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17.体に癒やしを 1

〜直子視点〜



うぅ……。


「…………。」


うぅぅ……。


「…………。」


うぅぅぅぅ……。


「…………。」


うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!


「…………



だぁぁぁぁぁもー!! 何ださっきからうーうーうーうーうーうーうーうー!! ゾンビか? バ○オハザードのゾンビかオメェはぁぁぁぁぁ!!!!」

「だ、だって……だってぇ……。」


呻き続ける私に、ついにキレた宗次郎さんが立ち止まって怒鳴った。顔が恐いです。


いえ、それよりも……。


「……この状態見てわかりませんか?」

「あぁ?」


両腕を広げて、わかりやすくした。


今着ている制服のブレザーは煤や埃で汚れて所々が小さく破れて僅かに肌色が見えてるし、スカートの裾もボロボロ。おまけに汗を吸って若干臭うし、着てるだけで憂鬱になりそう。おまけに顔も服と同じくらい汚れてるし、頬も擦り切れて瘡蓋できてるし、髪も汗でべとべとしてるし、何もかもが汚いし!


宗次郎さんに出会ったその日の朝から、全然お風呂に入ってないのにさっき気付いた…。


「あぁ〜。」


それに気付いたのか、宗次郎さんは気の毒そうな目で、


「身長低いよなぁお前。」

「ぶっ飛ばしますよ?」


私が一番コンプレックスを抱いていることを言って殺意を沸かせた。


「はっはっは、ジョークジョーク。」


全く悪びれもしないでヘラヘラ笑いながら謝罪する宗次郎さんに本気で怒りそうになった。でも我慢我慢……。


「うぅ……この制服、汗臭いし髪はベトつくし汚れてるし……ハッキリ言って気持ち悪いです……。」

「ふぅん。」


…………。


「…いや、ふぅんじゃなくてですね……お風呂入りたいんですけど。」

「諦めろ。」

「ちょ、即答って!?」


あまりの速さで諦めろと言われても納得できるわけなじゃないですか!?


「お前なぁ、この状況をよく見てみろ。」


肩をすくめて、クイっと後方に顎をやる宗次郎さん。

島の都市部を出て、すでに半日経つ。途中で休憩とってスーパーとかで買ったお弁当を食べたり、優しく吹く風を堪能したり……おかげでとっぷり日が暮れて、今は太陽が水平線に沈みかけている。しばらく歩いて気が付いたけど、左を見れば大樹が聳え立っていて、右を見れば僅かに海が見える。海に沈んでいく時に見える夕陽と、その夕陽に照らされてまるで輝いてるように見える山はすごく綺麗……。



だからって体の汚れがどうこうなるわけじゃないけれど。



「見ての通り、道以外何もないし、風呂なんてもってのほか。まぁもうしばらく歩けば山に着くだろうけど、風呂があるなんて保証まったくないだろ? そんな疲れ切った体でまだ歩くってんなら、お前倒れるぞ?」

「う……。」


正論……思った以上に山までの道は遠くて、歩き続けて足がもう限界。下手したら倒れそう……ホントに体力のない私。


「……こればっかりはどうにもできねぇからな。ま、もうちょっと歩いてから休むとしようや。一日中歩きっぱなしで疲れたぜ。」

「……うん。」


………小さい島のはずなのに、予想以上に広いこの大草原を不思議に思いつつ、後体のベタつきを気にしつつ私は再び歩き出した。







何分経ったかわからないけれど、日が完全に落ちて、それでも夕陽の名残がかろうじて残っているお陰で薄暗くなった草原の道を歩き続けていた私は、そろそろ限界だった。


「……お?」


無意識のうちに肩で息をしている私を放って、ある一点を見つめて一人タッタと走り出す宗次郎さん。

その先には、道の脇にある明らか人の気配が感じられない一軒の寂れた小屋……農作業用の道具が小屋の横に置かれてあるから、倉庫みたいな物かも。もしかしたら、ここら一帯は畑が広がっていたのかもしれない。

その小屋の脇に一つ、錆ついたドラム缶が放置してあった。宗次郎さんはそれに近づいて手で触れてみる。


「……ふむ。」


唸り、カンカンと小突く。錆でボロボロに見えるけどまだ頑丈みたいだった。


私は宗次郎さんの横に並んで、そのドラム缶を見る。近くで見ると尚汚らしくて、できればあまり触りたくないくらいサビサビ。なのに宗次郎さんの横顔は、どこか満足気だった。


