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聖帰還者のリファミリア  作者: 美音樹ノ宮
3/6

少女との出会い

~聖帰還者のRe.ファミリア~







「カハッッ...ァッ―――――」



絞りだしたかのような息が絶え絶えになりながら口から零れていく。

奈落の底へと落ち切った僕は、結論から言うと...なんと無事であった。

その瞬間のことは不思議と鮮明に覚えている。

と、いうかハッキリとしてくれやがった意識のせいでまざまざと覚えさせられていた。

一度目。

自身の身体が段々と勢いを増し、そのまま背中から(こし)(くび)、後頭部の順で地面に衝突すると、足がつく前に再度バウンドした肉体が宙を舞う、といった心地までを体感している。

だがなぜか痛みを感じることはなく、ただ地面にぶつかったな、という直感を俯瞰しているような状況で受け取るに至っていた。

しかし問題は二回目。

飛び跳ねた身体はその時点で全神経を取り戻したかのように冴えわたり、すぐさま意識まで定着させると、次の衝撃はあろうことか100%で全身へと伝えてくれたのだった。

それにより、落ちる最中で激突したあの一本の幹のことを思い出す。

まともに呼吸が行えないよう収縮していく肺と、焼けるほどに熱くなっていく背中を伴い。

同時に、脳髄(のうずい)にまで浸透していく痛みやそれで身体の中の芯が歪み、眩暈や吐き気なんかの症状をも引き起こして。

どれもこれも似たような鈍痛、苦痛、激痛...まぁ裏を返せば、それが生きている(・・・・・)という証明にも繋がるものなのだが―――――

決して喜ぶことなどできそうもない、とあの感覚が繰り返し舞い戻っては収まる気配なく、恐怖心すらも沸き立たせてずっと体内に残り続けていた。



「フゥー、フゥ...フゥーッ。」



痛みを軽減すべくのた打ち回る様からは余裕のなさが垣間見え、吸えない息を無理矢理奥へと流し込むと、今度は面白いことに空気ではなく涙や胃液が返ってくる。

その悪寒に、ちゃんと咳き込む身体は軋む様子などお構いなしと全身へ鞭を打ち直し、相乗されていく痛みはどんどんと激しさを増す一方。

握りしめた拳で地面を叩いたり、太ももに張り手をかますなどして別の痛みに意識を引っ張ってもらうよう努めてみても、収まることを知らず―――――

喉の詰まりや痛みにあえぐ絶叫など、一度吐き出してしまえば楽になりそうなものも、一向に出てきてくれる気配がない。

そんな最中(さなか)でヒルヨルは「これならいっそ死んでしまった方が楽だったのでは?」と良くない考えに苛まれ、ともすればなんてことを思考している余裕すらもないぞと焦燥感に蝕まれていく様子をみせていくのだった。

―――――...そうやって繰り返し悶え続け、一体どれくらいの間くたばっていただろうか。

数度となく死を乗り越えたかのような心地の(のち)、ようやく少しはマシになったかといった頃合いを見計らった彼は冷静さを取り戻し、次いで仰向けに倒れ込む様子を見せていった。

そして目前に広がる空や緑を全て吸い込んでやろうかと意気込むほど大きく息を肺へ送り込み、その後()を引くことなく治まっていく痛みに九死に一生を得たかのような心地を抱き、次いで乾いた笑い声をあげていくのだった。



「ぁ、っはっは...あーはぁ。」



再度言おう。

どうやら僕は、ちゃんと生き残ったようであった。



「すーッ、ふぅ...。」



(たか)(ひろ)(ふか)く澄んだ青い空、自身を見下ろす若々しい新緑、なんとも美味(おい)しい空気に(きら)めく木漏れ日。

その全てがただひたすらに感動の二文字を降らせ、冷静な思考が舞い戻る自身にそれ以上の喜びと和やかさをまき散らしてくる。

湿度(しつど)気温(きおん)も空気の質も、雨降り直後の湿気をまとい肌にこびりつくようなあの熱風(ねっぷう)()じる気色(きしょく)とは大分異なって、清々しい。

そんな心地がしっかりと脳に、心に、全身に語りかけてくれていた...死んでいないよ、との淡々とした事実を。



「(...さっきまで、あんなに暑かったのに―――――)涼しいなぁ...。」



危険な心地が過ぎ去ると、途端に正気を取り戻した感性は呑気なことを思い浮かべる。

そうやって内情を言葉として溢すヒルヨルは、本当に考慮しなければならないこれらの展開についての説明を一切蔑ろにしたまま、ボーッとした表情を浮かべた。

考えれば考えるだけドツボにハマる。

思考も随時、訳が分からなくなっていく。

それ程に今しがた巻き起こった出来事は理解不能すぎるのだ、投げ出さなければまたあの痛みすらも思い出してしまいそうな気がするから。



「...。」



だからとりあえず別のことでも考えていよう、と舞い戻った冷静な思考のままで身体の具合を確かめるべく、彼はその場でスッと腕を空に掲げて見せた。

そして生きているどころか打撲や擦り傷に、流血の痕跡すら一切見受けられない外見へと安堵のため息を溢し、握っては開いてを繰り返す手のひら越しにその奥の光景を見つめていった。

