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俺の言葉を聞いて、今度はハーピスが動揺する。

「…あっさり白状したね」

ぽりぽりと項を掻きながら気まずげな顔をする彼に、思わず俺は笑ってしまった。

「私に不利益はありませんから」

「そりゃそうだろうけどさ…」

それが意外だったのか、ハーピスはまだ調子を取り戻せない。

「実は私、王女だったんです」

「……は?」

「もちろん側妃ではなく亡くなった正妃の子です。私が3歳の頃母が亡くなり、その後側妃の策略で私は修道院に預けられました。私は修道女となりましたけど、彼女はどんな形であれ私が生きていることを良しとしないのでしょう。だから今回の襲撃も側妃が行ったことです」

一息に言いきると俺は隣のハーピスを見て、信じられませんか?と目で彼に訊ねる。

感情のなかった彼の目に、今は次々と感情の揺らぎが流れていく。

そしてそれは散々迷いながら、ある色を映したところで固定された。

「わかった。信じるよ」

真冬の早朝のような、澄み切った透明な色のそれは彼が俺を信じてくれたことを示していた。

よかった。

ここで彼を味方につけられるのは非常に大きい。

何故なら彼は、

「側妃があんたの敵だと言うのなら、俺はあんたの味方だよ。俺に嘘を吐かない限り、精霊樹と偉大なるエルフの王レイフェルドの名に懸けて、今後俺はネージュの手助けをすると宣誓する」

側妃の命令により一族のほとんどを奴隷として捕らえられた悲劇の一族、エルフ族の一員なのだから。

けれどそれは裏設定であり、ゲーム内では全く触れられていない。

その設定もこの世界に反映されている可能性があるとは思っていたが、ここで明かされたことに対しては意外に思った。

虐げられてきたエルフ族は、自分たちがエルフ族であるとは決して明かさないはずだから。

「それは、私に明かしてしまってもよかったんですか?」

だから俺は問うた。

彼らにとってそれは古傷を抉るに等しい行為であり、ハーピスにとってもそれは同じであるはずなのにと。

「ああ。俺があんたを信じるっていう証と、疑ったことへの詫びも含めて」

同じはずだが、目の前のハーピスは肩を竦めただけで、なんともないという顔をしている。

まあ、本人がいいならいいか。

「わかりました。もちろん他言はしませんからご安心ください」

俺は全て受け入れたと示すため、にっこりと彼に笑いかけた。

それにハーピスも笑みを返したことで、俺は心強い味方を得られたと確信した。


「ところで、なんで私を疑ったんですか?」

今の時点ではもう話せることはなにもないので俺たちは施設へ戻ることにしたが、その前に気になったことを聞いてみた。

暗殺者が側妃の放ったものであると知っていることまでは予想していなかっただろうが、何故俺がなにかを知っていると思ったのかを確認しておきたかったのだ。

もしあの会話の中で勘繰られるようなヘマをしてしまったのだとしたら、それが元で側妃にバレる危険性があるので、どこかの機会でそれとなく訂正かフォローをしておかねばならない。

「ああ、それね」

俺は至って真剣だったが、問われたハーピスはのほほんと答える。

「勘」

にぱっと子供のように笑いながら彼は頭の後ろで両手を組んだ。

「……は?」

いたずらが成功したような笑みを浮かべるその顔に一撃お見舞いしてやろうかという思いが一瞬頭を過る。

それに気がついたのか、ハーピスは慌てて胸の前で両手を振って言葉を足した。

「いや、ほら、あんた俺の意見をバッサリ否定したじゃん?普通今みたいな状況だったらどんな意見でも一考しそうなものなのに、初めから答えを知ってるのかってくらい言い切ったから、もしかしたらと」

話を聞けば確かに彼の感覚に頼ったものだったらしいので、勘と言われても間違いではないかもしれない。

それよりも大事なのは。

「気を付けて話したつもりでしたが、私が犯人に心当たりがあること、側妃にも感づかれたでしょうか」

ハーピスが感じたことを側妃も感じていればバレてしまった可能性があるのではないか。

一瞬にして俺の背に冷や汗が噴き出る。

「いや、それはないと思うよ」

しかしハーピスはそれを否定する。

「だって俺は盗聴装置の存在を知ってたから話を逸らそうとするあんたが怪しいと思っただけで、それがなければ見識の狭い奴だなーくらいにしか思わなかったんじゃないかな?」

多分だけどね、と言う彼の言葉を今は信用するしかなさそうだ。

他に味方がいない今、当分俺の行動のフィードバックはハーピス頼りになりそうである。

ついでにフォローもお願いしたいところだが、過度ではない期待だけしておこう。

読了ありがとうございました。

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