黒猫の奮闘記 5
どんなにモヤモヤしか気持ちを抱えていても、朝陽は昇るものである。そして、嫌だと思っていても来る日は来るのである。またロキが例の白孔雀の所に行くのだ。
マルは苦々しい気持ちになった。いつものように大広間に行くべきか、それとも辞めておくべきか、マルは悩んで、それからその場から逃げ出すことにした。もう余計な情報を耳に入れたくなかったし、何よりこれ以上心を乱されるのば御免だと思った。マルは日当たりの良い屋上に出ると深呼吸をして、ごろんと寝転がった。
お日様の下って、なんて気持ちが良いのかしら。こうやって一日中眠って…。
待って? どうして私がそんな自堕落な生活をしなければならないの? だって、せっかくのお休みなのに。
久々の休暇に、マルはこうやって悩んだり逃げたりしていることが勿体なく感じた。だってマルがどんなに苛苛しようとも、ロキは白孔雀のところに行くし、食事や買い物を楽しんでいるのだ。マルは途端に全てが馬鹿らしく感じた。
「不公平だわ!」
マルは勢いよく起き上がり、身を翻すと自室に滑り込んだ。そして、人型になるとドレッサーの前を陣取って、いつもの何十倍も身だしなみに気を使って支度をした。最近買ったバニラの香りのするヘアミストを自慢のふわふわの髪の毛に吹き掛けて、念入りに櫛でとかす。
使い魔の中で人気沸騰中の、元の姿に戻れば粒子になって消える魔法のマニュキュアを小さな桜色の爪に塗って、目が覚めるようなライトグリーンにした。リップをつけて唇をぷるぷるに、お肌にも魔法の粉をはたいた。
マルはもう立派にお化粧だってできるのだ。
レースとフリフリのふわふわなお洋服は今も大好きだけれど、大人っぽくなりたくて、おろしたての清楚で綺麗な白いワンピースを身に付けた。勿論、首の紺色のリボンと、お気に入りのキラキラの宝石はずっとそのままだ。
お姉ちゃんがよく履いていたヒールのついた靴は、マルもこっそり魔法通販で購入していたから、それもついでに下ろしてしまった。
その場でくるくると回って、マルはにっこりと微笑んだ。
「あとは、一緒に遊んでくれるひとを探すだけだわ!」
マルはそれが一番難しいのだと眉を寄せる。使い魔たちに休暇は滅多に無いし、基本的には主人と一緒に任務に駆り出されているから一日中暇なひと同士が本部の中で見つかることは滅多に無い。
マルは自室から顔を出し、手すりに身を乗り出して大広間をざっと見回した。制服を着ている魔法使いたちは任務だから、その使い魔たちは遊べない。…その魔法使いたちと談笑しているロキは意図的に見ないようにした。
気の抜けた部屋着を着ているのは…マルはマグカップを手に持ったままキッチンに歩くマシューを目敏く見つけた。そしてその、肩に乗って欠伸をしている緑のトカゲも。
マルは階段を駆け下りて、元気一杯にマシューの背中に飛びついた。空中にぶちまけた珈琲をマシューは魔法でサッとカップの中に回収する。
遠くのヒューゴが「マシューさんやるじゃん」と小さく褒めた。その横のロキが驚いた顔をしてマルを見つめている。
ズレた眼鏡を直しながら、背中にタックルをかましてきた正体を確認して、マシューは「おや」と微笑んだ。
「マルさん、おはようございます。今日はそんなにおめかしして、どうしたんだい? 君も休暇?」
「ええ! そうなの! ねぇマシューさん、一日ギデオンさん貸してくださらない? 私、ギデオンさんと遊びに行きたいわ!」
「ギデオンさん? 私は別に構わないけど…どうします?」
「行かない。俺、昨日夜中まで魔物追い回して寝不足だもん。一日中寝てたい」
マシューの肩に乗ったトカゲは、もう一度欠伸をした。マルは指先でちょいちょいとトカゲの首元を擽った。ギデオンが鬱陶しそうに片目を開ける。
「ねぇ、見て。 私のマニュキュアの色、あなたの身体の色と一緒だわ。これってきっと、運命だと思わない?」
「はぁ? なんの?」
「今日一緒に遊びましょうっていう運命!」
