後編
そしてその掃除が終わったのは完全に日が暮れ、暗くなった午後6時であった。
「あのクソ野郎、終わった瞬間逃げやがって……」
裕太は完全下校のチャイムが鳴った後、少し目を離していたらいなくなっていた。そのためあいつが使った掃除用具までも僕が戻す羽目になった。
……本当にあいつといると本当にロクな事にならない。
「明日見つけたらただじゃおかねぇ絶対……!!」
「--お疲れ海斗」
「茜……? どうしてここに?」
そこには先に帰ったはずの楓がいた。
「友達と教室で話していたらすっかり遅くなってさ。帰ろうと思ったら外に海斗と裕太が見えたから一緒に帰ろうかなと思ってね。裕太はまだ?」
「あいつは先に帰りやがった」
「あ、あははは……あいかわらずだね……」
僕が悔しそうにいうと茜は苦笑した。
そしてそのまま話しながら一緒に帰る事になったのだが、こうやって茜と2人というのはいつも裕太も含めた3人で一緒に帰るので結構久しぶりな気がする。
「あっ、そういえばバスケはどうなったのかな?」
「結局裕太がいつの間にか参加届け出していたらしい」
僕もその結果が気になり大会委員に聞きに行ったら、裕太がいつの間にか提出していたらしい。
「いつの間に……昼休みは海斗と一緒に怒られていて、放課後はまた海斗と一緒に掃除していたし……」
「……僕が殆ど一緒じゃないか」
「まるでカップルだねっ!!」
「……やめてくれ、あいつなんて性別が逆転しても絶対嫌だ。もしあいつと付き合うなら死んだ方がマシ、いや学年主任に告白するほうがマシだ」
「そ、そこまで嫌なのね……いつも被害を被っている海斗がいうとなんか説得力あるね~まぁでも裕太って海斗と一緒にいる時が一番楽しそうだけどね」
「僕がその分、不機嫌になるけどね」
「でも結局は毎回付き合うでしょ?」
「茜、違うぞ」
「えっ、何が?」
「僕は付き合っているんじゃない
ーーあいつは僕に断るという選択肢を与えないだけだ」
あいつが問題を起こす度に僕も何故か共犯者にされており、あいつと一緒に怒られるのである。そして悪質な事にあいつは僕も一緒に逃げざるおえない状況を見事に作り出して、本来なら裕太のみが怒られるはずなのだが僕も一緒に怒られ、その上で罰も一緒に受けさせるようにしてくるから控えめにいってクズだと思う。そして更に口が上手いので尚更たちが悪い。
「お、おぉ……? なんかよく分からないけど大変そうなんだね……」
「大変だ、本当に。今日の件もあるし」
「き、今日の件ね……」
「……」
「……」
そして急に会話が止まった。
茜と2人で帰るというのは珍しいためかどのように会話をふればいいのか分からないというのもあるし、今日の件もあるので余計に何を話せばいいのか分からない。
「ねぇ海斗」
「何?」
「少し寄り道して帰らない?」
「いいけど、もう6時過ぎているから茜のおばさんも心配する時間だよ?」
最終下校時間まで掃除をしていたので既に時計の針は6時を回って、あたりは暗くなっていた。楓は大事な一人娘だから心配するだろう。
「大丈夫、一か所だけだから。あと私のお母さん、海斗とのことを信頼しているから心配ないって」
「いやそれはどうなんだろうか……」
ただの幼馴染をそこまで信頼しますかね……?
