お月さまとねぼすけふくろう
ひだまり童話館さま「つんつんな話」の参加作品です。
よろしくお願いします♪
夜空に浮かぶ、まんまるお月さまときらきら光るお星さまにひみつがあるのを知っていますか――?
木の葉がすっかり落ちたとてもさむい満月の夜のことです。
しんと静まった森にはまんまるお月さまとすやすや眠るお星さましかいません。
「ああ、こまったな」
すると森の中でこまった声が聞こえてきました。
お月さまは声のするほうに目をむけるとくまさんがいました。
「おやおや、くまさんどうしたのかい?」
お月さまの声はとおくてくまさんには聞こえません。
「ああ、こまったな。うれしくて涙がとまらない」
「どうして嬉しいんだい?」
声が届かなくてもお月さまはくまさんに話しかけます。
お月さまはいつもみんなのことを気にかけているのです。
「ああ――ようやく赤ちゃんができたんだ」
森のくまさん夫婦は長いあいだ子どもがいませんでした。
くまさんは嬉しくてぽろぽろ涙を流していたのです。
お月さまは驚いてまばたきをぱち、ぱち、ぱちと三回しました。
だって嬉しくて涙が出ることがあるなんて知らなかったのです。
お月さまがびっくりすると、三つ子のお星さまもびっくりして起きてしまいました。
きらきら光る流れ星になってくまさんのところへおりていきました。
くまさんはきらきら三つ子のお星さまが落ちてきたのにびっくりして、涙がぴたりと止まりました。
きらきら光るお星さまはくまさんの大きな手の中で、ころんとまるい種に変わりました。
「くまさん、ぼくたちのことを植えてよ」
「ああ、もちろんさ」
くまさんは三つ子の種をお庭に植えると、にこにこ笑顔になってパタンと扉をしめて家の中に入っていきました。
またお月さまとすやすや眠るお星さましかいない、しんと静かな夜になりました。
それからすぐに森に真っ白な初雪がふりました。
しんしんと雪はふりつもり、家の窓の上まで雪に隠れるころ、くまさんの家から赤ちゃんのうぶ声が聞こえてきました。
赤ちゃんが泣いている夜に、お月さまが子守唄をうたうと赤ちゃんとお星さまはすやすや眠ってしまいます。
ぽかぽかとした春になりました。
窓の外では、くまさんが植えた三つ子の種は赤、白、黄色のきれいな花になって咲きました。
きらきら光るお星さまは、お花の種なのです。
お月さまの子守唄をきいてすやすや眠っていたお星さまは、大きくなるときらきら流れ星になり、地上に種になって落ちるのです。
「おとうちゃん、おかあちゃん、お庭にきれいなお花が咲いてるよ」
「ぼうや、これはチューリップというんだよ」
「とってもきれいだね」
赤、白、黄色の三つ子のチューリップはくまのぼうやの言葉がうれしくて、やわらかな春風にゆれてみせました。
春のあたたかな風がそよそよする満月の夜。
お月さまはしんと静まる森でお星さまがすやすや眠れるように子守唄をうたいます。
「ああ、こまったな」
すると森の中でこまった声が聞こえてきました。
お月さまは声のするほうに目をむけるとりすさんがいました。
「おやおや、りすさんどうしたのかい?」
お月さまの声はとおくて、りすさんには聞こえません。
「ああ、こまったな。ちっとも眠れない」
「どうして眠れないんだい?」
声が届かなくてもお月さまはりすさんに話しかけます。
お月さまはいつもみんなのことを見守っているのです。
「とってもお腹が空いて眠れないんだ」
お月さまはきょとんとして子守唄を歌うのを忘れてしまいました。
だって夜なのに眠れないことがあるなんて知らなかったのです。
大好きな子守唄が聞こえなくて、ひとつのお星さまが起きてしまいました。
きらきら光る流れ星になってりすさんのところへ落ちていき、りすさんの小さな手の中でしましまの種になりました。
「ねえねえ、りすさん、わたしを植えてちょうだい」
「これは、おいしそうだな」
「いやよいやよ、食べちゃいやよ。お腹いっぱいにしてあげるから、わたしを植えてちょうだいよ」
「お腹いっぱいになるなら、いいよ」
りすさんは家の庭に小さな手でちょこちょこ穴をほると、しましまの種を植えました。
「ちゃんと毎日お水をちょうだいね」
「もちろんさ」
りすさんはしましまの種をお庭に植えると、うきうき笑顔になってパタンと扉をしめて家の中に入っていきました。
またお月さまとすやすや眠るお星さましかいない、しんとした静かな夜になりました。
それからお日さまがさんさん照りつける暑い夏がやってきました。
りすさんが毎日お水をあげたしましまの種は大きな黄色の花を咲かせました。
「とってもきれいなひまわりだね」
りすさんの庭にかわいいりすちゃんがやってきました。
「あなたが育てたの?」
「うん、毎日お水をあげて大きくなったんだ」
「とってもすてきだね」
「ありがとう」
大きな花がすっかり枯れてひまわりの種をたくさんつけるころ二匹はすっかり仲良くなっていました。
二匹で分けあって食べるひまわりの種はしあわせの味がしました。
わさわさと木の葉がしげる夏になっていました。
お日さまがしずむと、すうっと涼しい風がふく満月の夜。
お月さまは木の葉が風にさわさわゆれるのにあわせて、すやすや眠るお星さまに子守唄をうたいます。
「ああ、こまったな」
すると森の中でこまった声が聞こえてきました。
