シュネー
戸を開けると外にシュネーが立っていた。
中に招き入れようとしたが、雪華で織られた薄衣の袖から覗く彼女の真っ白な指の先がほとんど零れ落ちてしまっているのを見て、やめた。
玄関横のベンチの雪を払って彼女に座らせ、その隣に自分が座る。
黎明の町にはまだ昨夜の雪が少し融け残っていて、明け初める空の明晰な光を至る所でキラキラと反射していた。赤茶色に濡れそぼったスレートの屋根の連なりの向こうに夢のなごりのような千切れ雲が疎らに漂っている。空気は鼻の奥がつんとするほど冷たく澄み渡っていた。
シュネーが僕の左肩に頭をもたせてきた。
その額に降りかかった銀色の髪を払ってあげたかったが、綿あめよりも繊細な彼女の毛髪に人肌で触れるわけにはいかなかった。
シュネーは、辛うじて残っている右手の人差し指を左目にかかった髪の房にそっと差し入れると、それを耳の後ろへ流した。
小さい、かたちの好い耳朶が毛髪の下から覗いた。
僕は、その真白い耳をくわえたいと思った。くわえて、舌の熱でとろかしたいと思った。その熱い液体を嚥下したなら、どんなに素晴らしい心地だろう。僕はその味を想起した。それは甘く、香り好く、酒のような霊力を帯びた芳醇なミルクなのだ。
シュネーが首を傾け、つぶらな瞳で上目遣いに僕を見上げた。その澄んだ眼差しに自分の考えが全て見透かされてしまうような気がして、僕は咄嗟に顔を背けた。
冷たい感触が頬にあたった。雪のひとひらに撫でられたような、それは優しい口づけだった。
シュネーがベンチから立ち上がった。僕に背を向け、通りを行ってしまう。
気付いたとき、僕は立ち上がり、彼女の薄衣の裾に指を掛けていた。
明けましておめでとうございます。