それとはもちろん、自身が落ちてきたあの崖の上の様子である。



「んー...高いッ。」



おおよそ6、70mほどはあるだろうか、いや100mくらいはあるか?

とあまりの高低差に曖昧な目算しかできそうにないほどの崖。

しかし奈落に見えていた上からの景色に対し、(ここ)より見る光景と言えばただただ感心する程度(・・・・・・)の壁面でしかない、といった正直生ぬるいものであった。

つまりは、思っていたより肩透かしな高さだったのだ。

...まぁそうは言っても落下中の様子ではやはり『滑り落ちる』というより『垂直落下』との表現の方が正しく、落ちれば確実に死ぬだろうと思えるくらいの崖ではあるのだが。

恐怖の思い込みより大袈裟に捉え、想像以上の高さから長時間もの間落下していたと錯覚していた彼は、実際のところそこまでではないという事実へ「(これなら案外生き残るのか?)」と有り得ないような思考を浮かべてみせた。

そしてその直後に「(なわけないか。)」と自己完結すると次いでさらに目を凝らし、そこに居座る別の物体へ意識を向け直していくのだった。



「やっぱ、あれはおかしいよな。」



山道の崖側に設置されていた防護柵。

この奈落の底へと人を誘わぬよう、仁愛と気遣いによって設置されていた救いの手。

そんなありがたき慈しみに、ごく自然にももたれかかっている物体、そう...自身が愛用していたあの赤色の可愛いらしい自転車だ。

安らかな尊顔まで浮かべ、まるで母親の暖かな腕に抱かれているのかと思えるほど朗らかそうに、寄り添うように、そっとその場に留まっている。

その光景を目にヒルヨルは、感心したり驚いたりすることもなくただ(ひとえ)に腹立たしさを覚え、もう何度目ともなるため息をこぼすのであった。

この役立たずめ、と助かったからこそ言葉にできる、最大限の怒りを以て。

そしてついでに、こんな思いも―――――



「(ていうかアレ、何だったんだろう。)」



落ちる最中の、スローモーションのように知覚していた記憶の中で、あの情景が鮮明に繰り返されていく。

例え滑り落ちず空中へ投げ出されたとしても、きちんと受け止めてくれるだけの高さや頑丈さを誇示しているはずの安全柵...それにぶつかった瞬間の一コマ。

あの時、確かにこの身体だけ(・・)が、見事にそれをすり抜けたのであった。

自分が何を言っているのか、そして自分が何を思い返しているのか、ハッキリと言って理解し難いものである。

だが無理矢理にでも呑み込まなければならない、事実としてそれが起こってしまったのだから。

金網が身体を貫通している瞬間の情景、文字通り目前を(とお)()ぎて()()()ない角度から見るその様、加えて自転車だけがそれに引っ掛かった際の手の感触。

マジックでも、穴が開いていたわけでも...当然気のせいなんかでもない。

現実なのだ、この有り得ない記憶や、それによって引き起こされた自身と自転車の今の位置関係なども。

だからこそ、これらの非現実を受け入れようとしている自分がいる。

(まる)ごと(すべ)てをひっくるめて、まるで魔法(・・)ようであった、との想いの中で。

譚記物(たんきもの)―――――

この世界に数多(あまた)として存在する書物の中で、妄想の世界を舞台に冒険をしたり、英雄になったり、勇者として崇められたりするような、胸躍る異世界の物語。

その童話の中に登場する、多くを救い多くを陥れるありふれた異能力にして、現実世界においては非科学的で実在しないモノとされている未知の力。

そんな摩訶不思議なものを実際に体感し、そしてそれによって自身も殺されかけたのではなかろうか、と。

(...まぁそれらの書物で日本語を勉強し、数多くの譚記物(たんきもの)を読んできたからこそ、魔法なんてものは実在しないこともわかっているのだが―――――)