「あの、これがどうかしたんですか?」


よくわからないから聞いてみると、宗次郎さんは私の方を一瞬見て、すぐにまたドラム缶に視線を戻した。


「……ふむ、後は…………お。」

「? はい?」


いきなりハッとしたかのように顔を上げて、私は首を傾げる。


「シッ! ちょっと静かにしろ。」


言われて、咄嗟に私は口を噤んだ。


「………………。」


目を閉じて、じっと黙り込む宗次郎さん。顔は真剣そのもので、雰囲気から話しかけちゃダメだって警告してるよう。


私も黙り込むことで、周囲は風が吹いて草が擦れ合う音と、虫の鳴き声しか聞こえてこないほどの静寂が私達を包み込んだ。



「…………む。」

「?」


しばらく黙っていた宗次郎さんが小さく呟いたかと思うと、急に歩き出した。


「ちょ、どこ行くんですか!?」


ズンズンと進む宗次郎さんの先は、腰の高さまである草が生い茂る草原。いきなりの行動に、私は慌ててついていくことしかできなかった。




「お、ビンゴ。」

「…!!」


二分ほど歩いたのかもしれない、そう小屋から離れていない場所に、私達は出た。


大して大きくない、幅も私が大また三歩で渡れるほどの川。川原は草で生い茂っていて、栄養を与えてるのかもしれない。

すっかり日が落ちて月が昇った夜空の光を浴びて、澄んだ水が小さなせせらぎの音をたてながらキラキラ光る……幻想的な光景に、私はため息をついた。


「キレイ………。」

「見た目はな。中身はどうか…。」


そう言って、宗次郎さんはしゃがみ込んで川の水を両手で掬って口に運んだ。


「…………中身よし、見た目よし。完璧な川だなこりゃ。」


立ち上がった宗次郎さんは満足気に呟いた。


「おーし、ちょっと待ってろよーガキんちょ。」

「……は、はぁ。」


……なんだかよくわからないんで、言われた通り待ってることにした。







〜宗次郎視点〜



「よいしょ。」


さっきの小屋まで戻った俺は、小屋の横に山のように積まれてる道具の中を漁った。農作業用の他にも、土木作業用のがいくつかあるからもしかしたら…………よっしゃ、案の定あったあった。

見つけたソレらを重ねて左手に、そしてさっきのドラム缶を右手で持ち上げた。片手で。中身が空洞だったから、メチャクチャ軽い。

そのドラム缶を担ぎ上げたまま、俺はガキんちょがいるさっきの場所まで戻った。


「? それ、どうするんですか?」

「まぁ待てって。」


訝しげなガキんちょをよそに、ドラム缶を脇に置く。そして持ってきたソレの一つ、コンクリートブロック四つも地面に置いた。

ひとまず、周辺の草を剣で一通り刈り取る。円状の、半径一メートルほどの小さな広場が完成。その中央にブロックを正方形の形に置き、空いた真ん中にコンクリートブロックと一緒に持ってきた薪をくべ、その上にさっき刈り取った中にあった枯れ草と、ポーチん中から取り出した新聞紙を敷く。最後にブロックの上に乗せるようにドラム缶を置く。バランスも悪くなく、グラつかない。高さもちょうど俺の肩辺りで、これで一通り完成。


続いて、一旦小屋に戻って取ってきたバケツを使う。若干サビついてるが、穴はどこも開いてないし、まだまだ使える奴だ。

それで、川の水を汲み上げてさっきのドラム缶の中に流し入れる。大きいドラム缶だから入れるのには時間がかかるが、そこはもう根気。延々とその作業を続ける。

川とドラム缶を行ったり来たり。それを数十分繰り返す。

やがて十分な量の水がドラム缶の中に満たされてくる。ここで水を汲むの終えてバケツを置き、今度はポーチの中からライターを取り出す。ライターに火を点けて、下に敷いてある新聞紙と枯れ草に火を点ける。最初は小さかった火が、少しずつ大きくなってきたのを確認して、一旦休憩とることにした。


「うむ、こんなもんかね。」

「……あの、何してるんですか?」


火のそばにしゃがみ込む俺にガキんちょが聞く。わかってないのかこいつ。わかろうぜ。


「見てわからんか?」

「……いえ、まったく……。」


…………マジ?


