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13.廃ビルの戦い4



〜直子視点〜



「な、なに!? 地震!?」


ビルの中に響き渡る轟音、そして天井から降り注ぐ埃……思わず私は、廊下の壁に手をついて振動に耐えた。


揺れはまだ続く。もしかしたら、このビルが崩壊するんじゃないかと思うくらい、轟音が鳴り響き、揺れはさらに強くなる。現に壁の一部分にはいっていたヒビが若干大きくなった気がした。


でもこれ、地震とは違う気がする……揺れがずっとじゃなくて断続的だし……もしかして。


「……宗次郎さん?」


ここまで激しい戦い方をするとは思っていないけど、あの人の性格からしてもしかしたら……。


「……上……かな?」


見上げて、ボロボロになった天井を見上げる。さっきの揺れで損傷が激しくなって、いつ崩れてもおかしくない程になっていた。それほどまでにこの廃ビルは劣化してるんだ…。


「……階段、どこだろう?」


私は今、一階のどこかもわからない廊下にいる。窓があるから外の景色は見えるけど、それで階段がわかるというわけでもない。

とりあえず、手当たり次第に探して階段を見つけないとならない。途中で黒スーツの男達に出くわす危険性があるけれど、動かないと階段だって探せないし……うん。


「えっと……。」


廊下を走り、途中で見つけたドアを少し開けて中を覗き込んだりもする。ほとんどの部屋の中はガラクタばかりで何もないし、薄暗くて不気味で、暗闇の向こうから何か出てきそうな感じの部屋もあった。そこはろくに確認もせずに力強く扉を閉めた。

時々、さっきの揺れと轟音が響いてくる。上で宗次郎さん(多分)が暴れている……んだと思う。下手したらこのビル、崩れそう…。


ともかく、早く階段探さないと。


「はぁ、はぁ、はぁ……。」


ずっと走ってばかりだったから、そろそろ息が切れてきた。


「……あ……。」



そして廊下が切れたところで、ようやく見つけた。


上へ昇る階段。非常階段になっていて、階段の幅が広くて、踊り場も通常の階段よりも広い。



「おい、そっちはどうだ? ……そうか。」





そして地下一階へ続く下の踊り場で携帯電話を耳に当てている、黒スーツの男がいた。





「!!」


それに気付いた私は慌てて壁に身を隠した。


(あ、危なかった……。)


走っていたから、勢いそのままで階段を駆け上がっていってバレるところだった……。


一旦呼吸を整えて、バレない程度に壁から少しだけ顔を出す。幸い、相手は電話に夢中な上にこっちに背を向けているから気付くことはない……ハズ。


「ああ、こっちもダメだ。まったく、足の速いガキだ…………そうだな、見つけ出したら速攻で捕まえろよ。辰時さんをあまりイラつかせない方がいいだろうしな。」


聞きなれない名前が出てきた。多分、男達を統率してるリーダーだと思う。


「あ? 辰時さん? あの人なら、ガキと一緒にいたあのツンツン頭の野郎を始末してるところだろうよ。」



……え。



「大丈夫だって。なんてったってあの辰時さんだぜ? いくらあの野郎が抗ったって無駄に決まってる…………ああ、わかったらすぐに捜索を続行するぞ。じゃあ後でな。」


ピッと電話を切る電子音がして、男は携帯電話をズボンのポケットに入れた。


「ったく、あのガキ……見つけだしたらただじゃおかねぇ……。」

「…………。」


……電話を切る時、男の横顔が見えた。あの男は、私が頭に負傷させた上に、顔を蹴り飛ばした男……ハッキリと、顔からは私に対する怒りと憎しみが見て取れた。



さっきと同じ恐怖が、また体を蝕もうとしているのを感じた……。



(ど……どうしよう……。)


廊下の反対側を探してみようか……ダメ。今思い出してみれば、向こうへ続く廊下は重い防火扉で塞がれていたんだった。向こう側で何かがつっかえていて、開かなかった。


となれば、もう階段はここしかない……でも見つからないように移動しないといけないし……



何よりバレた瞬間を思うと……体が無意識のうちに、硬直してしまう。



「……殺される……。」


あれは私を捕まえようとしてる目じゃない。明らかに殺す目だった。


仮に捕まったとしても、何の目的で私を追うのかわからないけど、用が済んだら間違いなく…………。


「……うぅ……。」


さっきの恐怖による震えがまた襲い掛かってきて、思わず体を抱きしめる。


大体、普通に生活していた中学生がこんな非日常に巻き込まれることがおかしいよ……全部、狂ってるよ………。



「……チッ。しょうがない。あっち探すか……。」

(!!)