「さぁさぁ行こうよっ!!」
「お、おい、いきなり手を引っ張るなって!!」
俺は楓に引かれるまま、向かった場所は、よく昔幼馴染4人で遊んでいた公園。小さい頃はよくこの公園で4人で遊んでいたが、高校生ぐらいになってからはめっきり来なくなった。それよりも楓がここに来たい理由が分からない。
「ここが楓が行きたかった場所?」
「そうだよ。あっ、ブランコ乗らない?」
「ブランコか……久しぶりだな……乗るか」
僕らはブランコに乗り、こぎ始めた。
「ねぇ久しぶりにどっちが大きく揺らせるか競争する?」
「楓さん……今貴方スカートだろ?」
「あっ……そ、そうだね……私としたことが……」
僕に言われて今の自分の状況に気づいたらしく顔を赤らめた。
「どうした? 楓らしくないね」
「いや……なんかブランコに乗ると昔の頃に戻った気がしてさ……ほらあの時の私って男子に混ざってスカートなんて履かなかったからさ」
「そうだね、あの時は楓の方が僕よりも強かったよね」
昔は楓の方が僕よりも背が高く、勝気だった。それに対して僕は昔は弱気だったので小さい頃は裕太や楓に言われてたまに泣いていた。
「ち、ちょっと……あの頃は忘れて欲しいな……にしても懐かしいなぁあの頃」
「そうだね……あの頃から僕はあのクズに振り回されていた様な気がする」
「それは裕太が海斗の事を信頼しているからだよ~
ーーねぇ知ってる? 裕太、医学部受けるんだって?」
「あぁ知ってる……というか昔から医者になりたいって聞いていたからな」
裕太はあんな性格だが頭はとんでもないぐらい頭がいい。なんでこんな県内でも普通の高校にいるか分からないぐらい頭が良い。なんならあいつは県内トップどころか国内トップの高校に進学しててもおかしくない。
「やっぱり海斗は知っていたんだ?」
「うん、だって付き合い長いからね……しかも合格判定A」
「……裕太って本当に頭良いんだね、まだ2年生だよね?
ーーでも、もう私達もそんな時期なんだ……海斗は行きたい学部あるの?」
「まだ決まってないかな。楓は?」
「私もまだだよ。来年は今までのように4人で遊ぶのが厳しくなっちゃうか……」
「そりゃ受験生だもんな……楓や裕太のように頭良くないし」
「これからはみんなバラバラかな……悲しいな」
「……」
確かにあと1年で僕達は進路がバラバラになり、今までのようにいつも一緒のようにはいられないだろう。
「あっ……ごめん。なんか私らしくないよね」
「--大丈夫だよ楓」
「えっ……?」
「僕達はそんぐらいじゃバラバラにならないさ。進路が違ったりするぐらいじゃ僕達の複雑に交わった縁は切れないでしょ?」
「そ、そうかな?」
「あぁ予想だけど僕達は違った進路に進んで大人になったとしても集まったら昔の様に騒げるさ。
ーー更に僕と裕太の関係は絶対変わらないだろうな」
「フフフ、そうだね。海斗と裕太の関係は死ぬまで変わらなそう」
「あのクソと関係が変わらないのは汚点だが……でも僕達は変わらないはずさ。あ、あと……」
「あと?」
「ぼ、僕は何があっても楓の傍にいるさ」
「……えっ?」
「これからも僕は絶対楓の隣にいる……だって」
僕は今とんでもない事を言おうとしている。普段の僕ならこんなこと恥ずかしくて言えないだろうけど今日の僕は言える勇気がある、悔しいけど裕太のおかげだ。
……なら今言うしかない!!
(裕太……もしここで失敗したら後で恨むからな……!!
僕の思い、当たって砕けろ……!!)
僕はブランコをおり、楓の前に立った。
「だって?」
「僕は楓が好きだから。幼馴染としてじゃなくて1人の女の子として」
「ひぇっ……」
僕が長年の思いを告げた途端、楓はとても驚いた顔をした。
……あっ、これひかれたパターンだ。
「そうだよね……普通引くよね……僕、顔普通だし……ただの幼馴染だしね……帰ろ」
僕が落ち込むと楓は慌てたようにアタフタし始めた。
「そ、そういう意味じゃないよ!!」
「いいんだ楓……ごめんな僕で……生まれてきてごめんなさい……」
せめて裕太ぐらいの顔と裕太の7割ぐらいの頭があればよかったんだろうけど、僕の家族は両親揃って元プロスポーツ選手の血が見事に遺伝してしまい、頭はもう酷いものだ。
「か、海斗話聞いてって!!」
「あぁ……僕はなんでこうも後先考えないんだろうなぁ……」
……あぁ死にたい。根拠のない勇気に乗せられて告白して……しかも失敗……本当に死にたい。
「海斗!!」
「何かえーー」
僕が言葉を言う前に口を塞がれた。
ーーまさかの楓の口にだ。
「……!!」
その時間は数秒程度だろうけど体感的には数十秒にも感じた。
「ぷはぁ……」
楓が僕から離れた。目の前の楓は顔が今まで見た事がないぐらい顔が赤いが、多分僕も楓に負けないぐらい顔が赤いだろう。
「か、楓!? 一体何を!?」
「だってしょうがないじゃない……海斗が1人で勝手に暴走しているんだもの……こうするしかないでしょ……」
「い、いや待って!? 今のってき、キスだよね!?」
「大声で言わないでよ恥ずかしいじゃん!!
