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12.廃ビルの戦い3



〜直子視点〜



私は歩み寄ってくる男の気配を感じつつ、荒い息を必死に抑えて、恐怖で思わず身を小さくして隠れる。近づくにつれ、男から発せられる殺意がひしひしと背中に感じる。自然と目から涙が零れ落ちる。


瞬きもできないで、見開きすぎた目が痛む。


握り締めたスカートの裾が、皺だらけになる。


必死に泣き声を抑えるために噛んだ下唇から、一筋の血が流れ出る。


体の小刻みの震えが、止まらない。


思わず、首から下げたお守りを壊れんばかりに握り締める。





捕まる。殺される。捕まる。殺される。捕まる。殺される。捕まる。殺される。捕まる殺される捕まる殺される捕まる殺される殺される殺される殺される殺サレルコロサレルコロサレルコロサレルコロサレルコロサレルコロサレルコロサレルコロサレルコロサレル………!!!!!





「ここかぁ!!!」



!!!






「……って、いねぇ……。」



…………。



「おい、どうした。いたのか?」

「……いねぇよ……クソ!!」


ガァン、とドラム缶を蹴りつけ、男は怒りを露わにしつつ踵を返した。私は音に驚き、ビクリと震えた。


「クッソ、ここだと思ったんだが、どこにもいやしねぇ……。」

「えぇい、さっさと探すぞ! ガキの足じゃ、そう遠くへは逃げれないはずだしな。」


男達は口々に言い合いながら、部屋から出て行く。


部屋は、再び静寂が訪れた。


「…………………。」


私は、男たちがいなくなったのを見計らって恐る恐る顔を出した。




空っぽの砂袋から。




「………はぁ……はぁ……はぁぁぁ…。」


肩で息をしつつ、安堵でため息をつく私は、モゾモゾと砂袋から這い出てきた。


男達が私を探して部屋を荒らしてる時に、手に触れた砂袋が空だったのに気付いた。それで何も考えずに、咄嗟にドラム缶の横に無造作に置かれてあった空っぽの砂袋の中に潜り込み、満タンの砂が入った砂袋になりきった。中はジャリジャリしてる上に、私の体温で袋の中の気温が上昇してジメジメと蒸し暑くなってきて、息をするのも苦しかった。それでも必死にやり過ごそうと息を潜め、我慢し続けた。


男達は頭に血が上っていたせいか、あまり調べずにさっさと行ってしまった……咄嗟に思いついたにも関わらず、何とかやっとのけた。


「……助かった……。」


息苦しい袋の中から開放され、息を吸って未だざわつく気持ちを落ち着かせる。少し慣れてきて、私は立ち上がって制服の汚れを払った。


「…………。」


ふと、私は首に下げて、制服の中に隠しているお守りを服の上から掴む。


「……………逃げないと。」


気持ちを新たに、私は砂袋の山を飛び越えた。


早くしないと、男たちがここに戻ってくる危険性がある。それに、宗次郎さんが心配だし、早く見つけ出さないと。


「…あ。」


ふと、部屋の隅に目をやった。そこには、一本の鉄パイプが立てかけられてあった。


「…………。」


……恐いけど、持っておいた方がいいよね……。


私は躊躇いつつも、部屋の隅に置かれてある鉄パイプを手に取ってみた。思ったより若干重い……でも、使えないこともない。貧弱な私だけど、これを振るう程度の力なら一応ある。


ただ、真っ向から戦う……には、全く自信がない。大柄の男の前に、あっさりと敗れてしまうのが目に見えている。


「……よし!」


鉄パイプを武器にして、少しだけ自信を取り戻せた私は部屋を飛び出した。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




〜ライター視点〜



「うおりゃあああああ!!!」


元オフィスにて、宗次郎は飛んでくる二つのうち一つの手榴弾を剣で弾き飛ばし、窓の外へ落として爆発させる。もう一つは空いた左手で殴り飛ばし、辰時に返す。


「はぁ!!」


が、お返しの手榴弾を辰時は小さく口を動かしてから翻したコートでさらに返す。


「いるかこんなもん!!」


宙で手榴弾が爆発し、悪態をつきつつその爆炎の下を潜り抜けて一瞬で辰時に迫る。


「ほぉ?」


振りかぶられた剣をナイフで受けつつ、辰時は若干驚く。返す手榴弾を切るわけでも、外に落とすわけでもなく逆に向かっていき爆発の範囲外を狙って潜りぬけた宗次郎に、辰時は笑いを浮かべる。


(大した度胸の持ち主だ…。)


ナイフを振り、迫り合いから逃れる辰時。だがそれを宗次郎は許さず、剣を振るう。


(しかし……。)