一人蹲って嘆いてると、男の独り言が聞こえた。


(来る……!)


迫ってくる危険に、私は立ち上がって逃げようとした。



(……あれ?)


逃げようとした……けど。


「あのガキ、どこ行った……。」


男の声と靴の音が階段で響き渡る。その声は近づいてくるんじゃなくて、徐々に下の方から聞こえてきた。


男は、地下へと向かっていた。


(や、やった!)


一人安堵と喜びで思わず大声を上げそうになったところを慌てて口を抑える。壁から階段を覗き込むと、階段の踊り場にいた男の姿はなく、地下から靴音が響いてくる。でもそれは地下を調べてるようで上がってくる気配はない。


「よし、今のうちに…。」


自分はなんて運がいいんだろう……そんなことを思いながら、私は二階へ続く昇り階段へと走る。男は地下に行ったけど、すぐに戻ってくる可能性があるからモタモタしていられない。


そして私は、階段の手すりに手を乗せた。



確認・・せずに。




【コツン】



「あ……。」


乗せた……手すりの部分に、朽ちて落ちてきたんだと思う、拳大のコンクリートの欠片が置いてあって、私の手がそれに当たった。

欠片は、手に当たった衝撃でバランスを崩し、真っ直ぐ地下へと、




【ガン!】




落ちた。


「!!」


予想外の音の大きさで、私は肩を震わせた。



「オイ、誰だ!! そこに誰かいるのか!?」



……私は、運がいいんじゃない。最悪だった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「うおりゃあああああ!!!」


場所は先ほどのオフィスビルから変わって、建設途中だったと思われる、何の手も加えていない灰色のコンクリートの壁と、同じくコンクリートで作られた立体型長方形の柱が二本立っている広い部屋まで吹き飛んだ辰時を追い、宗次郎は剣を振り下ろした。


「チィ!」


初めて見せた動揺と同時に、辰時は横へと飛んで回避する。剣はコンクリートの床を砕き、亀裂を作る。


「まだまだぁ!!」

「! 『金属硬質化』!!」


右足を踏み込み、避けて硬直している辰時目掛けて剣を薙ぎ払う。それを辰時は強化したナイフを縦に構えることで防御した。


「ぬおりゃああああああ!!!」

「ぬぅ!?」


だが、宗次郎は防御されたにも関わらずに剣を強引に振り、辰時をナイフごと吹き飛ばす。辰時はコンクリートの床の上に、膝を折って着地した。


「はあぁぁぁあ!!」

「クソ! 『繊維硬質化』!!」


そこを狙い、宗次郎は一瞬で間合いを詰めて低い体勢のまま腰を捻り、剣を振る。


「『そう』!!」


捻った腰を戻す反動を利用し、剣を振り上げる。辰時はそれを硬質化させたコートの袖で受けるが、衝撃で体が若干浮く。


「『くう』!!」


宙に浮いた状態で左足の回し蹴りを辰時の右頬に叩き込み、怯ませる。


「『翔斬破しょうざんば』!!!」


そこから着地と同時に剣を床に叩きつけ、剣から発生した蒼く輝くカマイタチが辰時を吹き飛ばした。


「ぐぉ!」


吹き飛ばされた辰時は、風圧に切り裂かれた上に勢いを殺すこともできず、二本の柱も破壊しつつ部屋の端まで飛んでいく。最後は壁に背中を強く打って口から血を噴出した。

辰時がめり込んだ壁は崩れ、穴が開く。


「少しは食らったかぁ? このガリガリ野郎。」


へっ、と笑って挑発する宗次郎。それでも構えを解かず、いつでも迎撃できる態勢を保っておく。


「ぐぅ……っ!」


コートは裂け、体中が傷だらけになりつつも、辰時はなんとか立ち上がった。


(バカな……先ほどより動きがよくなっている……!?)


口元の血を拭い、ナイフを構える。


(しかも行動を先読みされている……この私が!)


