はそれに癒されることができない。


お、思い出したー!!!

これ、王子イベントの隠しフラグだ!!

ドクトのネックレスの話題から始まるイベント『ドクトの妹』というタイトルのそれは、通常ではルートイベントでもなければフラグイベントですらない、日常会話のイベントだ。

発生条件は『海岸に落ちているピアスを拾うこと』と『双子のどちらかが非番、どちらかがドクトとペアで掃除当番』であること。

その状態でドクトに話しかけると、暇だということで手伝いに来た非番の双子と3人で廊下の掃除をしているところに出くわし、その際ドクトにピアスのことを尋ねると自分のものだと教えられるので返却する。

それを見た双子が「それなーに?」「結婚指輪?」と質問すると、ネックレスに下げられているそれが指輪ではなく一対のリングピアスを妹と片方ずつ分けたものであることと、その妹が今は王城でメイドをしていることが説明される。

そして「妹のナナリーもきっと今頃同じように王城の掃除をしているのでしょうね」と言うドクトのセリフでこのイベントは終了するのだ。

なお、他にも妹がいるという話を聞けるイベントはあるが、王城で働いていることを知れるのはこのイベントのみである。

さて、この日常会話でしかないイベント、先にも言ったように実はとんでもない伏線になっている。

ゲーム序盤でほぼ強制的に入るイベントなので意識されていないが、この妹の存在が王子ルートではえげつない方法で活かされていた。

『王子ルートでは何か一癖ほしいな』というチーフの呟きにより生まれたその設定。

他のルートでは一切明かされない秘密。

『ピアス』と『妹が王城で働くメイドだという話を聞く』という2つを揃えて、初めて活きるフラグ。

それを思い出した俺の背に冷や汗が流れる。

ああ、なんてことだ。




ドクトは、俺の敵だったのだ。

読了ありがとうございました。

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