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11.廃ビルの戦い2

〜直子視点〜



「はぁ……はぁ……はぁ……。」


学校の教室より若干広い程度の、埃が充満してる一面コンクリートに囲まれた部屋。かつてはビルを建設する予定だった場所みたいで、辺りにはドラム缶や三角コーン、砂袋といった資材が積まれて置かれてある。


その中の一つであるドラム缶の影に、息を潜めている私。


「はぁ……はぁ……すぅ……はぁ…!」


未だに荒い息が止まらず、必死に止めようと何度も深呼吸を試す。それでも、恐怖で体が竦み、自然と息が荒くなる。


「は、ぁ………な、何で……。」


どうにか呼吸が元に戻ってきた。でも、恐怖は消えない。むしろムクムクと沸き起こる。


何故なら……、




【ドォォン!!】


「クソガキどこ行きやがったあああああ!!!」

(!!!)


部屋の入り口がまるで爆音の如く豪快な音を出しつつ勢いよく開き、激しい怒りを込めた怒声が聞こえてきた。


「おい、この部屋で間違いないよな?」

「ああ、粗方探しつくした。もうここしか逃げ場はねぇさ。」


ドラム缶と砂袋の山の間にある小さな隙間。そこから覗き見てみると、黒スーツの男が三人、部屋の入り口に立っている。


「あ、あぁぁぁ……。」


それを見るやいなや、無意識のうちに恐怖で体が震えだす。捕まってしまう、それもある。



けれど、それより恐かったのは……先頭に立つ、頭から血が流れ出ている男。




……どうして、こんなことに……。




体を抱くように蹲って、私は自分がしたことを後悔し始めた。







あの時、私は竦んで動かなかった足のまま、私を捕まえようと迫ってきた黒スーツの男から逃れようと手だけで必死に下がった。


けれど、背後で建物の壁に遮られて逃げ場が無くなった。


「さぁ、もう逃げられないぜ……観念しな!」


勝利を確信した男が私を捕らえるために腕を伸ばしてくる。それを見た私は、尻餅をつきつつも逃げようともがいた。


「!」


必死に動かしていた手に、コツンと何かが当たる。目だけを動かしてみると、そこにあったのは拳大のゴツゴツしたコンクリートの欠片…。



咄嗟に私はそれを掴んでいた。



「うああああああああああああああ!!!!」


迫る男に恐怖していた私は、何も考えずに手にした石を振りかぶった。


「ぐぁぁぁ!!??」


私が反撃するとは思わなかったのか、ノーガードだった頭に直撃を受けた男は頭を抑えて後ろに倒れこんで悶え苦しみだす。


「はぁ……はぁ……。」


力が入らなくなった手から、石が零れ落ちてゴトリと音をたてる。同時に、私の中に別の恐怖が湧き上がってくる。



人を、傷つけたという行為。そして、相手を怒らせるような行為に、私は恐怖した。




「オイ! ガキがいたぞ!!」

「!!」


声がする方を見る。そこには、二人の男がこっち目掛けて走ってきていた。


「あぁぁ……。」


逃げないと……逃げないと、捕まる。足を動かさないと、捕まる…!



【ガッ!】


!!



「テメェ……この、クソガキが……!」


這って逃げようとした私の足を、誰かが掴んできて思わず振り返った。



さっきまで悶え苦しんでいた男が、私の足を掴んで睨み付けてきていた。その目には、明らかに憎しみ、怒り……何より、頭から大量の血が流れ出ているのが……恐かった。



「う、ああああああああああああ!!!!!」

「がっ!!??」


思わず思い切りその顔面を蹴りつける。蹴りが目に直撃したことによる痛みで顔を歪めた男は、手を離して顔を抑える。


「ああああああああああああああ!!!!!」


私は、その隙に動かなかったはずの足で立ち上がり、駆け出した。何回も、何回も躓きつつも、必死に走る。



捕まったら、殺される! 殺されたくない! まだ死にたくない! 恐い、恐い、恐い!!



……ただ、それだけを考えて走り続けた。








そして今、私はこうしてどこかもわからない部屋の中にあったドラム缶の影で体を抱えながら息を潜めて隠れている。我武者羅に走ったせいで、足の麻痺は治るどころか疲労で筋肉が痛い。呼吸するたびに胸がいたい。迫り来る恐怖に吐き気がする。頭が痛い。気持ち悪い…。



「ガキィ……どこへ行きやがったんだぁ!?」



……その感情が、迫る足音と共にムクムクと増長していく。



(イヤ……。)



男が、明らかな敵意と殺意を込めた目で周囲を見回して私を探す。



(イヤだ……。)



そして、ある点を見て見回すのをやめる。



(来ないで……。)



男は、ニヤリと笑う。



(助けて……。)



そして、ズンズンと歩いてくる。



(助けて……!)





私がいるドラム缶を目指して。





(宗次郎さん!!)