ギデオンは、んん、ともう一度欠伸を噛み殺した。ライトグリーンの瞳がちらりとマルを上から下まで観察する。
「遊びって、なにするの? 砂場? おままごと? 」
「もう! 子どもじゃないんだから、そんなことしないわ! でも、そうね…美味しいものを食べに行ったり、綺麗なものを見に行ったり、お洋服を買いに行ったりは?」
「んー、却下」
マルは暫く考えて、「じゃあ、あなたは普段何をして遊んでいるの?」と聞いてみた。
ギデオンは暫く考えてから、「歓楽街で食べ歩きしたり、飯屋探しに出たり、地下の闘技場で暴れて賞金稼いだり…」とスラスラ言葉を紡いでいく。
マシューが「ギデオンさんあなた地下の闘技場なんて出入りしてるんですか」と呆れた声を出す。ギデオンは上機嫌に笑った。
「地下も案外悪くないよ。市場におもしろいもの一杯売ってるし、意外と穴場の飯屋もあるし」
マルが目を輝かせた。「地下に市場があるの? そこでお食事もできるの?」ギデオンはニヤリと笑って、「もっと楽しいことが仰山あるよぉ」と声を潜ませた。
「行きたいわ! ギデオンさん、私、地下に行きたい!」
「しょうがないなぁ。世間知らずの猫ちゃんに、特別に俺が地下の遊び方を教えてあげる」
「ギデオンさん、だめですよ。私は許可を出しませんからね。第一、危険すぎますし、何かあればレオに申し訳が…」
「じゃあマシューさんも一緒に来れば? そしたら、何かあったら俺とマシューさんでこいつ守ったらよくない? 危ないところは勿論連れていかないし」
マシューは目を瞬かせて、うーん、と唸り声をあげる。ギデオンはにんまりと笑って、こそこそとマシューの耳元に吹き込んだ。
「マシューさんも実は興味あるって言ってたよねぇ? 表じゃ出回らない珍しい本も地下なら簡単に入手できるよぉ」
「え、本当かい? その、例えばどんな…?」
「禁書も封書もざっくざく」
マシューは目を輝かせた。ギデオンもヒヒヒと邪悪な笑い声を漏らす。人畜無害な見た目によらず、世に出回らない危険極まりない魔法書物をコレクションするのが趣味であるマシューの、そういう穏やかな外見に内包された過激で頭のおかしい一部分がギデオンの密かに気に入っているポイントであった。
「まぁギデオンさんが着いているんなら問題無いでしょうしね。いざとなれば私も居ますし。よし、マルさん。遊びに行きましょう」
「やったぁ! 初めての地下だわ!」
「ちょっと待ってて。マシューさん早く部屋着から着替えてきて」
「あ、待って。珈琲だけ飲ませて…マルさん、あと数分だけ待ってて貰えますか」
「はぁい!」
部屋に戻ったマシューとギデオンを見送って、マルはにこにこと近くの柱にもたれかかった。
ロキは時計を指さしたグリムに背中を叩かれ急かされながら大広間を出ていった。しかし、マルはちっともイライラやモヤモヤを感じなかった。
それどころか、これから行く地下探検に思いを馳せて、楽しみでしょうがなかった。
※※※
マルは地下のことを本当の意味での『地下』だと思い込んでいた。それこそ、地中の下に建物があるのだと。しかしギデオンから話を聞くと、地下とは只の俗称で、限られた魔法使いと使い魔達しか知らない秘密の暗号を唱えることで行ける、中央都市の路地裏を抜けた、合法と非合法が入り混じる不思議な街の一角のことであると、マルは初めて知ったのだ。
人型になったギデオンが道案内をして、見た目はとんでもないが食べてみると意外と美味しい食べ物が売っている屋台に寄ったり、綺麗なのにいわく付きの品ばかりの骨董品店を覗いたり、マルが興味を示すまま大道芸に足を止めたり、マシューに山のように質問をしたりと、2匹と1人は『地下』を次々と見て回った。
「あ、マシューさんあそこの店だよ。非合法書店」
「その名称とんでもないですね。いやぁでも何処と無く禍々しい気配を感じるなぁ。あーもう最高だなぁ」
「ギデオンさん、その隣の大きいテントはなぁに?」