ーーというか海斗ってデリカシーないの!?」
「いやぁ……それなりにあるつもりだけど……」
少なくとも僕の父親や裕太よりは持っているつもりだ。
「なら恥ずかしい事を言わない!! 繰り返さないで!!」
「は、はい!!」
「もう海斗は早とちりし過ぎだよ……私何も返事してないのに……」
「でも楓の反応的にフラれたと思ったし……」
「私まだ何も言ってなかったよね?」
「イエッサ……」
「……なんで軍人風なのさ海斗は? で、分かったでしょ私の気持ちは?」
「ま、まぁ……で、でもなんで僕なの……?」
流石にキスをされてその意味が分からないほど馬鹿ではないつもりだ。
「そ、それなんだけどさ……私さ考えたんだ」
「何を?」
「誰といたらこれからの人生楽しいかなって思って」
確かにその人といて楽しいっていうのも結構重要だ。
「……」
「そうしたらさ……真っ先に海斗の顔が思いついたんだ」
「僕?」
「そう、小さい頃から一緒にいるってのもあるけどさ、海斗といると楽しいの。勿論裕太や葉月ちゃんといるときも楽しいんだけどさ……やっぱり海斗が一番楽しいな、うん」
「そ、そうなんだ……」
楓の真っ直ぐな気持ちを聞いて僕は言葉が上手く出せない。彼女が僕の事をそんな風に思っていたなんて思わなかったし、何よりも楓と僕が両想いなのに一番驚いた。
「だからさ海斗
ーー私と付き合ってください」
ここまで言われて何も返事をしないのは僕らしくない。それに僕の気持ちはとうに決まっている。
「楓、うん……こんな僕でよければ付き合って欲しいな」
「海斗……海斗ぉーー!!」
「ち、ちょっと楓さん!? 危っ!!」
と楓が勢いよく抱き着いてきたので、僕は少しバランスを崩しながらも彼女をなんか抱きしめた。
「やったやったこれで私達彼氏彼女の関係だね!!」
「う、うんそのようだね」
未だに実感ないけど。まさか長年の思いがこんな形で叶うなんて思わず、これは夢じゃないかと思ってしまうぐらい実感がない。
「何よ海斗、不満でもあるの?
ーーまぁでも今日の私は気分が良いから許そうじゃないかーー!!」
僕に抱き着きながらもかなり上機嫌な楓。ここまで機嫌が良い楓は初めてかもしれない。
そういう僕もとっても気分が良いのだから。
「いいや、僕は不満なんて全くないよ」
「そう? ならなおさらいいじゃないか~~!! やったーー!!」
「どんだけ機嫌がいいのさ楓は」
直近にはバスケ大会があるし、進路を決めなきゃいけない。
それでも今はこの幸せに浸りたいと思う。
ーー長年の思いが叶った、この幸せを。
~裕太視点~
俺は海斗と楓が抱き合っているのを2人から見えないところから見ていた。
「はぁ、やっと付き合ったか……長い、じれったい、そしてもどかしいっての!!」
海斗は長年楓に思いを寄せてきたのを知っているが、楓も同じぐらい海斗に長い間思いを寄せていたのを俺は知っている。楓が沢山の男子に告白される度に断っていたのもそれが理由だ。
「文句言っていますけど裕太さん、笑顔ですよ?」
と俺をからかうように言ってくるのがもう一人の幼馴染の常陸葉月。
彼女は車いすに乗っているので、俺がここまでおしてきた。
「うるせぇ……ったく葉月のくせに生意気だな」
葉月は小柄で生まれつき身体が弱いということもあって黙っていれば薄幸の美少女なのだが……性格はその逆で常に明るく少し小悪魔な性格だ。
「生意気とは酷いです。私はただ事実を述べただけです。本当は嬉しいんですよね?」
「そう言う葉月はどうなんだよ?」
「私は勿論嬉しいですよ。だって海斗お兄ちゃんと楓お姉ちゃんが付き合うんですよ? 仲が良い2人が付き合い始めたら嬉しいに決まってますよ」
「そうか、さて帰るぞ」
俺は葉月が乗っている車いすのロックを外して帰る準備をした。
ただ彼女は不満気で頬を膨らませてきた。
「えぇ~私はもう少しお2人のイチャイチャを見ていたいです~」
「馬鹿野郎」
「あいたっ……暴力反対です……」
軽く葉月の頭にチョップを加えると、彼女は痛そうに頭を押さえた。