今までにない屈辱と焦りを感じ、辰時は唇を噛み締めた。


(こんな……。)


ナイフを握る手に力が入り、徐々に辰時の顔が怒りで歪んでいく。



「こんなガキにぃぃぃぃ!!!!」



空いた左手をコートの中に入れ、ポケットから手榴弾を取り出す。


「『火薬増幅』!!!!!」


手榴弾を強化し、ピンを引き抜いて投げつける。宗次郎はそれを弾かず、逆に手榴弾の下を潜り抜けた。宗次郎の背後で手榴弾が爆発し、爆炎が宗次郎を襲うものの、本人は全く気にせず駆け抜ける。


「『金属硬質化』!!!!!」


再び辰時の怒声のような呪文が響き渡り、小型ナイフを投げつける。一本ではない。五本同時に投げつけ、鈍く光る刃が宗次郎へ向かって飛ぶ。

だが、それに臆することなく、宗次郎は剣を振って三本叩き落し、一瞬でホルスターから抜き放った烈鬼を二発撃って残す二本を弾き飛ばした。


「うおおおおおお!!!」


剣を大上段に振りかぶり、辰時に迫る宗次郎。


「!! う、『腕の筋力増強、金属硬質化』!!」


連続攻撃を全て防ぎ、一瞬呆然としてしまった辰時だったが、宗次郎が剣を振った瞬間我に返って慌てて自らの筋肉を強化して同じく強化したナイフを掲げた。


「変な小細工してねぇで……!!」


辰時との距離が一メートルのところで飛び上がり、宗次郎は剣を持つ手に力を入れた。




「己の力で向かってこんかぁぁぁぁい!!!!」




渾身の一撃を振り下ろし、頭上に掲げた辰時のナイフとぶつかり、辰時の足元の床に衝撃が伝わってヒビが入る。


「うぐぉっ…!」


凄まじい力により、強化された筋肉が軋み、辰時は顔を顰める。それに構わず、宗次郎はさらに力を入れて押していった。


「はぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」

「うぐぉぉぉぉ……!!」


やがて、力負けしていく辰時の背中は反り返るかのように曲がっていき、辰時は負けじと押し返そうと試みるが、圧倒的な力の差に成す術もなく、押されていく一方だった。


(おのれ……こんなガキに私が押されてたまるか…!!)


さっきと変わって形勢逆転され、辰時はすでに頭に血が上っていた。

今頭の中には、この目の前にいる青年、宗次郎を八つ裂きにすることしか考えていない。



プライドが高い彼にとって、この劣勢は許しがたいことだった。



(もう容赦しない! 確実に殺してくれる!!)


すでに先ほどの余裕はない。歪んだ顔で、宗次郎を睨み付けた。


「『全身の筋力増強』!!!!!」

「!!!」


ありったけの力で叫び、全身の筋肉を強化した辰時はナイフを振り払って宗次郎を弾き飛ばす。飛ばされた宗次郎は、宙で一回転して着地した。


「あぁもぉ、しつけぇなぁホント…。」


剣を構えなおし、忌々しそうに呟く宗次郎。だが、辰時から湧き出る殺気にすぐに表情を切り替えた。


「小僧……調子に乗るなよ……!!」


ナイフを構え、殺気がこもった目で宗次郎を睨む。すでにナイフの刃には傷が入っており、これ以上使い続ければ確実に折れる程だが、強化をする限りその刃が折れることはない。


だが、口調がさっきと違って一変。性格が露わになり、怒り、憎しみが込められた高圧的な態度で話す。


「ここで……コロス!!



『全身の筋肉増強、金属硬質化』!!!!」



叫ぶと同時に姿が消える。


「死ねェェェェェェェェェェ!!!!!」


一瞬で宗次郎の懐に潜り込んだ辰時は、ナイフを渾身の力で突き出す。



「……あのなぁ。」

「なっ!?」


が、そのナイフは体を体を少し横にズラすことでいとも容易く避けられた。


「そんな怒りや憎しみに任せた攻撃なんぞで…。」


剣を両手で握り、振り上げる。


「俺を……、」


グっ、と力を入れる。


「殺せると、」


そして、




「思うな!!!!」




振り下ろした柄頭を、辰時の背中に叩きつけた。




「!!!!!!」


背骨が砕け、尋常じゃない激痛を背中に受け、辰時は床に体を打ちつける。凄まじい衝撃が体を走りぬけ、辰時は二度全身にダメージを受けた。




【ミシッ】




そして、その衝撃を受けた床も限界を迎えていた。


次回、廃ビルの戦いに決着を。

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