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なんだかんだ豪勢になった夕食は、しかし全ての食材を消費するには至らず、翌朝は小麦粉を練って焼いたナンみたいなパンもどきと焼いたカジキと昨日の残りの潮汁という和洋折衷な朝食となった。

そして昨日の雨雲は夜のうちに去ったようで、無事晴れた昼前に司祭が食料と、詫びとして果物とワインを2本置いて帰って行った。

有難かったが、きっとこういう気遣いを囚人にも向けることが囚人からの信頼に繋がり、余計に教会内での彼の立場を悪くしているのだろう。

俺はもちろん彼の味方だが、彼の前途を思えばもう少し上手に立ち回ってもいいと思ってしまう。

どうか彼に吹く冷たい風が、これ以上に酷くなりませんように。

彼が去って行った海に向けて俺は航海の安全と共に彼の無事を静かに祈った。

思えばこの時何かしらの予感があったのかもしれない。

翌週俺たちの島に来たのは別の司祭で、彼から「ターギ司祭なら王家からの命で王都から追放されたぞ」と報せを受けた。


司祭を慕っていた彼らに隠すわけにもいかず、皆には夕食後の空き時間を使ってそのことを話した。

「くそっ!なんであいつが追放されんだよ!」

「この間の詫びのせい、なのか?」

「あのおっさん、いつも貧乏くじ引くよね。俺たちに関わっても良くないって、なんで学んでくんないのかな」

「それがあの司祭ですからね。それより気になるのが」

グランプ、ドーパ、ハーピスと不満を口にしていく中、ドクトがふと言い淀む。

きっとそれは俺が感じたのと同じ疑問。

「なんで追放したのが王家なんだってこと?」

それをバッシルが音に出す。

そう、一番の疑問は何故教会ではなく『王家』の指示なのかということ。

司祭がここに来ること、もしくは囚人に良くすることが王家にとってそんなに問題とは思えない。

むしろ何故王家が一司祭に過ぎない彼の行動を知っているのだろうか。

「…もしかして、僕たちのせいかもしれない」

「あのクソババアの差し金かも」

すると黙っていた双子が言い辛そうにしながらも、原因が自分たちにあると言い出した。

彼らが言うクソババアとは側妃のことだろう。

「どういうことですか?」

はてそんなシナリオ書いた覚えはないぞと思っているとドクトが水を向けてくれたので、黙って双子の意見に耳を傾ける。

「僕たちね、ここに来る前はクソババア、側妃のマーマハの侍従だったの」

「でね、病気の母さんの薬代がほしくて、あいつの髪飾りをくすねたの」

「それがバレてここに来たんだけど、そん時あいつについ本音を言っちゃったの」

「だからあいつ僕たちにすごく怒ってるの。おじさんはそのとばっちりを受けたのかもしれない」

双子が抱き合いながら涙目で語る話に、俺以外の全員が驚いた顔をしている。

そういえばこいつら互いがなんでここ来たかって知らないんだっけ?

グランプについてはネージュ就任前に自分から貴族を殴ったせいでここに来たことを皆に話しているというエピソードを書いた記憶はあるが、そう言えば他のメンバーについては各人のルート以外で罪状についての話が出たことはない気がする。

「あなたたちにそんな過去が…」

「え?お前らここにいて、その母親は大丈夫なのかよ?」

驚くドクトとグランプが気遣わし気な目を向けると、彼らは淋し気に微笑み「僕たちがここに来る前に死んじゃった」と告げる。

「盗んですぐバレちゃったせいでお金を用意できなくて、間に合わなかったの」

「母親って言うか、ほんとは叔母さんなんだけど」

「行くところがなかった俺たちを受け入れてくれた人なんだ」

「だから恩返ししたかったのに」

二人はそう言うとしゅんと項垂れた。

庇護欲をかき立てるようなその姿に皆が同情の視線を送る中、俺は別のことを考えていた。

なんで死んだのがこいつらの叔母なんだ?と。


司祭が追放されたのは自分たちのせいだと塞ぎ込んでしまった双子をドクトが部屋に連れて行き、そのままその場はお開きとなった。

部屋に帰ってベッドにうつ伏せに倒れ込んだ俺は先ほどの話を思い出す。

だっておかしいのだ。

彼らの叔母が出てくるのは、彼らが三つ子で、自分たちを虐げていた両親を殺した没案での話だったはずだからだ。

彼らがここに来たのは本人たちが言っていた通り側妃の怒りを買ったためで、両親を殺したからではない。

罪状はゲームと同じなのに、何故そこだけ…。

考えても答えの出ない問いが頭を巡り続けたが、気がつけば俺は眠りに落ちていた。


『三根!お前、いくらなんでも8歳はないだろ』

夢の中で俺は懐かしいチーフの声を聞いた。

『8歳で両親殺して牢獄行きとか重すぎるわ。てかそもそもどんな理由があろうと殺人罪はダメだ。世間の批判がやばすぎるし、8歳の子供を牢獄になんて虐待だ』

彼は昨日渡した天罪の草案を読んでくれたのだろう、朝一に俺を呼び出すなりそう言って丸めたその紙で俺の頭を叩く。

『ショタキャラならせめて窃盗くらいが妥当じゃないか?それが病気の母親のためとかなら涙を誘う健気な少年だし。あと年齢な、ショタっつっても主人公が18歳なら14歳くらいにしとけ。上は良くても下すぎると逆に主人公が犯罪者臭くなる』

チーフは俺にそうアドバイスすると『わかったら徹夜でそれを読んだ俺のために缶コーヒー買ってこい』と言って自分のデスクに戻ったので、俺は徹夜のチーフの胃を慮ってカフェオレを買って持って行った。

そしたら『お前は俺がブラック派と知ってるよな?』と言われたので頷いたらまた叩かれた。

さらに手直しした現在の双子の設定を見せたら『ほぼほぼ俺が言ったまんまじゃねーか』と三度叩かれた。


そんな懐かしい、平和な頃の温かい夢だった。

読了ありがとうございました。

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