……確かに俺も幼馴染2人がどんな風にイチャつくのを見てみたいが、葉月は昔から身体が弱いのであまりこの時期に夜に出歩かせたくないので、そろそろ帰らないと心配になる。
「葉月は身体が弱いの分かっているだろ、今日は冷えるからもう帰るぞ?」
「はぁ~い……ちぇっ……」
いつもは大人しいのだけどたまに生意気になる。
「舌打ちかよ……帰るぞ」
と俺は車いすを押し始めた。
彼女の家までの道、葉月が不意に尋ねてきた。
「ところで裕太さん?」
「ん~なんだ?」
「裕太さんは……そのか、彼女さん作らないのですか?」
「俺? 学校で一番の問題児の彼女になろうとする命知らずの女子はいねぇっての。
あと俺個人、今はそう言うの興味ないからな」
「そうなんですね……」
「まぁ俺には病弱なのに陽気な幼馴染がいるから、目を離さないようにしなきゃいけないのもあるがな」
「それって私ですよね!?」
「あっ、自覚あんのか。とりあえず帰るぞ?」
「異議ありです!! 私そこまで問題起こしていません!!」
「騒ぐな騒ぐな……体に障るぞ」
「今は何よりも私の名誉が
ーーゴホッゴホッ……!!」
と葉月がせき込んだ。
「ほら言わんこっちゃない……大丈夫か?」
「すみません……ご迷惑をおかけしました……」
「良いって慣れてるからな。さぁ本当に帰るぞ」
「はい、お願いします」
「てかさ今日さ海斗にマジで追いかけられたんだよ~やっぱりあいつ運動神経良いよな~」
「多分聞く前に裕太さんが100パーセント悪いって分かります」
「やっぱり? 俺も思うぜ」
「……じゃあ直しましょうよ」
「いやそれがやめられないんだよな~これが」
だって海斗の反応が面白くてさ、あれは一種の快感になる。
多分だが葉月も海斗に関して同じような感情を抱いていると思う。
「何なんですか裕太さんは……もぅ……
ーーで、今日は何をしたんですか?」
呆れながらも目をキラキラさせて事件の続きを楽しみにしている葉月。
そんな目をされたら話を続けるしかない。
「おう、それがなーー」
俺は葉月に今日あった出来事を話しながら、彼女の家まで送ることにした。
(海斗良かったな、お前の思いが叶って。まぁここまでお前を煽ったんだ俺も頑張るか……)
幼馴染達を叩きつけた本人が躊躇しているなんて笑えない話だろう。だが今になって海斗の気持ちが分かる。確かに自分の気持ちを人に言うのは怖い。そう思いながら目の前で車いすに乗っている幼馴染を見ると、彼女は不思議そうにこっちを見てきた。
「どうしましたか裕太さん?」
「いや別になんでもない、さっ帰るぞ」
「はいはい~」
(さて俺はいつ自分の気持ちを言うかな……)
いつも悪だくみしかしない頭をフル稼働してそのタイミングを考えながら葉月の家までの道を帰るのであった。
~海斗視点~
僕と楓が付き合い初めて10年後……僕、裕太、楓、葉月ちゃんは久しぶりに4人で会うことになった。
僕、楓、裕太が高校を卒業してから4人で会う機会は中々無く、今日会うのも約1年ぶりになる。
待ち合わせの駅で待っていると向こうから裕太と葉月ちゃんが来るのが見えた。
「あっ、葉月ちゃん~こっちだよこっち!!」
「楓さん、海斗さん!! お久しぶりです!!」
車いすに乗った葉月ちゃんは笑顔でこちらに手を振った。そして後ろにはクズが彼女の車いすを押していた。
「うん、葉月ちゃん久しぶり
ーーあと、クズ久しいな」
「俺の扱い雑!! 最早名前すれ呼ばれないのか!?」
裕太は高校を卒業したあと、そのままストレートで医学部に合格して現在は医者として大学病院に勤めている。昔はあんなにいたずらばっかりしてのに今では患者さんに寄り添って考える良い医者として評判がいいとのことだ。
……だが僕は絶対病院に行っても裕太の世話にはなりたくない。
「今までの行いだ!!」
しばらく会っていなかったがこいつと会うとやっぱり昔の頃に戻る。それが悲しくもあり、嬉しくもある。
「まぁまぁ海斗~落ち着いて。なんかごめんね葉月ちゃん……私の旦那が騒がしくて」
「いえいえ私の旦那様も悪いですから~」
