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ふ、と意識が浮上し、目覚めてみれば辺りはまだ暗く、夜の空気は少し肌寒かった。
ベッドに倒れ込んだまま寝落ちした体制そのままだったので、せめて毛布でも掛けようと立ち上がるために仰向けに転がる。
すると誰かと目が合った。
「…は?」
「なっ!」
その誰かも驚いたようで、恐らく男性の声を上げたがその音に聞き覚えはない。
「ちっ!」
誰かは舌打ちすると俺に向かって大きく腕を振り上げ、すぐさま振り下ろしてきた。
窓からの僅かな光を反射して煌くそれは恐らくナイフ。
そうと認識する前に俺は横に転がって難を逃れた。
「わわわっ!?」
しかしベッドの上での不意打ちだったため、俺は体制を崩してしまう。
どたっと派手な音を立てて強かに腰を打った俺は、逃げなければならないことだけはわかったので外に出ようと扉に向かって走ろうとした。
だがそんなことは相手もお見通しだったのだろう。
「いたっ!」
髪を鷲掴みされ、ぐいと引っ張られる。
「死ね」
「嬢ちゃん!!?」
侵入者がそう言って俺の腹を背後からナイフで突き刺したのと、俺の転んだ音を聞きつけたのだろうグランプがドアから入って来たのは同時だった。
「ネージュ!?」
後から蝋燭を掲げて追ってきたドクトが俺の腹から突き出た光るものに気がつき、それが致命傷になる位置であることが落ち着いた彼には似合わない大声を出させる。
「にげっ……」
ろ、と伝えたかったが、ナイフを引き抜かれた衝撃で言葉が詰まり、それ以上は声を出すことができなかった。
腹からも口からもごぼりと血が溢れ、すぐに部屋の床には黒い血溜まりが広がる。
そして力を失った俺の身体はその中へ倒れ込んだ。
「貴様ぁ!」
グランプはすぐに男に駆け寄り蹴りでナイフを弾き飛ばすと、上げた足をそのまま踵落としに変え、それを顔面で受けた男は壁と床に激突して動かなくなった。
流石騎士と褒めたくなるほど見事な動きだったが、残念ながら今の俺にそんな余裕はない。
「ネージュ、しっかりしなさい!意識を失ってはいけない!」
止血のために俺の腹を強く押さえながらドクトが叫ぶ声が聞こえる。
「今回復薬を取りに行ってきますから、それまで絶対に起きていてくださいね!」
俺の頬に手を添え、しっかりと俺と目線を合わせて言うドクトに、そういえば回復薬をまだ物置に返していないことを思い出した。
力の入らない手を懸命に動かし、
「回復…机の、うえ、に…」
と伝えたところで俺の意識は途切れた。
この島に来てから気絶してばっかだな、俺。
『これ矛盾してないか?』
気絶した時は夢を見ないと聞いたが、俺はまたチーフとの会話を夢で見た。
『側妃が島にいるネージュを監視してるってやつ。側妃の妄執は感じるけど、そしたら王子との会話も筒抜けじゃん。王子ルート潰されね?』
『あ』
『お前頭良いのにたまにやらかすよな。没った暗殺者のやつも攻撃手段のないネージュ1人の戦闘パート作ってたし。そういうの見るとほっとするわー』
俺が側妃を悪役にしようとしすぎて辻褄の合わない設定を書いてしまう度、チーフはこうやって気がついて指摘してくれていた。
そして笑って罰や礼として「コーヒー奢れ」って言って、俺がブラックコーヒー以外を買っていくというボケを飽きもせず繰り返して。
毎回文句を言いながらもちゃんと飲んでくれるチーフも、それを見て「チーフって三根くんに甘いっていうか、可愛がってますよねー」と言って笑う他のスタッフも、俺はみんな大好きだった。
あの時は不本意だと思ったけど、人生の最後に会話した人がチーフで、俺は幸せだったのかもしれない。
そしてありがとうチーフ。
お陰で今回の謎が解けそうです。
読了ありがとうございました。