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このダンジョンからは出られない。

俺の名前はヒッキー=タイナー。

自分で言うのもなんだがこの世界で一番強い冒険者であると自負していた。


何故過去形なのかと問われれば、油断とは恐ろしいもので、迷宮の散策中に落とし穴を踏んだ俺は、恐らく……





……死んだ。




いや、生きてた。

ここは……何処だろう?


暗い、が規則的に明かりが並んでいる。

知らない階層か?

少し調べてみよう。


石?の壁。

足元に落ちてる鋼の棒?は等間隔を保ちながら何処までも続いてる。

持ち上げてみ……死んだ。


どうやらトラップだったようだ。

己は全身に灼けるような痛みを感じながら訳のわからないまま財産の半分を失った。


冒険者は加護の力で所持品の半分を喪う代わりにセーブポイントと呼ばれる死ぬ直前の頃合いまで時を遡り甦れる。

未知の光景に興味本位で挑んだ代償が不可避の死であったとは。どうやら己は思った以上に危険な場所に落ちて来た可能性がある。用心せねば。


足元に転がってる即死級のトラップも厄介だが、ゴロゴロとした石ころに足を取られて歩きづらい。

もし戦闘になれば足元を掬われる可能性が高い。

出来れば早いところしっかりとした足場がある場所に出て行きたいところだ。


調査を続ける。


洞窟、と呼ぶには作為的なものを感じる空間の作りで。

家屋、と呼ぶにはいささか長大に過ぎる果てしない空間に己は居る。


迷宮主の部屋へ続く道とするならば成る程、殺傷性の高い罠の存在と真っ直ぐ何処までも続くこの洞窟が間欠的にボスの恐ろしさを表現しているかのようだ。


すると遠くから光、が迫って来た。

松明の明かりと呼ぶには強烈に白く直線的なもの光で、瞬く間に己は光に飲み込まれ、そして……


成る程、ボスの前には四天王とやらが待ち構えていると噂に聞いたが、恐らくはあの光のバケモノがそのうちの一体なのだろう。

先ほど感じた全身を一瞬にしてバラバラに引き裂く衝撃を思い出しながらまた己は死んだのだなと先行きが一層不安になった。


そして己の身体が弾け飛んだ拍子に復活地点も吹き飛ばされたのか、気がつけばまたもや知らない場所に放り出されて居た。


周りには知らないヒューマン達が大勢。

およそ冒険者のような格好には見えず、また己がいる場所も迷宮と呼ぶよりは巨大な馬車の中といった感じだ。

馬車は座って乗る物だ。立って乗る代物ではない。チャリオットですら最低限手綱を使って身体を支えられるというのに、この荷車と呼んだ方がいい代物には人数分だけの綱すら用意されていない。

しかし周りの同乗者たちは何処に飛んでいくかもわからない車内でしっかりと立ち上がっている。まるで歴戦の勇者であるかのような風格すら感じる様であったのだが、それにひきかえ己のだらし無さと来たら。

グラグラと傾いたり身体が放り出されそうになる不安定な足場と格闘しているうち、気がつけば周囲の人々を巻き込み、そこで敵意を持たれてしまったのだろう。


はて、「コノヒト・チカン・デス」とはどのような効果を持つ呪文だったのか。聞いた事がない魔法だったが。

詳細は定かではないが、少なくとも接近戦では己が負ける要素は無いと思っていたなまっちょろい小娘が放ったその言霊は、瞬時に周囲の黒服を着た男たちの目の色を変えさせるだけの力を秘めており、その男どもが百人かかって来ても千切り投げてそれで終わりだ、と密かに結論づけていた己の戦力分析では全く理解できないまま瞬間視界が真っ暗になり、いつの間にか死んでいたようなのである。


その後も何度か復活しては「チカン・デス」の呪文であっという間に財産を十六分の一まで削り取られ、噂に聞いた即死魔法のあまりの理不尽さに吐いたらそれだけで財産を三十二分の一まですり減らされ。よもや己は攻略部隊の最前線に迷い込んだのではと状況の悪さに世界最強とかイキッて調子に乗ってすみませんでしたと顔色を悪くしていると、心やさしき黒服の方からこの最前線からの出口まで案内されて、平たくてクラクラと動かない安定した地面の上に立ってホッとしていると、「アヤシイオッサン、ミツケタナウ」など無礼な若者から心外なお言葉と怪しい光線を浴びせられさらに己の財布は軽くなり、実はこいつら人型モンスターなんじゃ無いのとダークサイドに堕ちた己が愛刀片手に凶行に走ると冒険者の加護に無害な人たちを殺めたとしてペナルティーで殺され、少なくともこの血も涙も無いような連中が一応己と同じ冒険者である事は確認できた。


しかしここに来て今度は「タイホー」なる未知の呪文に殺されるようになった。

どうやら持ち込み品の制限がある神聖なダンジョンの類いらしく、己が愛刀をぶら下げていると「ケーサツカンサン」と呼ばれるダンジョン管理人が執拗に「ジュートーホーイハン」として武装解除を求めてくるのだが、ここで己が彼らに従う従わないに関わらず結局最後は「タイホー」のスペルを唱えてくるので、必然己は訳もわからないまま薄い財布をカンナで削り飛ばすがごとき辛酸を舐めさせられている。