と常陸葉月……いや小鳥遊葉月ちゃんは優しく微笑んだ。
葉月ちゃんが高校を卒業したのと同時期に裕太と葉月ちゃんは婚約した。
その際にひと悶着あったのだが、こいつはいつものふざけた雰囲気ではなく真摯な態度で彼女の親御さんと話して交渉の結果、見事認めてもらった。
……その際の熱意は正直俺も見習おうと思うぐらいだ。
「葉月ちゃん、裕太が迷惑かけてないか? かけていたら僕が殴り飛ばすから」
「大丈夫ですよ、海斗さん。裕太さんはいつも私の事を気に掛けてくれます。家も私が車いすで動きやすいように色々と工夫してくれますから」
なんとこいつ僕の知らないうちに高校から地味にバイトをして医学部に受かったあとも、バイトをしてそれを殆ど使わず貯金していたらしく本格的に医者の仕事をしてからしばらくしたあと一戸建てを購入した。一度あいつの家を見に行ったことがあるが車いす生活の葉月ちゃんの事を思って設計されていると思った。まぁそんな立派な家を建てるのだから裕太の貯金では足りるはずはなく、葉月ちゃんや裕太の親御さん達もお金を出したそうだ。
「ちっ……命拾いしたな裕太」
「おぅ……あぶねぇ……葉月助かった……あんがと」
「いえ旦那様を助けるのが妻のお仕事ですから。
ーーですが、調子に乗ったら知りませんからね?」
「は、はい……気を付けます……」
結婚してからもこの2人の関係は変わらないようだ。裕太が葉月ちゃんを引っ張っているようだが実は葉月ちゃんが裕太の手綱をしっかりと握っている。
「旦那様を甘やかすだけが妻の仕事ではありません。
ーーそれよりも海斗さん、楓さん、ご結婚おめでとうございます~!!」
「おめでとうーー!!」
「ありがとう2人とも」
僕と楓は1ヶ月前に結婚した。今日4人が集まったのは僕と楓の結婚祝いとのことだ。
お互い仕事に慣れ始めたのでそろそろと思い、僕は楓にプロポーズをして彼女は泣きながらも頷いてくれた。なので松浦楓ではなく花咲楓なのである。
「な、なんか照れるな……裕太は……本心か?」
「おいおい、俺と葉月との差酷くないか……?」
「昔からの行いだっての
ーー今日はどこに行くんだ?」
「おう、今日は俺のおすすめの場所だ!! 一応葉月のお墨付きだぜ!! なぁ葉月」
「はい、今からいくお店は本当に美味しいですよ。私の旦那様はこう見えてお2人の事を本当にお祝いしたくて大分前から念入りに調べていたんですよ? やれ“ここは海斗が好きそうじゃない”とか“ここは楓が苦手そう”とかもうここまでかってぐらい念入りに調べていました」
「お、おい葉月それは言うなよ!?」
「マジか裕太……」
「う、うるせぇ……い、一応お前らには色々と世話になったしな。す、少しぐらいは今までの借り返してやろうかなって思っただけだ」
「嬉しいじゃん裕太~このこの~」
「そうか……そうか……裕太、お前そういう風に思ってくれてたんだな~」
「海斗……テメェ……!!」
「じゃあ行こうか。せっかく裕太が選んでくれた店なんだしな。行こうぜ楓」
「はぁ~い。じゃあ私達も行きましょうか葉月ちゃん」
「はいっ!! 行きましょう!!」
ーーこれからも僕達4人の関係は変わらない。
「ねぇ楓」
「何かしら?」
「僕が前に言ったでしょ?
ーー“僕達の関係は変わらないって”」
楓はあの時、僕らの関係が変わっていくと思い怖がっていた。
だけど今も僕らは4人で集まって、昔のような会話が出来ている。
……要するに楓の杞憂であったのだ。
「本当そうだね。またみんなで楽しめそうだしね!!」
そういう楓の顔は満面の笑みだった、それを見た僕も嬉しくなる。
「おいおいお前ら何言ってんだよ~俺はあの頃と成長してーー」
「旦那様は一番あの頃と変わってないですよ?」
「「だって旦那様?」」
「お前ら夫婦で意見合わすな!!」
「まぁまぁ気にすんなってさぁ行こうぜ裕太」
「はぁ……ったくしゃあねぇな俺のおすすめ見せてやるよ!!」
「楽しみにしてるね裕太」
「旦那様のおすすめですから大丈夫ですよ」
と僕らは裕太のおすすめの店に向けて足を動かし始めるのであった。