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9.死を前にして



〜ライター視点〜



「ふぅ……気配は感じなくなったな。」

「…………。」


昼間だというのに、高いビルが立ち並んでることによって薄暗くなっている道。車二台分通れる広さだが、周囲に人の気配がない。おそらく裏路地と見られる。

そこの建物の影に宗次郎と直子は座り込んでいた。死角を無くし、不意打ちを避けるためである。


「しゃーねぇ……。」


悪態をつきつつ、宗次郎は腰のポーチの中を漁る。見た目に反して異様なほどの収容量を誇るポーチだが、本人にとっては大して探すのに苦労はしない。一通り漁った後、ポーチからある物を取り出す。

それは、剣の鞘が腰の後ろに下げられ、左右にオートマチックハンドガン、後ろにはサブマシンガンが収められているホルスターが付けられている特殊なベルトを腰に巻き、服を整える。


「戦闘は避けるべきだったが、この際だ。やられたらやり返すっきゃねえ。」

「…………。」


蒼く輝く剣の柄に手をかけ、顔を顰めながら影からそっと顔を出す宗次郎。





(……人が…………。)



だが、その横で直子は膝を抱えたまま震えていた。



(人が……死んだ……。)



それはれっきとした恐怖。目の前で起こった、生まれて初めて見た殺人。

当然、気分がいいものではない。むしろ、幼いながらも死というものを初めて見た彼女にとって、あまりにショッキングな光景だったのだろう。

忘れたくとも、男の心臓から吹き出ていた血が頭から離れず、無残に息絶えた男の姿が付きまとう。


(……いや……。)


体を抱え、震えを止めようとしても、その震えは止まらない。心の奥底から感じる恐怖。そして自分もいつあんな風になるかわからない、この状況。

いつ、どこから狙われるかわからない、そんな恐怖。


(あんなの……いや……。)



もし自分が死んだら…………もし自分があんな風な殺され方をしたら…………。



「あ、あぁぁぁぁぁ…………。」



恐ろしさで彼女の体の震えが激しくなる。

恐ろしさで彼女は頭を抱える。

恐ろしさで彼女の目が見開かれる。

恐ろしさで彼女の目の焦点が合わなくなる。

恐ろしさで彼女の目から涙が溢れ出てくる。



「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!」




恐ろしさで、




「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ………!!」




彼女は、




「ああああああああああああああああ………!!」




狂いだす。







「……オイ、ガキんちょ! しっかりしろ!!」

「――――!!」


直子の様子がおかしいことに気付いた宗次郎は、肩を揺さぶる。


おかげで完全に狂ってしまう寸前に正気に戻った直子の目は、少しずつ明るさを取り戻していく。それでも涙は止め処無く流れ、顔を濡らした。


「泣くのはあとあと! 今はこっから脱出することだけ考えろ。」

「で、でも……。」



【ガガガガガガガガッ!!】



「きゃあ!!」


直子が反論しようとした瞬間、宗次郎の顔の付近のコンクリの壁がマシンガンの銃弾によって削られていった。


銃撃の嵐が一旦止むと、宗次郎は顔を少しだけ出す。三人の黒スーツの男が、武装したマシンガンの弾丸をリロードしているのが見えた。


「あーもー、追いつくのはえぇよ!」


後ろのホルスターからマシンガンを抜き、若干壁から顔を出してマシンガンを連射する。



「「うぉぉぉ!!」」


宗次郎が放った銃弾は、黒スーツの男達の足元に着弾する。男達の足元に無数の弾痕を作り出し、男達は慌ててその場から飛び退る。


(もらった!)


あえて足元を狙っていた宗次郎は、右手で剣を抜き、路地から転がり出る。それを見た男達はマシンガンを構えようと銃口を宗次郎に向けてポイントする。


「はぁっ!!!」


それより速く、一瞬で中央の男の懐に潜り込んだ宗次郎の切り上げがマシンガンを真っ二つに両断し、地面に落ちる。


「な、な…!」


驚愕する男だったが、間もなく宗次郎のジャンプキックを顎に食らって吹っ飛んでいった。


「は、速い!」


吹っ飛んだ仲間を見て慌てて銃を向けようとする二人だったが、右の男は剣で銃を叩き落され、左の男はマシンガンから放たれた一発によって弾き飛ばされた。


「こぉんの……。」


腰を深く落としながら右にねじり、右手の剣をクルリと一回転させると、




「未熟もんがぁ!!!」




一気に体を横に回転させて飛び上がり、蒼い真空波を発生させて二人を建物の壁に叩きつけた。


「……『真空蒼破しんくうそうは』。」


一回転終えてから技名を呟きつつ、剣を腰の鞘に収めた。


「銃構える以前に銃身ブレすぎ。そんなんでよく俺を狙おうとしたもんだな。」


気絶した男三人に返事がないことをわかった上でしたり顔で鼻を鳴らした。




「宗次郎さん!!」

「むっ!」


瞬間、背後から直子の声と同時に殺気を感じ、猛然と振り返ると共に剣で抜き打ちを放つ。確かな手応えを感じ、目の前で球状の物体が真っ二つに割れた。


「! やべ!」


が、それが真っ二つに割れるのを確認するや否や、血相を変えてすぐさまその場から飛び退った。



切ったのは……手榴弾・・・





【ドォン!!!】

「おどおおおおおおおおおおおお!!??」


掌サイズの手榴弾からは想像もつかない程の爆発が起こり、咄嗟に回避した宗次郎は変な声を上げながら爆風によって近くの廃ビルの中へと突っ込んでいった。







「……やれやれ……随分と反射神経のいい奴ですねぇ……。」


宗次郎が突っ込んだビルの最上階の割れた窓から、眼下で起こった爆発を壁にもたれながら見つめる男。

顔は影になって見えないが、白のコートと白のズボン、白の靴という、全身を白で統一した異様な格好は確認できる。


「まぁいいでしょう……オイ。」

「はっ。」


敬語な上に中性的な声だが、尊大な態度を隠そうともしない口調で近くにいる黒スーツの男に命じる。


「女の子を捕まえなさい。あの男が離れた今なら容易いでしょう。」

「了解しました。」


さっと身を翻し、男はコンクリの壁で囲まれた部屋を靴音をたてながら出て行った。


それを横目で確認してから、再び下の通りを見下ろす。


「……さて、私も準備にとりかかるとしますか。」




口の端を吊り上げ、不敵に笑う男なのであった。


もうちょい長かったんですけど、まぁいろいろあって短くなっちゃいました。

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