「………まぁいいか。そのうちわかる。」

「?」


まだよくわかってないガキんちょは放っておいて、俺はドラム缶の中の水が温かくなるまで待つことにした。


その間、ずっと無言だった……まぁ、別に話すこともないし、どうだっていいけど。ガキんちょはなんか落ち着いてなかったけど。



それからしばらくして、ドラム缶から湯気が立ち昇ってきた。手を少し突っ込んでみると、大体40℃程度の熱さになっていた。上等。


最後の仕上げに、小屋から持ってきた何に使うかわからないけど、ちょうどいい木製の丸い蓋をドラム缶のサイズに合わせるように剣で少しずつ削っていく。ちょうど一回り小さい位の大きさになったところで、それをドラム缶の中のお湯に沈めれば……



出来たー。



「ほい完成。五右衛門風呂ごえもんぶろ!」

「……へ?」


ドラム缶で作った、即席の風呂。

サビついたドラム缶から立ち昇る熱気と、その下でコンクリートブロックの支えの中でパチパチと火の粉を上げる焚き火。


見た目はともかく、俺一人が入るにはちょうどいい大きさの立派な風呂が完成した。


「…ご、五右衛門風呂?」

「そ。五右衛門風呂。知らないか? 昔の風呂。」

「…………。」


で、それを見たガキんちょは目をパチクリさせる。生まれて初めて見たって顔だ。無理もねぇか。性格からしてこいつインドア派だもんな。


「ま、とりあえずお前のお望みの風呂だ。入れ。」

「は?」


いや、は? って……。


「…風呂入りたいんだろ? 入れ。」

「………はいぃ!?」


いきなりガキんちょが大声出した。俺はびっくりした。どれくらいかと言うと、道端で寝ながら『道端バンザイ!!』って叫んでる人を見た時くらい。いやそんな光景あんま見ないよな。うん、例え悪かった。ゴメン。


「いや、だって、今ここ、野外ですよね!? 野外ですよね!?」

「? ああ、そうだが。」


こいつ何言ってんの?


「そ、そそそそ外でお風呂って!? そんな、なんか恥ずかしいじゃないですか!?」

「あぁ? んでだよ。今いるの俺とお前くらいだろ? 何を恥ずかしがる。」

「いやあなたがいるから恥ずかしいんです!! 男でしょうあなた!?」


……そんな理由かい。


「ったく、自分のスッポンポン見られるくらいで何を恥ずかしがるか。」

「恥ずかしいでしょう普通!? 私女でしょう!?」

「だから?」

「え? いや、だから、男の人の前でお風呂っていうのは…。」

「俺が他人のスッポンポン見て喜ぶと思うか?」

「……それってつまり、私の裸見たってどうだっていいってことですか?」

「ああ。」

「…………。」


睨まれた。俺睨まれたよ。別に悪いこと言ってねぇのに。恐くないけどさ、何この理不尽?


「……はぁ。そんな入りたくねぇなら俺だけ入るわ。汗かいて気持ち悪いし。」


せっかく作ってやったってのに、まったく……ちゅーわけで、ジャケットを脱いでっと。


「あ!? いえ、その、入りたくないってわけじゃなくて!!」


ジャケット脱ぎかけたところを、何故かガキんちょが慌てだした。忙しい奴。


「はぁ……じゃどうすんだよ。入るのか。入らないのか。ハッキリしろい。」

「う……。」


そして急に赤面して俯いた。ホント忙しいなこいつ。


「………………わ、わかりましたよ……入ります。」

「入りたいなら最初っからそう言え。」

「で、でも! 服脱ぐ時はあっち向いててくださいよ!? 絶対いいって言うまでこっち見ちゃダメですからね!!」

「へーいへいっと。」


何故か顔を真っ赤にしながら指差された方へ体を向けた俺は、背後でガキが服を脱ぐ音と虫の涼やかな鳴き声をBGMに、月光が反射して輝く川と風に揺れる草が織り成す絶景のコラボレーションを堪能した。


ああ、月見団子食べたい……。


五右衛門風呂……やったことないんですけど、こんな感じでよかったんでしょうかね?


まぁ気ニシナーイてことで。

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