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5.狙う影

今回はちょっと長め。


〜直子視点〜



「とりあえず家には向かってるけどよ? お前、ホント医者行かなくて大丈夫か?」

「……あなたが家まで送るって言ったんですよ?」

「ワリ、病院連れてこうとしてて忘れてた。」

「オイ。」

「まぁいいじゃん。今んとこ大丈夫だし、万が一なんか異常出たらドンマイとでも言っておこう。」

「人でなし。」

「イエース。」

「…………。」


もうすぐ日が暮れる頃、私はこの謎の男、坂本 宗次郎さんと一緒に家へと向かっていた。そもそも、こんな本物の銃と剣を携えてる人と一緒に歩くなんて、物騒なことこの上ないし、何より会って間もないこの人自体を信じれない。

かと言って、連れ去られそうになった所を助けてもらったのは事実だし、それもあって無下に追い返すのも気が引ける。いくら私でも、助けてもらった人にはそれなりの礼はしないといけないということぐらいわかってる。


でも……、


「……ところでよ。あのデカブツ、何だったんだろーなー?」

「…………。」




あんな化け物と戦って勝った、この人は一体何者なんだろう?




正直な話、私はあの化け物を見て混乱している。混乱しない人は、よっぽど冷静な人か見慣れてる人だけ。それとも頭がどこかおかしくなった人なんだろう。宗次郎さんは、まるで見慣れたかのような態度だったけれど……私はあんなの、初めて見た。

盛り上がった、所々血管が浮き出ている筋肉…思い出すたびに吐き気がする。

そんな化け物相手に、剣一本と銃一丁で立ち向かった、宗次郎さん……すごいけれど、同時に謎も生まれ、ますます信頼できそうもない。


「……私が知ってるわけないでしょう?」

「だろうな。あの怯え具合だと。」


わかってたなら言わないでくれます?


「つかぶっちゃけ俺もビビった。」

「どこがですか。」

「巨大化した時。」

「落ち着いてませんでした?」

「気のせいだろ。」

「…………。」


無表情のまま平然と切り返す、この人がさっぱりわからない。


「ま、そんなことよりも、だ。ちょっと教えて欲しいことがあるんだが。」

「……何ですか。」


ぶっきらぼうに答え、ちょっと後悔した。銃を持った人はあまり刺激しない方がいいと思って、恐る恐る顔を見てみるけど、まったく気にしてないようで表情を変えずに私を見下ろす(身長は宗次郎さんの方が高く、私の身長はちょうど彼の肩辺り)。


「ああ。




ここどこだ。」


……は?


「ここって……白樺島の住宅街ですよ。当たり前でしょう?」

「は? シラカバトウ?」



思わず足を止めてしまった。



「……へ? あの、本気で言ってます?」

「? ああ。」


…………


「……すいません、つかぬことを聞きますけど……どうやってこの島に来たんですか?」

「知らんて。いつの間にかここにいた。」

「…………。」


え〜と……つまり……。


「……不法入国、ですか?」

「アホ。船なんざ乗っとらんわい。いつの間にいかいたって言ってんだろ。」


…………


船で来たわけでもなし、自覚なし、しかも島の名前さえわからない。




ますます、この人のことがわからなくなってきた。




「……おい、いつまで呆けてんだ。行くぞ。」

「……え? あ、はい!」


呆れる宗次郎さんに、混乱していた私は慌てて付いていく。


付いていきながらも、私は不安に苛まれた。ここまで怪しいと、本当に信用できない。悪い人間じゃないようだけれど、また厄介なことに嫌でも首を突っ込んでしまうハメになる。それだけは絶対に避けないと……。


