4.暴れん坊青年
〜宗次郎視点〜
「よっと。」
名乗らなかった生意気ガキんちょを放置し、洞窟から飛び出した俺。着地すると、草を踏んでクシャリと音がする。
『!?』
案の定、連中がこっちに気付いて振り返る。数は……うん、十五人。若干多い方か。
あ、とゆーより俺らがいた洞窟、結構目立たないじゃん。草とかで隠れてて見えないじゃんこれパっと見。今さら気付いたよ俺。
まぁそんなんどうでもいいけど。
「さってと。」
【ガチャ】
腕を交差させ、顔を覆うように構える。
「……殺しはしねぇさ。ただ、軽く眠ってもらうだけだ。」
言い聞かせるように静かに呟き、ゆっくりと腕を降ろす。
右手の『滅鬼』、左手の『烈鬼』。二丁ともオートマチックハンドガン、『シグ・ザウエルP226レイル』を独自にカスタマイズした、愛用の銃。
その二丁の銃口を、前方に群がる黒スーツのヤーさんっぽい奴らに向ける。体を半身にズラし、足は肩幅まで広げ、烈鬼を顔の横へ、滅鬼を体から離して前方へ。
風が吹きぬけ、草原の草が揺れる。ジャケットも、一緒に揺れる。
ついでに髪も。腹立つわなんか。
「そんじゃ、始めるか。」
自分でも無意識のうちに、口の端がつりあがった。
【ドドン!】
「ぐぁ!?」
「なっ!?」
俺を見てて呆けてた連中の一人の腕に銃弾が命中し、悲鳴を上げた。それと同時に回りの連中も覚醒する。
まず一人目。
「レッツラ・ゴー♪」
連中が慌てて銃を構える中、俺は姿勢を低くして敵の中へと飛び込んだ。
およそ0.01秒の速さで。
「おぉらよっと!!」
飛び上がりつつ体を回転させ、二丁の拳銃から火が吹き出る。全ての弾丸は外すことなく、男どもの足、腕、肩に命中し、戦闘不能へと追い込んでいく。
やられた奴らは、くぐもった声を上げながら銃を落とし、または倒れて気絶していった。
これで五人目。
「せぃ!」
「うわぁ!?」
着地し、すかさず姿勢低くして身近にいた奴に足払い。いきなりのことで男は綺麗に回転して吹っ飛んだ。
「ふっ!」
【ダァン!】
倒れた瞬間、姿勢を低くしたまま肩に銃口押し込んで銃弾をぶち込む。男は叫び声も上げれない激痛に悶え始めた。
六人目を撃破したとこで、足に力を込め、一気にジャンプ。空中で数回転しつつ、二人の男の前に膝を折って着地した。
「なっ!? この!!」
マシンガンを構えようとするが、距離が近すぎる。ついでに遅い。
「しゅ!」
「ぐぇ!」
滅鬼のグリップ部分で薙ぎ払い、一人の側頭部に衝撃を与え、吹き飛ばす。もう一人は薙ぎ払った勢いで回転して回し蹴りを食らわして地面に倒した。
一気に八人目。
「て、テメェ!!」
気を取り直した連中が拳銃を一斉に構え、俺を狙う。
「遅い!!」
左膝を曲げ、右足を伸ばして姿勢を低くして一気に二丁を構える。
【ドドドドン!】
「はあああああ!!!!」
連中が撃ってきた凶弾に向け、俺は撃ち、撃つ、撃ちまくり、弾き、弾いて、弾きまくり、空中で火花を散らし、散らす、散らしまくる!
「うぁあ!」
「うっ!」
敵の銃弾を全て弾き返し、逆に俺の銃弾を敵にぶち込んでいき、戦闘不能にさせていく。最後にゃ残った奴らに一瞬で接近し、不意をついて足に銃弾をぶっ放し、手の銃を打ち落としてから踵落とし、そして、
「どっこいしょお!!!」
足で相手の頭を挟んで、体重を後ろへ乗せて一気に投げるフランケンシュタイナーをかまして脳天から叩きつけてやった。
「……ふぅ。」
服についた汚れを叩き落し、立ち上がってから周囲を見渡す。草原は血で所々変色し、黒いスーツを着たオッサンどもが倒れていて、上空から見ればまさに一種の絵柄が完成するだろう。当然、全員死んじゃいねぇ。痛みで気絶してるか、呻いてる奴らだけだ。
「さぁて、掃除終わり。」
銃を回転させてホルスターに収め、一息ついた。
が。
『グルルルルルル……。』
「? あん?」
が、何か知らんけど背後から変な唸り声が聞こえてきたんで振り返ってみた。
「……あら〜ん。」
なんかカマっぽい声出たけど、まぁあれだ。びっくらこいたっつーこと。
一つは、さっきので最後だと思っていたらもう一人残っていたこと。
そしてもう一つは、ビリビリ〜って音を出しながら、筋肉がどんどん盛り上がってって黒スーツを破りながら巨大化してってる男がいたんだから、そらぁ誰だって驚くっしょ?