お月さまは声のするほうに目をむけるとふくろうさんがいました。
「おやおや、ふくろうさんどうしたのかい?」
お月さまの声はとおくて、ふくろうさんには聞こえません。
「ああ、こまったな。また寝坊をしてしまったな」
「どうして寝坊してはいけないんだい?」
声が届かなくてもお月さまはふくろうさんに話しかけます。
お月さまはいつもみんなのことを心配しているのです。
「はあ……森のみんなは夜になったら寝てしまうから、ねぼすけのぼくには友達がいなくてひとりぼっちなんだ」
ふくろうさんがわんわん泣き出したのをみて、お月さまもとても悲しくなって一緒に泣き出してしまいました。
だってひとりぼっちがさみしいなんて知らなかったのです。
お月さまが泣いているので、たくさんのお星さまが起きてしまいました。
きらきら光る流れ星になってふくろうさんのところへ落ちていきました。
あまりにたくさんの流れ星が落ちていったので、ふくろうさんのふわふわな羽の手の中でつんつんな種が山のようになりました。
「ふくろうさん、元気をだして」
「そうよそうよ」
「私たちがお友達になってあげるわ」
「たくさんお話しましょうよ」
「ぼくたちを庭にまいてちょうだいな」
にぎやかなつんつんな種にふくろうさんは目をまんまるにしながらうなずくと、羽を広げて飛びまわりぱらぱらと家の庭につんつんな種をまきました。
「どんな花が咲くか楽しみになってきたな」
「うふふ、楽しみにしててちょうだいね」
ふくろうさんはつんつんな種をお庭にまきおわると、ほっこり笑顔になってパタンと扉をしめて家の中に入っていきました。
またお月さまとすやすや眠るお星さましかいない、しんとした静かな夜になりました。
森の木の葉が黄色や赤色に色づきはじめる秋になりました。
ふくろうさんの庭にはピンク色の花畑ができていました。
「ふくろうさん、起きて」
「ふくろうさん、もう朝よ」
「ふくろうさん、お客さんよ」
ねぼすけのふくろうさんはやっぱり起きることができません。
きれいに咲いたピンク色の花たちを森の動物たちが見にきているのですが、ねぼすけのふくろうさんはいつも寝床でぐうぐう寝ています。
「ああ、どうしてぼくって起きれないんだろう」
「ふくろうさんはねぼすけだからなあ」
「目覚ましがむっつもなっているのにね」
花畑の花たちは夕方になって起きてきたふくろうさんに、今日はどんな動物たちが見にきたのか教えてあげます。
「どうしたら友達ができるのかな」
ふくろうさんがぽつりとつぶやきました。
「ふくろうさんが起きているゆうがたにきてもらったらどうかしら?」
「あらあら、それってすてきじゃない」
「でも、みんなは朝やお昼にきているよ」
「それなら、ゆうがたにお花を見ませんかって招待状をみんなに渡したらどうかな?」
「それじゃあ暗くてぼくたちがよく見えないんじゃない?」
「あっ、そうだ! お月さまがまんまるの夜なら明るくていいんじゃない?」
「やあ、それはいい考えだ!」
ふくろうさんはさっそく森の動物たちに招待状を書きました。
赤や黄色のきれいな葉っぱに一枚ずつこう書きました。
『満月の夜にコスモスを一緒に見ませんか?
ふくろうより』
しんと静かな夜の森をふくろうさんは飛んでまわり、動物たちのポストに招待状をいれました。
秋のすずしい風がさわさわと木の葉をゆらす満月の夜になりました。
今日はふくろうさんが森の動物たちに招待状を送った日です。
ふくろうさんはみんながきてくれるかどうか、どきどき、そわそわしています。
柿やぶどう、それに栗やさつまいもをあけびのつるで編んだかごに飾り、お月さまに見立てたお団子をならべて、ふくろうさんは秋の実りで作ったたくさんのごちそうを用意しました。
みんながゆっくりくつろげるように、コスモス畑の近くにやわらかな敷物をしきました。
それが終わると、どきどき、そわそわしながら森の動物たちが来るのをいまかいまかと待ちました。
「ふくろうさん、お招きありがとう」
最初にやってきたのは、くまの親子でした。
この春に生まれたばかりの小さなくまのぼうやと一緒にきてくれました。
「ふくろうさん、楽しみにしていたんだ」
次にやってきたのは、りすさん夫婦でした。
夏のおわりに結婚したばかりの新婚さんです。
「ふくろうさん」
「ふくろうさん」
「ふくろうさん」
それからも次々と森の動物たちが集まってきました。
ふくろうさんにお友達がたくさんできて、もうひとりぼっちじゃなくなりました。
みんなと楽しく話していると、お月さまがぽっかりと顔を出しました。
「あっ、お月さまだ」
くまのぼうやが指をさすと、まるで「こんばんは」というようにお月さまはにっこり笑っているみたいです。
お星さまも夜空にきらきらとまたたいています。
コスモス畑の花たちもまんまるのお月さまに照らされて、ピンク色の花びらをきらきらさせてほほえみました。
動物たちの楽しそうな笑い声がいつまでも聞こえるにぎやかな満月の夜になりました――。
夜空に浮かぶ、まんまるお月さまときらきら光るお星さまにひみつがあるのを知っていますか?
もしあなたにお困りごとがあるのなら満月の夜にそっと口にしてみてください。
もしかしたら、きらきら光る流れ星が落ちてきて、すてきなお花の種に変わるかもしれませんよ――。
おしまい