一体全体この己が何をしたというのか、全くもってとんでもなく不条理極まりない迷宮に迷い込んでしまった。おかげで己に残された唯一の財産とも呼べる愛刀を厠らしき場所の間仕切りの奥に隠しこむ羽目になってしまった。

いつか絶対取り戻してやるからなと未練たらしく掘っ立て小屋みたいな間仕切りの扉を開けて厠の外に出ようとしたら「キャー、コノヘンタイ」なる罵声に似た呪文を唱えられて、己はハイハイまた即死ですねとあきらめの境地で財布を薄くしながら運よく復活場所が書き換わるのを待つ羽目になった訳で、無事出られたころにはもはや己の愛刀は回収不能なのではと諦めの境地に立たされてしまった。もしやあの場はトラップだったのではと軽くトラウマになってしまったね。あ、また死んだ。



さて、もはや失うものなど何も無いといった具合にまで財産をすり減らした己の懐事情には加護を授けてくだすったさしもの主神様にも思わず「まさかここまで神の奇跡を大安売りする羽目になろうとは思わなかった」と後悔の念を禁じ得ないレベルに達しているであろう本日3桁回目ぐらいの蘇り。

加護者はやり直しが効いて実質不死身なんじゃ無いのと思われがちだがじゃあ上手くいけば死戻って人生やり直し放題じゃん、とはならないのっぴきならない事情があるんだよな、これが。


それを説明する前にまずはここで現在までの状況をまとめておこう。


たびたび「ツーフォー」を唱えて「ケイサツカンサン」を召喚し己を奴らに「タイホー」させようとしてくる「エキインサン」は、己が愛刀を装備して見せびらかすような真似をしていない限りは意外と友好的なモンスター、じゃ無い、ダンジョン管理人の一人だ。

エキインサンに対してコマンド:話すを実行するとこのダンジョンについて有益な情報をもたらしてくれる。


 ここは「シンジュクエキ」と呼ばれる大迷宮らしい。聞いた事がない名だった。


 己の住む街リスポーンに向かうには「ナリタエアポート」へ向かわねばならない為に先ずは「チューオーライン」を使って「カンダステーション」を目指しそこで「ケーヒントーホクライン」に乗り換えた後に「ニッポリ」で「ゲーセンホンシェン」にうんたらかんたらどーたらこーたらしてかんやかんやでリスボンに至るらしい。


 駅からの出入り口は現在64か所。しかしこの迷宮には5体のボスが存在しそれぞれのボスが各エリアを牛耳っているため対応した「カイサツケン」なるものを手に入れなければ出ることは許されないらしい。


 つまりこの迷宮は己の苦手とする推理系のラビリンスに該当するもので迷宮が定めた節理に従わねば容赦なくゲームオーバーにされてしまう大変難易度の高い代物であるらしい。


 おまけに己が使っている銀貨や銅貨はこの迷宮では使えないらしく、補給がままならない状況にあるわけだ。



そう、補給がままならないのだ。

いくら蘇れると言っても喉は乾き、腹は減る。

ましてやこの迷宮ときたら、何かにつけて金品を要求してくるくせに己のなけなしの財産を見て鼻で笑い飛ばしてきやがる。カイサツ剣を手に入れる為の資金を手に入れる為には此処では無理だから迷宮の外へ向かえと言われてもその為のカイサツ剣がないのではないかとここでも理不尽な扱いを受けるざまだ。


唯一の救いと言えば、一時期翻訳家の職業を鍛えていた時期があったおかげか、辛うじて言葉が通じているぐらいだ。

とはいえ、己のたどたどしい現地語の言葉づかいでは、この場の詳しい攻略情報などを集めるのは大変難しく、会話を試みる現地人にもいらぬお節介を焼かせてしまい、結果的に向こう側のいくつかの言語体系で情報を小出しにされるために理解を深めるには一層の苦労を伴った。リスボンと言わなかったか?本当にリンポーンであってるよな?まさかただ帰りたいだけなのに儀式級の呪文を教わることになろうとは、己にはマジックキャスターとしての素質はなくそもそも覚えられそうに無かったので方角だけ教えてもらったわけだが、カイサツ剣を手に入れねば最初の難敵「ジドウカイサツ」なる珍妙なカラクリ人形を突破できない。

何度か突破を試みたがあの正確無比なカラクリ人形は己の行く手を容赦なく阻み、「エキインサン」も「カイサツケン」を持たぬ輩と知ると有無を言わせず「ツーフォー」してくるので、やはりあの防衛網の突破は現実的ではない。


ここにきてならば一層、脱出の邪魔にしかならないと思われた愛刀の切れ味の出番がやってくるかもしれないと回収に向かったわけであるが、はて、この見覚えがある様なないような場所は一致どこになるのか?己はこれからどこへ向かえばいいのだ?と言うか既に詰んでいないか? いったいこの迷宮からどうやって抜け出せばいいんだ?誰か己を助けてくれ。







たぶん異世界人からしたら池袋とか新宿は攻略不能の大迷宮なんじゃないかなって思いました。

黄色い線の内側とか、エスカレータ右側開けるとか、いろんなルールに縛られて社会的に殺されるとか自由を失って死ぬんじゃないかなって。

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