一瞬、チラリと宗次郎の足元へ目線を移す辰時。明らかに動きづらいはずのブカブカのズボンだが、宗次郎は全く気にすることなく巧みなフットワークを駆使して辰時を追う。


「これはどうです?」


静かに言い放ち、辰時は左手をコートの中へ入れる。


「『金属硬質化』。」

「!!」


宗次郎がそれに気付いた瞬間、辰時は魔法の詠唱と思われる言葉を呟き、彼の足目掛けて小型ナイフが一本、空気を裂いて飛び出す。それを宗次郎は足を引いてそれを回避した。


「隙ありです!!」


足を引いた隙をついて、ナイフを突き出してくる辰時。


「隙なしです!!」


が、それを剣を振って弾き、左手の掌底を放つ。辰時は体を反対に逸らし、不意をついた掌底を避けた。


「おらぁ!!」

「むっ!」


体を逸らして身動き取れない辰時に向けて剣を右から左へ薙ぐ。それを辰時は体を逸らしたまま床に手をついて、アクロバットで回避した。


「まだまだぁ!!」


腰の後ろに携えられているサブマシンガンを左手で抜き、一瞬で照準を合わせてトリガーを引く。それを辰時は連続アクロバットで次々と回避していき、辰時を狙った銃弾は全て辰時がいた床に弾かれていった。


「うおおおおおおおおお!!!」


銃身を巧みに動かして辰時を狙う宗次郎。だが、一向に当たらないことでイラつき、血管が浮き出してくる。


「そんな我武者羅に撃ったところで……。」


アクロバットを止め、一瞬で姿勢を低くしてクラウチングスタートの構えを取る辰時。


「弾丸の無駄遣いでしょう!! 『足の筋力増強』!!!」


目にも留まらぬ速さで、ナイフを突き出しつつ突進してきた。


「!! チィ!!」


宗次郎は剣を横に傾け、その攻撃を防御すべく身構える。



【ガァァァン!!】



「ぐぁぁ!?」


華奢な外見とは裏腹に、まるでダンプカーが最高速度で突っ込んでくるかのような力をまともに受け、宗次郎は歯を食い縛った。


「おっと、言い忘れておりました。私の魔法、『物質強化』はですねぇ、自らの筋力でさえも自在に強化することができるのです。」


剣の腹でナイフの切っ先が火花を上げ、宗次郎を見上げてニヤリと笑う。


「ですから、こうやって一瞬のうちに力を爆発的に強化させることだって容易いことなのです……よ!!」

「!!」


力が抜けたかと思うと、辰時は一瞬で宗次郎の頭上まで飛び上がり、ナイフを一気に振り下ろす。


「『腕の筋力増強』。」


ナイフの刃と剣の刃が接触する瞬間、辰時はポツリと呟いた。



【ズン!!】



「ぐっ!?」


宗次郎は咄嗟に剣を掲げて防御するが、落下と筋力増強の魔法によって床へと叩きつけられる。背中を衝撃が走り、顔をしかめて激痛を堪えるが、口から一筋の血が流れ出てきた。


「ほぉ……この力を受けるとは、さすが……。」


ナイフで宗次郎を剣ごと押さえつけ、ニタリと笑う辰時。宗次郎は剣の刃を左手で抑えつつ、必死に上からかかる重圧に耐える。


「ですが、もうここまで……楽にしてあげましょう!



『金属硬質化、全身の筋力増強』!!」



魔法がかけられたナイフと強化された腕の力で、辰時は宗次郎を押し潰さんとばかりにナイフを宗次郎の顔に近づけていく。


「んぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃ………!!」


とんでもない力が防御している剣を通して、腕に、肩に、体に圧し掛かってくるのを感じ、歯を食い縛って耐える宗次郎。だが、本人は耐えているが、彼自身もろとも押さえつけられている床が悲鳴を上げ始め、亀裂が入っていく。


「ほらほらどうしますかぁ!? 床が悲鳴上げてますよぉ!? 『金属硬質化、全身の筋力増強』!!!」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ………!!」


ブルブル震える腕と剣に連動して、勝利を確信している辰時のナイフが震える。その刃は、今にも宗次郎を切り裂きたいと言わんばかりにギラつく。





「……舐めんなよ……。」

「?」


重圧に耐えて話すのも億劫な中、宗次郎は口の端を吊り上げて笑う。


「俺にはなぁ……。」


床のヒビが広がっていく中、宗次郎は不敵に笑う。


「まだ……。」


そして、




「足があるんじゃーーーーーい!!!!」




両足を揃え、ガラ空きになった辰時の腹に渾身のキックを叩き込んだ。


「ぐぁ!!」


不意を突かれ、受身もままならない辰時はそのまま部屋の壁まで飛んでいき、その壁さえも破壊してその向こうまでもさらに破壊。ついには隣のビルまで吹き飛んでいった。


「テメェのその減らず口……。」


立ち上がり、すでに限界を迎えたのかさらに広がっていく床のヒビ。その中央で、宗次郎は膝に力を溜めていく。





「この拳骨めり込ませて二度と開かないようにしてやるよ!!!」



爆音とも聞き間違えるほどの大きな音をたて、宗次郎は部屋の床を破壊したのも気にせずに、辰時が吹っ飛んでいった隣のビル目掛けて駆け出した。



さながら、ロケットの如く。


連続で更新しました。まだだ! まだ終われんよ!!

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