「あー、微妙に非合法な見世物…サーカスだよぉ。さっき大道芸見たでしょ? あれの団体版みたいな。開演もうすぐだってさ」
「ぜひ見たいわ!」
鼻息荒くギデオンの着ていた上着の袖口をグイグイと引っ張るマルに、マシューがにっこりと微笑んだ。
「なら、君たちがサーカス鑑賞している間に、私は存分に隣の本屋に居座らせてもらおうかな。私のことは全く気にしないでいいから、何時間でもサーカスを楽しんでね」
マシューは既に視線を本屋から離さず、新たな禁書との出逢いに胸を高鳴らせている。ギデオンはそんな主人の様子に溜め息をつき、「ちゃんとこっちに帰ってこられる程度にしてね」と一応忠告をしてやった。
※※※
ギデオンはさり気なく少女の隣に座ってきた人型の雄蛙を牽制して、それ以上の距離を詰めてこさせないようにした。それでもめげずに食らいついてこようとするから、ギデオンは舌打ちをして少女の肩に手を回し、自分の方向に引き寄せる。雄蛙は漸く諦め、少女と一定の距離を空けて観覧席に座った。
「ギデオンさん、どうして肩を組むの? 此処でのマナー?」
「うん、そんな感じ。いや、別にわざわざ組もうとしなくて良いから。ねぇそれ美味い?」
「ええ! とっても美味しいわ! バターの味がするのに、全然お腹に溜まらないから、ずっと食べていられるわ」
少女は両手に持った紙袋から溢れんばかりのポップコーンを1つずつ摘み、次々と口に入れていく。
ギデオンも空いた手で纏めて鷲掴み、バクリと一気に口に入れた。マルが「大きなお口ね」と鈴のなるような声で笑った。
地下街には珍しい育ちの良さそうな歳若い猫の雌は、ガラの悪い使い魔の雄たちの目を惹いて止まないのだとギデオンは今日一日をマルと一緒に過ごしてみて何となく気付いた。
上品な白いワンピースや、せっせと手入れをされた艶やかな毛並みは少女の未だ染まっていない未熟な清廉さを醸し出している。
出発前に危険だと騒いだわりに珍しい売り物や食べ物にばかり注意を向けて、マルに劣らず子どものようにはしゃぐマシューは早々に戦力外になったので、大体の不埒な視線や絡もうとしてくる下品な雄への対応は殆どギデオンがやった。
ギデオンはポップコーンを頬張る少女をじっと見つめて、別に顔はそんなに可愛くは無いな、と失礼なことを思った。ただ、その真っ白な雰囲気に惹かれる雄が居ることは何となく理解した。
後暗い過去があり、血と金の香りのする荒んだ生活を送っていたような奴は、この子どものような笑顔は確かに眩しく映るだろうし、それをぐちゃぐちゃに汚してやりたいとも思うかもしれない。
ギデオンにはただの乳臭い餓鬼にしか見えないが。
「猫ちゃん、あんまりはしゃぐとポップコーン零すよ。もうすぐ始まるからじっとしててね」
「ねぇ、あれ何かしら? どうして上にロープが張ってあるの? あの台って何に使うのかしら? あと、何だか不気味な鳴き声が聞こえない?」
「何だろうねぇ。とんでもない怪物が出てくるかもねぇ」
「私、必ずこの目に焼き付けるわ! 後でマシューさんに事細やかに教えてあげるの!」
開演のブザーに、マルはキャッキャとはしゃいだ。暗くなるテント内に乗じて少女の後ろに座っていたトカゲの雄が手を伸ばそうとしてきたから、ギデオンは面倒になって魔法で防護壁をつくってやった。
同じトカゲとして情けないにも程がある。やるなら正々堂々と正面からやれよ。
ギデオンははしゃぎ過ぎて案の定ポップコーンを零した少女に、「だから言ったでしょ」と小さく注意をした。
※※※
「それでね、凄いのよ! 樽に何本も剣を刺していくの。私、そこに入ったお姉さんが痛そうな顔をする度に泣きそうになってしまったわ! なんて酷い拷問なのって。でもね、無傷だったのよ! 剣をすり抜けさせる魔法なんてあるのかしら? あとね、こんな小さな鼠のひとたちが、こんな大きな鰐のお口にどんどん入っていくの。私、途中から鼠がグリムさんにしか見えなくなってしまって、心底震え上がったわ…! でも、途中から鰐さんが眠ってしまったのは可愛らしくて結構お気に入りのシーンよ。ねえ、マシューさんもサーカスを観れた気分になれたかしら?」