『このクソガキが……舐めた真似しやがってよぉぉぉぉ……。』
スキンヘッドでサングラスをかけたオッサンが、巨大化しつつ地の底から這い出てくるかのようなどえらい低い声で話すもんだから、一瞬キモって思ったよ俺。
『テメェは……体をバラバラに引きちぎってから……
海に捨ててやらああああああああああああ!!!!」
最後、一際大きな雄叫び上げると、完全に上半身の服は千切れて吹っ飛び、下半身は前と同じというアンバランスな、全長二メートル程の大きさの巨人へと変身した。あ、さすがにパンツは千切れ飛んでないから安心しろ。って誰に言ってんだ俺。
まぁ、おふざけはこんくらいにして。
「……ふん。でかくなりゃいいってもんじゃねぇぞ?」
言いつつ、腰の後ろに下げられた鞘に収まった剣の柄を右手で掴み、一気に引き抜く。
魔法剣、『セルアルカブレード』。
俺の腕より長い程度の蒼い両刃を持ち、刃先から根元まで謎の文字が彫られている刀身。同じく、蒼い翼を広げた鳥の彫刻をあしらった鍔。そして鍔と一体化している蒼い柄。
全てが蒼で統一されていて、刃は蒼く発光している、神秘的な剣。唯一の色違いは、柄頭に付けられた真紅の宝玉のみ。
大事な奴から譲り受けた、大事な剣。こいつを……使う!
「ついでに、」
鞘の上に収まっているサブシンガン、『イングラムMAC11』を左手で抜き、銃口を向ける。
「蜂の巣アーンド、八つ裂きにしてやるよ……このデカゴリラが!」
【ガガガガガガガガ!】
先手必勝、マシンガンをぶっ放し、相手を怯ませる。薬莢がマシンガンから飛び出し、草の上へと次々と落ちていく。
『グオオオオアアアアアアアア!!!』
が、筋肉に弾痕は出来ているものの大したダメージは食らっていないようで、巨大な体とは不釣合いな足で地響きを上げながら突進してくる。
「おぉっとい。」
迫ってくる敵にマシンガンを撃ち続けてもしゃーないので、横へと飛び出して一回転し、凶悪な右ラリアットを回避。一瞬、腕ががら空きになった。
「おらよっと!!」
しゃがんだまま剣を上から振り下ろし、戻す直前の腕にダメージを与える。だが、浅く切った程度で、血は吹き出てはいるが大したダメージにはなっていない。
が、それも作戦のうち!
「おらぁ!!」
付けた傷口目掛けてマシンガンを連射、硬い皮膚から覗き見える赤く脆い部分に銃弾が次々とめり込んでいった。
『ガアアアアアアアアアア!!!』
「お、効いたかさすがに。」
痛みで暴れだしたデカブツからバックステップで距離を離し、マシンガンのカートリッジを交換してリロードをし、体勢を立て直す。
「んじゃあ、もいっちょ!」
一足飛びで接近し、無防備な背中へと回り込む。
「ソラソラソラアアア!!」
背中に剣での袈裟切りから始まり、回し蹴り、下段薙ぎ払い、そして足刀蹴りさらに銃撃というコンボを繋げ、呻くデカブツに切っ先を向ける。
「迸れ光! 『ラウ・セリアス』!!」
切っ先から飛び出した蒼い閃光はまっすぐ、デカブツの背中へ直撃して爆ぜる。さらによろめくデカブツの背中に飛び乗り、頭目掛けて走り出す。
「おぉぉぉぉら、」
飛び上がって右足を高く振り上げ、
「よっとい!!!!」
一気に振り下ろし、踵落としをかます!