「そうそう。家まで送り返したら、俺は行くぞ。これ迷惑はかけれんからな。」

「あ……そうですか。」

「んあ? 何か不満か?」

「い、いいえ!」


そ、そっか。家まで送り返したら、もうこの人とはお別れするんだった。何だ、心配することないじゃない。


「それに、厄介ごとに首突っ込むのは好きじゃない。」


……それ私のセリフです。


「で? 結局お前ん家はどこだ?」

「もうすぐです……あ、ここです。」


呑気に会話しながら歩いていたら、すでに我が家の前まで来ていた。普通の木造建築の一戸建て。この辺りでは数少ない二階建ての家。



それと、できれば入りたくない、嫌なところ。



「へぇ、そんな遠くなかったな。」

「……ええ。」

「…………随分暗いじゃねえか。」


家を見ながらげんなりとした返事をした私に気が付き、宗次郎さんが首を傾げる。


「…気のせいですよ。」


それに対し、私は誤魔化した。


「ふぅん、さよか……まぁいいけどな。」


そして、クルリと踵を返して私の家に背を向けた。


「ま、ほんの一時間かそこらくらいの間だったが、とりあえずは楽しませてもらったぜ。」

「…明らか被害被ってますけどね、私。」


目だけで宗次郎さんを見て、若干責める気持ち込みで言う。


「そういうなや、結構刺激あったっしょ?」

「ありすぎて困ります。」

「さよか……まぁとにかく、だ。」


ふっとため息を吐きながら、宗次郎さんは歩き出した。


「また縁があったらどっかで会おうや。」

「……えぇ、いずれまた。」


ぶっちゃけた話、もう会いたくありませんけど。


「そんじゃな。」


別れの挨拶もそこそこに、宗次郎さんは右手を肩の上でヒラヒラと振りつつ日が落ち始めて薄暗くなった道へと去っていった。


その後姿を、ただ私は見つめる。真っ直ぐな道を悠々と歩いていくその姿が見えなくなる頃には、すっかり日が落ちて所々に立つ街灯がアスファルトを照らし始めた。


「…………。」


しばらくの間そのままでいて、宗次郎さんが去った道を見つめつつホっとため息をついた。


いきなりのことで驚いたけど、これでようやく一日が終わる。こんな心臓に悪い出来事、毎日起こったらたまったものじゃない。銃を持った謎が多い男の人と一緒にい続けたら恐くてしょうがない。

私を連れ去ろうとした男達も、もう追ってこないだろう。車の中で連れ去られた時、あの人達は本来攫うべき人物は私かどうか疑ってたし、人違いだったに違いない。でなければ、さっきの帰り道ですでに襲われてるだろうし。

今日のことは全部忘れよう。家に入ったら、父親から勉強しろって言われるだろうし、明日になればまた学校で同じことが繰り返されるだけ。それが私の人生。私の生き方。



変わらない方が、その生活に適応できる。だから変えたくない。このしんどくて、毎日が嫌になるけれど、一番落ち着く生き方を。



「……はぁ。」


まぁ何はともあれ……ひとまず家に入らないとね。



ただでさえ門限が厳しいのにこんな時間まで外にいたとなると、父から拳骨が飛んでくるに違いないけど。



「…………。」


ドアベルを鳴らすのは恐いから、持っていた家の鍵を使って開けることにした。チャイムを鳴らした瞬間、ドアがバンッと開いて拳骨が飛んでくる可能性がある。一度体験したし。


【ガチャ】

「た、ただいま……。」


鍵を開けて、ゆっくりとドアを引いていき、おずおずと顔を家の中に入れる。




「…………………。」

「あ……。」




入った瞬間、目が合った。合ってしまった。



オールバックにした髪に、鋭い目つき、厳つい顔、ギラつく眼鏡。大柄とも小柄とも言えない、ほどよい筋肉がついた男性。紛れもなく、私の父親。スーツを着ているということは、さっき仕事から帰ってきたんだろう。