あくまであれば良いな(・・・・・・)という想いは人一倍強いわけで...そんな自身が非現実(・・・)の渦中に招かれ実体験を(ともな)ったということは、それに近しい何かがあるのではないかとも思えてしまうわけで...。



「魔法ねぇ...時間が戻ったりしないかな~、よッと。」



在りもしないような思考、在りもしないような話、して、また在りもしないようなまっことくだらない事実。

だが思うだけならタダであろうとヒルヨルは、そんなしょうもない考えを浮かべながら次いで脚を振り上げ、腹筋と勢いを使って振り子のように上体を起こす様子を見せていった。

そしていつまでもこうしては居られないと意気込む素振りのもと、とりあえず歩くように全身へ力を込め直していくのだった―――――が、しかし次の瞬間



「ぇ―――――」



突如として目前を過ぎゆくこの世のもの(・・・・・・)ではなさそう(・・・・・・)金色(こんじき)の煌めきを視界に捉えた彼は、驚きから一瞬だけ脱力し感嘆の声を漏らすまでに至った。

そしてそのまま目を丸くすると、恐らくその()っぱが舞い散ってきたであろう方向...崖とは逆側に位置する一切目を向けていなかった空間に視線を向けていくのだった。

なぜ今までこれに気が付かなかったのかと、知覚していなかった自身へ心底信じられないと、恥じるような気持ちを以て。

またこんなものが存在するのなら、魔法くらい(・・・)は実在するだろうと、興奮冷めやらぬ内情を浮かべて。



「―――――、...」



寒気をも伴って、恐れおののく心情が湧き上がる。

思ったように働いてくれない思考を見送り、なんの言葉も発せないままで驚愕に震える。

冷静さを取り戻していたはずの全身がものの見事に固まっていき恐怖心すらも沸き立たせる...とそのようにこんがらがった内情を想起させた視線の先には、いつぞやの記憶に眠るあの童話の挿絵―――――

『英雄王 リルロット・アーカディア』の譚記物(たんきもの)に記された、金色に輝き世界を照らすあの『世界樹』が鎮座し、まっこと小さきこちらの存在を悠々と見下ろす姿が映ったのだった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




深緑(ふかみどり)の美しい苔が点在する大きな(みき)は、大男が数人掛かりでも囲い切れないほどの幹周(かんしゅう)を誇り、枝分かれしていく部分もその一本一本が人間の(どう)と同じ太さを有している。

そこからさらに伸びる赤み掛かった黄緑(きみどり)色の樹葉(じゅよう)は、上空から降り注ぐ太陽光を含んで(おの)ずと発光しているように輝き、周囲の空間を明るく保ち続けていた。

そしてその葉の一枚一枚に至っても自身の手ほどの大きさを見せ、まるでその一本の巨木だけで一つの森を形成しているかのような、立派な出で立ちを作り上げている。

そんな景色に歩み寄るヒルヨルは一言も言葉を発することなく、呆けた表情のままただただボーッと意識が()かれそうになる気持ちよさに(うつつ)を抜かしていた。

どこぞの御伽噺(おとぎばなし)で聞いたことがある。

樹木一つが世界を織り成しているという伝説上の逸話、それに酷似した光景―――――

まぁさすがにそれほど大袈裟ではないにしろ、恐らく(ひと)(せい)などちっぽけに思えるほどの歳月(さいげつ)、ここでこうしているであろうその樹木からは、生命そのものを象ったような活力と存在感が放たれていた。

「(そうか、これのおかげで助かったのか。)」と有り得ないこと続きに阿保らしい戯言(たわごと)すら思い浮かばせ、あまつさえそれを受け入れてしまいそうになるほど。



「...。」



そんな御神体を取り囲む空間...つまりこの世界樹のような巨木(きょぼく)樹冠(じゅかん)の真下は、(あか)(ぎん)橙色(だいだいいろ)(むらさき)(あお)(みどり)金色(こんじき)桃色(ももいろ)といった色彩(しきさい)豊かな光色(こうしょく)が漂い、幻想的な風景が作り出されていた。

近づく度、首を動かす度、光の入り方が変わる度に表情をコロコロと変化させる、愉快(ゆかい)で綺麗な軽やかさをみせて。

またその木漏れ日の中でも派手派手しい印象に対しては変に(やかま)しさなどを感じることはなく、真逆の暖かさや説明の出来そうにない朗らかさが散見されている。

先の『魔法』という思考に結びつけると、まさしく妖精から向けられる(まぼろし)(たぐい)の幻術だと言えようか。

無条件に喜び愛しんでしまいそうになる、そんな心地がまた嬉しい。

そしてそんな、一度でも見初(みそ)められ足を止めてしまえば活力そのものが吸い取られそうになる美しさに恐怖すらも覚え、ハッとした彼は次いで吸い込んだ新鮮な空気と共に失っていた言葉を吐き出すまでに至るのだった。