【ゴズン!!】
『グゥエア、オオオオオオオオ!!??』
今のはさすがに一番効いたっぽいらしく、頭抑えてフラフラとおぼつかない足取りで何とか体勢を立て直そうとしている。今にも頭の上でヒヨコちゃんがピヨピヨ舞ってそうだ。
「っと。」
地面に降り立った俺は、振り返ってデカブツを見据えた。
「さて……終わらせますか。」
腰を深く落とし、剣を脇に寄せ、そして体を捻る。デカブツはまだ頭がグワングワンするらしく、フラフラしていた。
「これぞ、一発技……、」
そんな奴に容赦なく、俺は体の中にある力を、剣に注いでいく。蒼く輝く刀身はますます輝きを増していき、今にも爆発しそうなくらい膨れ上がっていく。
そして、
「『蒼魔幻刃』!!!!」
居合いの如く振り払い、蒼く輝く三日月をデカブツ目掛けてぶっ放す!
『ブォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???』
モロに食らったデカブツは、重量からは想像できないくらい吹っ飛んで行き、大体百メートルくらい先で背中から落ち、そのまま転がってさらに距離を離して、やがて回転が止まると煙を体から上げつつピクリとも動かなくなった。通った後の草は全てなぎ倒され、さながらオ○ムが通った後の如く。
「……はい、終わり。」
ヒュヒュンと剣を回転させて鞘に収めてはい終了。デカブツとの戦いは、特に苦戦もしないで実に呆気ないくらいの速さで終わった。
「おーい、終わったぞガキんちょー。」
マシンガンをしまいつつ、洞窟に隠れているガキんちょを呼ぶ。しばらくし、ガキんちょが洞窟から恐々と出てきて、おどおどしながら俺のそばまで走り寄ってきた。
「……こ、殺した、の?」
って第一声がそれかい。もうちょい労われ。いや無理か。メンゴ。
「うんにゃ、殺しちゃいねぇさ。気絶しただけ。しばらくは起きんさ。」
あのデカブツだって最小限の力に抑えておいたんだ。気絶で済んでるはずさ……最も、案外柔な奴だったら知らないけど。
「…………。」
「あ? どしたよ?」
俺を見て、プルプル震えるガキんちょ。何だ?
「……な、何でもない、です。」
「? ……まぁ、いいか。」
疑問には思うが、まぁ本人がいいっちゅーんならそれでいいか。
「とりあえず、もうちょいで日が暮れる。お前さん、家どこだ? せっかくだし送ってってやるよ。」
またさっきみたいな奴らが出てこられても困るし。
「………………。」
…………てオ〜イ。
「何だ。何か嫌なことでもあんのか?」
「………ううん。」
……あからさま顔が絶望してたぞ。
「あれか? 俺が送ってくことに不満でも?」
「え、ううん。そうじゃないんです……けど。」
「けど?」
「…………。」
ハッキリせんやっちゃなぁぁぁぁぁ……。
「……家、こっちです。」
「? ……ああ。」
怒りモードに入りそうになったが、ガキんちょが覇気のないまま歩き出したんで一旦鎮めて付いていくことに。
つか、こいつ元々覇気が全くない上に、体から負のオーラが見えてるんだが…………うぅむ。
(……こりゃまた、厄介なことに首突っ込んじまったかなぁ……何か巨大化する奴出てきたし、俺らの世界じゃ無さそうだし。)
とか、天を仰ぎたくなった。
(ちゅーかそもそもここどこだよ。)
そんでもって一番忘れちゃいけないこと思い出した俺でした。ちゃんちゃん。
〜同時刻、とある場所〜
【ガシャン!!】
「失敗しただぁ!? この間抜けどもが!!!」
「ひ、ひぃぃ!」
どこか、暗い部屋の中。直子達を襲った同じ黒いスーツを着たヒョロヒョロの男が、怒鳴り声とグラスを割る音に怯えて悲鳴を上げた。
「……クソ! 何としてでも連れてくるんだ! ……行け!!!」
「は、はいぃ!!」
イライラした声に怯えつつ、男は慌てて部屋から躓きつつも走り出て行った。
「…………。」
後に残ったのは、明かり一つない漆黒の暗闇が広がる部屋、そして静寂。
「……どんな奴か知らないが……。」
暗闇の中、若い男の声が静かに響く。が、その声には明らかな悪意、そして怒りが滲み出ていた。
「俺の邪魔をするなら……殺す!」
直子と宗次郎は知らない。自分達の知らない場所で、着々とある準備が進んでいることに。
まだまだ勉強が足りないと思いました。