玄関の前で仁王立ちしていて、私を威圧するかのように睨みつけてくる。相当怒ってるみたいだった。


「あ、あの……。」


ドアを閉めて、目の前で立つ父を、父さんを見上げて、声を絞り出す。無意識のうちに声と足が震えているのは、恐怖から。昔から慣れていない。


「か、帰ってくるのが遅くなって……本当に、ごめんなさい。」


視線を合わせようにも、恐くて目が父さんのネクタイの方へと向いてしまう。次に来るのは、おそらく拳骨……咄嗟に私は目をギュっと閉じて身構えた。


「…………。」


でも、いつまで経っても痛みはない上に、



「ちょっとこっちに来なさい。」

「……へ?」



予想外の言葉だった。



「何をしている。早く来なさい。」

「……う、うん。」


普段とは違う穏やかな言葉に、私は戸惑いつつも父さんに従ってリビングに入っていった。


いつもだったら、『お前、こんな時間まで何をしていたんだ! このバカ娘が!!』て言って張り倒してるところだっていうのに。母さんが死ぬ前でもこんな風に喋ってるのなんて聞いたことがないのに。


今の父さんはまるで別人で、逆に恐かった。





「…………。」

「…………。」


リビングにあるテーブルに父さんと向かい合う形で座らされた私は、顔を俯けながら黙っていた。父さんも喋ろうとはせず、ただ私をじっと見ている。


重い空気が息苦しくて、この場から逃げ出したかった。机に向かって勉強してる方がはるかにマシ。


「…………。」

「…………。」

「…………直子。」

「……はい。」


ようやく父さんが口を開き、私の名を呼んだ。


「お前、どうしてこんなに遅くになるまで外にいたんだ?」

「…………。」


一番答えにくい質問を一番にされた……正直に『車で変な男の人達に攫われそうになって、それを銃を持った高校生くらいの人が助けてくれて、その後筋肉の怪物とその銃を持った人が戦ってるのを見ていた』、と答えたら、まず間違いなく叩かれる。『友達の家に遊びに行っていた』、と嘘をついてもバツ。父さんは私に友達がいないことを知ってるし、第一遊びに行ってたなんて言った日には拳骨だけじゃ済まないと思う。


「どうした? 何で答えない。答えれないようなことをしていたのか?」

「…………。」


それに、喋らなかったら喋らなかったでいずれは叩かれる。私に選択肢なんて、残っていなかった。



【バン!】

「黙ってないで答えろ!!」

「!!」


テーブルにヒビが入るんじゃないかというほど強く叩いて怒鳴る父さんに、私は怯えた。


これがいつもの父さん。だけれど、やっぱり恐い。


「が、学校で……わからないところがあったから、先生に勉強を教えてもらってたの…。」

「…………。」


父さんを怒らせないにはどうするか必死に考えた、精一杯の嘘。勉強についての理由なら、怒りも半減すると思ったから。


「…………。」


私を見定めるように腕組みをしながらじっと睨みつけてくる父さんに、私は身が縮こまるような感覚に襲われた。かつてないほどの緊張感が、私を包む。


「……それは本当なんだな?」


父さんの威圧感たっぷりの確認に、私はコクリと頷いた。


「返事をしろ。」

「……はい、本当です。」

「…………。」


じーっと私を見つめてくるお父さん。その目からは明らかな疑念が浮かんでいた。


それでも、さっさと勉強させたいからそんな問題は置いといて、部屋へ追いやるに違いない。いつもそうだったから。





「嘘だな。」





……え?



「お前、俺に嘘をついていいと思っているのか?」

「そ、そんな! 嘘なんてついて」


またしても予想外の言葉に、私は慌てて言い訳をした



【パン!】



途端、頬に鋭い痛みが走った。



父さんに、殴られたと気付いたのはしばらくしてからだ。



「言い訳するなんて、お前、そこまで偉くなったつもりか?




父親に恥かかせやがって! 身の程を知れ!!!」

「…………。」


いつもより冷たい言葉が、父さんの口から吐き出される。



今日の父さんは、いつもよりも恐かった。



「証拠はすでに挙がってんだよ……お前は学校にはいなかったという証拠がな。」

「…え?」


証拠って……何なの? 学校から連絡があったの?