私は思わず、スカートの裾を握り締めた。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




一方、宗次郎は元々はオフィスだったであろう広い部屋で数十人の男達と立ち回っていた。が、数十人というのはほんの数秒前までで、一分をきる寸前にもはや男達は七人しか立っていなかった。残りは腕や足を抑えて呻いているか、気絶してるので再起不能状態にあった。


「ぐぁ!!」


宗次郎は立ち塞がる黒スーツの男の腕を切りつけ、返す刃で後方から迫る男の足を薙ぎ払う。右前方からも男がドスを構えて突っ込んできて、蹴り上げでドスを弾き飛ばして膝を曲げて隙だらけになった男の脇腹を蹴り飛ばす。ゴキゴキという骨が砕ける音をたてて、男は吹っ飛んで倒れる。


「最後!!」


体を反転させ、背後で陣取る四人の銃を構える男達を睨む。男達はさながら蛇に睨まれたカエルが如し。縮こまって震えつつ銃身を向ける。


「ひ、ひぇぇぇえ!!」


一人が銃のトリガーを引き絞る前に、宗次郎は剣の力と宗次郎の気力を同調させ、体を横向きに構える。


「はあああああああ!!!」


剣を持つ逞しい腕の筋肉がさらにふくらみ、そして剣は蒼い輝きを放つ。目はしっかと敵を捉え、宗次郎はさらに剣を、腰を捻りつつ引く。


「ぶっ飛ばせぇぇ!!」


そして勢いよく剣を振るい、切っ先に触れた白くて硬い床が軌道に沿って割れる。振り切った剣の軌道は蒼い輝きとなり、真っ直ぐ男達目掛けて飛んでいく。


『うああああああああ!!!!』


蒼い輝きは男達を吹き飛ばし、さらに背後の壁を吹き飛ばす。破壊された壁が崩れ、隣の部屋が露わになった。


宗次郎の十八番の一つ、『蒼牙衝そうがしょう』。溜めに応じて威力が変わる技である。


「ま、ざっとこんなもんだ。」


振り払った剣を下ろし、腰の鞘に仕舞った宗次郎はふぅとため息を吐き、そして、




「……つかここどこだ。」




己の方向音痴っぷりを嘆いた。


そう、彼は自他共に認める方向音痴なのである。

とは言っても、かなりひどいというわけでもなく、普通に道を間違え易い程度の音痴なのである。なので普段、壊しても周囲に害がない壁ならばぶっ壊して直進しようとする悪い癖があるので結構周囲の悩みの種の一つとなっているとかなんとか。


「だぁぁぁもー! ガキんちょんとこに行かにゃならんってのにぃ!!!」


ツンツン頭を掻き毟り、イラつき叫ぶ。その声を聞くのは誰もいない。いるとしても部屋の中で死屍累々が如く気絶している男達。当然気絶してるから聞いちゃいない。


「……まぁ悩んだとこでしゃーねぇわな。」


因みに現在地は、先ほど手榴弾で吹っ飛ばされたビルの隣の大きなオフィスビルの廃墟。最初にいたビルの壁を破壊して直子がいた場所まで戻ってきたが当の本人がいなかった為にどこか適当にビルの中を荒探ししまくった末、何故か三階まで駆け上がってきてしまった宗次郎なのであった。


「おーいガキんちょー。どこだー。」


右手をメガホン代わりにして直子を呼ぶ宗次郎。半分は期待し、半分は無駄だと思っての行動。


しかし、期待を裏切らずにこの呼びかけに応えた。




【カララン】

「!!!」





手榴弾二つという形で。





「うんどりゃあああああああ!!!」


宗次郎は咄嗟に叫びながら横へと飛んだ。



【ドォォォォォン!!】



二つの手榴弾は同時に爆発し、部屋の床に大穴を空け、さらに窓をも吹き飛ばしてして床同様に風通しがよくなった。


「っぶねぇ〜…。」


腕で額の汗を拭い、立ち上がる宗次郎。




「おやおや、見事ですねぇ。」

「!」




が、不意に手榴弾に爆発によって立ち昇っている煙の中から、ゆったりとした動作で人が現れ、すかさず剣を引き抜いて構えた。

それは、スラリとした長身の男で、シャープに整えられた顔に鋭い目つきをした、百人中百人が振り返るほどの美系だった。服は白のロングコートに白い革ズボン、さらには口も真っ白。おまけに髪も真っ白。肌も病的なまでに真っ白で、若干肌色に近かったが遠くから見たら白と見間違えるだろう。

唯一白くない部分といえば、血のように真っ赤な目だけだった。


「…………。」


そんな全身白で統一された男を見て、宗次郎は



(うわー何コレ? 真っ白しろすけじゃんこいつ。何? 雪だるまか? 雪だるまの人間バージョンってか? いやいや、こんなシャープな雪だるまなんかだるまじゃないだろう。つかなんだろうこいつの歩き方ウッザ。マジウッザ。キザったらしいなオイ。絶対性格悪いよコイツ。しかも何だ『おやおや見事ですね』って思いっきり見下した感じじゃん。ムカつく。こいつムカつく。生理的に俺無理だね。近寄りたくないね。腹ん中絶対黒いよこいつ。白いのに。体白いのに。つか栄養取ってんの? 肌白すぎ。なんか食え。そして海行け。海行って焼けてこい。こんがりとバーベキューに焼かれた牛肉のように焼けてこい。そして帰ってくんな。)