弾丸のように喋り続けるマルに、マシューはにこにこと微笑み「よっぽど楽しかったんだね。臨場感溢れる素晴らしい語り口に、私も何だかその場に居たような気になってきたよ」と少女を褒めた。
マルは機嫌良く何度も頷いて、誇らしげに胸を張る。ギデオンは残ったポップコーンをパクパクと口に放り込みながら、「マシューさん俺も褒めてよ」とマシューの肩に顎を乗せた。
「え? ギデオンさんは何をしたんですか?」
「ずっと水面下で魔法ぶつけ合ってた。いかにサーカスの演出に見せかけて相手をぶっ殺すかをねぇ…」
「まぁ! そんなことをしていたの?」
「誰の為だと思ってんだよ餓鬼」
ギデオンのボヤきにマシューが「なるほど」と納得をした。
サーカスといっても暗闇と閉鎖空間、マシューは自分もはしゃぎ過ぎたと反省して、「ギデオンさん、夕食は是非とも私にご馳走させてください」と使い魔を労わった。
ギデオンは上機嫌に笑うと、「マシューさんの奢りだって。めっちゃ高い所行こうよ」とマルをけしかけた。
※※※
地下から抜け出し、中央都市の高級料亭でマシューの悲鳴が響く。どんだけ食うんですかあなた、と嘆くマシューを他所にギデオンは店員にお代わりを要求した。
途中からヤケになったマシューが店で一番高い酒を注文して、マルも舌先でお零れを頂戴したが、どうしてもお酒の良さは分かりそうになかった。
お料理は美味しいし、大人の男性が子どものようにじゃれる姿を見るのは楽しい。マルは終始笑っていた。会計で我に返ったマシューが死んだ目をしたから、マルは慌てて「半額出しましょうか」とお財布を取り出したが、マシューは流石に歳下の女の子に割り勘させるのは忍びないと、「私、これでも結構高給取りだから、気にしないでご馳走させて」と全額自払の大人の余裕を見せつけた。
ギデオンは裏声で「マシューさんかっこいい〜!」と囃し立て、2軒目はどこに行こうかと算段を立てた。
そんなこんなで、すっかり本部に戻ったのは日付けの変わった辺りである。歩き回ってはしゃぎ回った後の夜更かしに耐えられず、途中でダウンしたマルと、元々寝不足だとボヤいていたギデオンはすっかり元の猫とトカゲの姿に戻ってしまった。
だからマシューは地下の書店で購入した大量の本を片手に─一応、魔法で重量は減らしに減らしたが何せ嵩張る─気持ちよさそうに眠る白茶色の猫と、そのお腹の辺りに埋もれて爆睡する自分の使い魔を片手で抱え込み、大広間に待機していたレオそしてロキと1人で対面することになってしまった。
「おかえりマシュー。随分遅かったじゃないか。何かに巻き込まれたんじゃないかと心配したが、無事なようで何よりだ」
「え、えへへ…いやぁ、はは…ついね…? 年甲斐もなくはしゃいでしまって…すいません…」
「マシューさん、あんたが着いていながら何で帰宅がこんな時間なんだよ…」
「いやはや面目ない…」
「しかし、一日中マルの面倒を代わりに見てくれたことには礼を言うぞ。心底楽しませてもらったみたいだしな。ありがとう」
レオは読んでいた本を閉じてソファーから立ち上がり、マシューの腕の中から猫を掬いあげた。
マシューは未だに自分を叱責するように見上げてくる足元の黒猫と目が合ってしまい、ますます身体を小さくさせる。この、自分よりも遥かに体格の小さい黒猫から発せられる圧倒的なオーラは何なのか。いや、悪いのはこっちだから何も言えないけれど…。
マシューは内心で小さく弁解をした。本当に、他所の使い魔のお嬢さんをこんな夜更けまで連れ回す気はさらさらなかったのだ。それもこれも2軒目3軒目だと次々に店にマルを引っ張りこんだギデオンも責任の一端を担うはずだ。