「お話はもうよろしいですかな?」


!!!


「ええ、キツく言っておいたのでもう大丈夫かと。」

「そうですか。」


和室へと繋がる障子が開き、そこから大柄な男が二人出てきた。





夕方に私を攫おうとした、黒いスーツを着た。





「と、父さん…?」


信じられなくて、父さんをみやる。その父さんの瞳は、ひどく冷たかった。


「先ほど、こちらの警察・・の方々がここへ訪問してきてな。お前がこの人達の車に石を投げつけて傷を付けられた、と知らされたんだ。」

「え!?」


そ、そんな……!


「まったく、困ったものです。この間洗車したばかりだというのに。」

「本当に申し訳ありません。出来の悪い娘でして……私の教育が足りないばかりに。」


どうして……!


「いえいえ、十分反省しているようなので。しかし、これはれっきとした器物破損ですから、少しばかし質問させていただきますね。」

「ええ、どうぞ。」


違う……!!


「ち、違う! この人達警察じゃない!! さっき私を車に押し込めてどっかに連れていこうとしたの!」

「お、お前なんてことを!」


父さんが怒りを露わにしてるけれど、そんなの今は関係ない!


「信じてよ父さん! この人達に騙されちゃダメ!!」

「黙れ!! 少し優しくしてやればいい気になりやがってこの!!」

「!!」


父さんが拳を振り上げてきて、咄嗟に身を庇った。


「まぁまぁ、落ち着いてくださいご主人。」


でも、黒スーツの一人に抑えられて殴られずに済んだ。


「くっ! …………ここまで親に反抗するなんて、言語道断……戻ってきたら覚悟しておけ……!」

「父さん……。」


怒りと憎しみ、嫌悪を顔に全面的に出して吐き捨てるように言った父さんに、私は泣きそうになる。


誰も助けてくれない。もう、誰も……。


「さ、行こうか。」

「嫌!」


黒スーツの人に腕を掴まれて、必死に振りほどこうとする。


「いいからおいで。一つ二つ質問するだけだから。」

「嫌だったらイヤァ!!」


さっきより力強く握られ、思いっきり腕を振り上げた。



【バシッ!】



「ぐぅっ!?」

「あ……。」


その腕が、掴んでいた男の顎に当たってしまった。


「……こ、んの……クソガキが……!」

「!!」


化けの皮が剥がれた男が、怒りの形相で私を睨んできて思わず硬直した。



恐い、恐い、恐い恐い恐い! 助けて! 




母さん!








【ドンドン!!】


「「がぁっ!!??」」

「!?」


腕を握っていた力が無くなったかと思うと、男二人が苦悶の表情を浮かべながら吹っ飛んだ。





「無事かガキんちょ!!」

「!!」



そして、リビングに飛び込んできた茶色のツンツン頭……。



「そ……じろう、さん。」

「な、何だお前は!?」


恐怖感が安堵へと変わってへたり込んだ私を尻目に、父さんが怯えた様子で叫ぶ。


そんな父さんを見て、右手に持った銃をしまいつつ宗次郎さんは怒りを込めた目を向ける。


「……この……。」


そして一歩左足を踏み出したかと思うと、




「クソ野郎が!!!」




思いっきり右足を振り上げた。


「ぶべら!?」


宗次郎さんの渾身の蹴り上げは父さんの顎に綺麗に命中し、吹き飛んだ父さんは天井にめり込んだ。


「おい、逃げっぞ!」


そんな光景を見せ付けられた私に、宗次郎さんは右手を差し出してきた。


「…………。」


私は腰が抜けた状態のまま、その手を見つめて、ふと天井に体だけぶら下がってる父さんを見る。




(…………もう、誰も信じてくれないよね…………。)




一種の絶望を感じて、私は宗次郎さんの手を掴んだ。


勇魔もいずれちゃんと更新しますよー(今書いてます)。

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