という感じに心の中で悪態をついていた。


「まったく、先ほどといい、私の力が込められた手榴弾を避けるとは……よほど戦い慣れしておられるようですねぇ。」


あざとい丁寧口調に、宗次郎はムっとする前に気になるワードが聞こえた。


「……するってぇと何か? さっきのビルの前で手榴弾投げつけやがったのはテメェってわけ?」

「ご名答。切ってすぐに離脱するその反射神経……本当に見事なものですね。」


口の端を吊り上げて笑う男に、宗次郎は相手を見据える。


「オメェか……こいつら取り仕切ってんのは。」


足元で倒れている黒スーツの脇腹を軽く蹴り、問う。


「ええ。一応部隊を任されている身でして……しかしながら、この人数をあっという間に蹴散らすとは……誠に素晴らしい。賞賛に値します。」

「…………。」


先ほどから賞賛されているが、内容はともかく、その言葉の裏に隠された相手を見下している感情。それが宗次郎には気に食わない。


「……悪いけど、そこどいてくれねぇか。こっちにゃ連れがいるんでね、一刻も早く迎えに行かないとならねぇんだ。」


一歩、右足を踏み出しつつ威嚇する。それに気を留めず、男はクスクス笑う。


「お生憎様ですが……今頃、そのお連れのお嬢様はどうなっているのでしょうねぇ?」

「!!」


一瞬、宗次郎はわずかに動揺した。




【カカカッ!!】




その隙を狙って、男は右手を突き出して何かを投げた。が、宗次郎は体を横に若干ズラしてそれ・・を避ける。


宗次郎の背後の壁に、指先で挟める程度の大きさのナイフが柄に届くまで深く突き刺さった。


「あなたのその腕前……本当に見事なものです……。」


腕を降ろし、コートのポケットに手を突っ込む男。宗次郎は、先ほどの不意打ちで掠った頬から流れ出る血に気を留めず、剣を構える。


「正直、我が傘下に加えたいところなのが、我が主のめいとは言え誠に口惜しい……





ここで果てなさい!!!」



ポケットから手を抜く瞬間、ピンが取れた手榴弾が三つ、宗次郎に迫る。それを瞬時に弾き飛ばし、三つ全ての手榴弾を先ほどの爆発で破壊された窓の外へと落とした。




【ズゴォォォォォォ!!】




叩き落した手榴弾は、地面に落ちると共に爆発。しかし、先ほどの爆発とは比べ物にならない程の爆風が宗次郎達がいる三階まで押し寄せてきた。


「どこを見ているのです!?」

「!!」


爆風に気を取られ、横から聞こえる声に反応して身を捻って剣を振る。男のサバイバルナイフが凶悪な光を放ちつつ宗次郎を狙うが、それを蒼い刃を持つ剣で防ぐ。金属同士がぶつかり合い、火花が飛び散った。


「はっ!!」


すぐに飛び上がり、男は空中で後方宙返りをしつつ小型ナイフを五本、扇状に飛ばす。宗次郎はそれをバックステップで回避、すかさず烈鬼を引き抜いて男の着地地点目掛けてトリガーを引く。一見、銃声は一回だけに聞こえるが、宗次郎の常人ならぬ速度で引かれた銃からは六発の銃弾が発射される。


「!!」


が、着地と同時に男はコートを翻し、何故か銃弾が弾き飛ばされた。


「フフ、驚きましたか?」


コートを整えつつ、男は笑いながら言う。宗次郎は、ジロリと男を睨みつけた。


「……防弾性がある、わけじゃねぇな……さっきの手榴弾の威力の違いといい……テメェ何者なにもんだ。」


男はポケットに手を突っ込みながら、含み笑いをして宗次郎を見る。その赤い瞳には、明らかな侮蔑が読み取れた。


「いいでしょう……どうせ死ぬんです。名前くらいは名乗っておいてあげましょうか。」


ゆっくりと、ポケットから手榴弾を抜き取り、それを持ったまま腕を交差させる。


「私は……ありとあらゆる物体を魔力で硬質化させ、さらには爆弾等の火薬物の効果を魔力で増大させることができる、『物質強化』の魔法の使い手。」


両手に持ったピンを口で引き抜き、




「『増幅する破壊者』、こと…………凪川なぎかわ 辰時たつじ。」




男……凪川 辰時は、自らの魔力で強化された手榴弾を二つ同時に、宗次郎に向けて投げつけた。


忙しいですけど、この企画小説を早く進めないといけないと焦りつつ更新します。でも先はまだまだ長い…。

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