くそ、ギデオンさんめ。人の気も知らずにすやすや寝やがって。マシューは未だに己の腕の中で呑気に寝息をたてるトカゲを見て、やはりすぐに絆されてしまった。マシューも大概親バカなのである。
マルはレオの腕の中で身動ぎをした。ピョコピョコと三角形の耳が動き、やがて両目が眠そうに開かれた。
「あら…? マシューさんとギデオンさんは…?」
「夜だからな。就寝しに自室に戻ったぞ」
「そうなの…? ひどいわ、一緒に寝ようって約束したのに…」
「ほう、そんなにあいつらと仲良くなったのか」
レオの肩にするりと登ってきた黒猫が途端に臍を曲げた気配を感じた。マルはむにゃむにゃと何事かを呟いてから、ふふふと機嫌良さそうに笑い始めた。レオは「なんだ?」と毛艶の良い喉元を撫でてやる。
「楽しい体験をたくさんしたの。私、次はレオとも一緒に遊びに行きたいわ」
「ん? 俺か?」
「あ、でもロキさんはだめよ。だって毎週毎週白孔雀の子と楽しそうにしているんですもの。狡いわ、私とは一度も遊んでくれないのに」
レオはふ、と穏やかに笑った。とろとろと閉じようとする腕の中に居る猫の瞼を指先で擽り、肩の上でソワソワと分かりやすく期待する黒猫のために、主人としてもう少し手助けしてやることにした。
「なら、今度お前らふたりに休暇をやろう。ロキを遊びに誘ってみれば良い」
「……むりよ。だって私、美味しいお料理も作れないし、お店を貸切にもできないわ。チェスだってまだ練習中だから、きっとつまらなくさせてしまうだろうし…それに…」
「それに?」
「私、あのひとの前だと何だか意地を張ってしまうの。きっと、ギデオンさんたちみたいに上手には遊べないわ…」
耳をぺしゃんこにしたまま、マルは眠り込んでしまった。レオは小さな頭を撫でてやり、肩の上で硬直する黒猫を「らしいぞ」と見上げる。
ロキはレオの肩からカーペットに飛び降りて、「レオ!」とひと鳴きすると、レオの足元をすりすりと擦り寄った。
「なぁ、レオ今の聞いたか? やっぱロンメルの言う通り、こいつこっそりチェス練習してたんじゃねぇか。俺のために。やばいレオ、俺めちゃくちゃ嬉しい…」
「良かったじゃないかロキ。早く告白したらどうだ」
「告白した結果、お友達宣言されちまったじゃねぇか。…それはそうと、白孔雀のお嬢さんのこと、いつバラすかな…」
「白孔雀の『老婦人』って? 普通に言えば良いんじゃないか? ド派手な白孔雀の老婦人に孫認定されて老後の楽しみに付き合わされてますって。それか墓場まで持っていくかだな」
ロキは「墓場にする…」と呻いた。レオはくすくすと笑った。
初めこそレオとロキは白孔雀の絶世の美女でも現れるのかと思っていたが、絶世の美女は美女でも少し特殊な美女であった。
世界中の強い力を持つ使い魔の雄を可愛がることにハマった白孔雀の老婦人が、殊更ロキをお気に召して、食事や買い物に連れ回しているだけなのだ。
そしてレオがそれを体良く利用して「白孔雀お嬢さん」のまま突き通すことを提案して、ロキも乗っかった。
だから他の魔法使いと使い魔諸君は、この現状を誰一人として知らないのだ。
「まぁ、この前は双子の烏を見て目をギラギラさせてたから、そろそろ俺もお役御免になるんじゃねぇかな…」
「俺的には、白孔雀の主人からたんまりお礼金を貰えるからもう少し続けてくれても良いけどな」
「俺はもう勘弁だわ。嘘が心苦しい。……良い思いは散々させてもらったしな」
「はは、あの盗み聞きは分かりやすいよなぁ」
「そうなんだよ。隠れてるつもりか知らねぇけど、ソファーから耳丸見えなんだよ。本当一々可愛いの狡いよなぁ」
レオは眠りこけるマルを部屋のベッドの上に寝かせてやった。そしてすかさず布団の上に上がり込んで、白茶色の塊にせっせとグルーミングを始めた黒猫にレオは苦笑いをして「寝込みを襲うのは人だったら犯罪だからな」と苦言を呈した。
しかしロキは「別の雄の匂いを上書きするのは雄猫の本能なんだよ」と開き直って尻尾を上機嫌に揺らした。