「す、げぇ...」



勇者リルが生涯を過ごしたという、妖精(ようせい)幻想(げんそう)共生(きょうせい)する幻想郷。

かなり昔に読んだおとぎ話の一つで、なぜか印象に残っている英雄譚の中の情景。

もしあれを現実世界で目にすることがあったら、多分こんな感じの景色と、こんな感じの高揚感に包まれるんだろうな、なんて。

無意識の内に死なずに済んだ理由が分かったのか、落ち着きのなかった内情がスッと澄み渡っていくような心地を抱いた彼は、その想いに口元へ柔らかな笑みを浮かべ目前の景色へと思いを馳せるのだった。

ひどい目にあっていたリルが、決して彼らを責めなかった理由、それがなんとなく分かった気がして。

腹立たしく思っていたが、これを守るためなら命すらも掛けられると本気でそう思える、愛する者が愛したこの幻想郷を。



「ふッ...、ははッ。」



歩みを進め、空気を吸い、過去を思い出し、声を漏らす。

その一挙一動に懐かしさや興奮がつき纏い、触れた幹から流れてくる生気と共に、自身の内情が軽くなっていくような感覚を受け取る。

一体いつから、自分はこの高揚感を忘れていたのだろうか。

子供のころに感じたごくごく当たり前の喜び、たったそれだけで目前の景色がパッと明るくなり、何でもできるように思えていたあの優越感。

そんなフワフワした心地を心の芯から思い出したヒルヨルは、次いでその感情を増幅させるため樹幹を回るよう足を進める様子を見せていった。

そしてその間もまじまじと世界樹を観察しながら、揺すられる葉音から振る多幸感を目一杯にその身へ貯め込んでいくのだった。

視覚(しかく)嗅覚(きゅうかく)味覚(みかく)だけでなく聴覚(ちょうかく)にまで意識を配り、余すことなく全てを堪能するような思考を浮かべて。

...何とも素敵な情景に()せられた、自身はこれまたなんというか―――――物語の主人公にでもなったかのような気分である、との想いの中で。



「(皆も、こんな気持ちだったんだろうな。)」



リルの話だけでない、多種多様に何回も繰り返し読んだ物語の主人公は、皆一度は幻想的な風景へと(むね)打たれる展開を見せ、その都度(こころ)の中に渦巻く負の感情を取り払い冒険に勤しんでいた。

現実のものとは違う、創作物だから(なお)違う、より高度に設計された都合のいい風景に、あまり詳しく書かれることのないその時々の細かな感受性―――――

それら全てが噛み合って、たくさんの背景を振り返り、ある種ストーリーに則って、作者の思い通りの展開に連れ添う。

だからこそ、その心は大いに揺れ動き、童話を目にする読者にも夢物語として受け継がれていくのだ。

...そんな、一線を引くことで本領を発揮する妄想の中の存在であるはずのモノが、何故か今この場には実在(じつざい)してしまっていた。

幻想郷の中でもより事細かに情景を(しる)し、その方面にて話題を呼んでいた作品を思い出させるほどの幻想が、しっかりとこの場に顕在(けんざい)してしまっていた。

ならばこそ、それを目したが最後―――――後は自身を物語の主人公として(しん)じ疑わない心が出来上がり、感情のコントロールは失われていく。

そう、実際に憧憬の念を抱き続けていた童話の中に潜り込んだかのような心地へ至った彼は現況の忙しさを忘れ、表情を変え続けるその木漏れ日へと見惚(みと)れるような様を見せていくのだった。

相も変わらず、口元には笑うというよりにやけるような笑みを張り付けたまま。



「すー、はぁ...最高。

 ...ん、あ―――――?」



そしておよそ90度ほど樹幹を回ってきたであろうかといった頃合いにて突如、驚きに足を止めたヒルヨルは視界の端に映ったナニカに意識を惹かれ、疑問の声を溢すまでに至るのだった。

恐る恐る確認していく、丁度(ちょうど)世界樹の幹の裏側に隠れた景色と、そこへ留まった不気味な白い物体を。

まるで、ありふれたものを目にした瞬間の想い...現在の状況で言うと『安心感』ともいうのだろうか。

そしてこの場においては不釣り合いにも思える『気味の悪さ』、『恐怖』に近い...そんな心地。

つまりは、その双方を満たす感情とそこから導かれるこの場においてのナニカの正体と言えば、間違いなく...あれはー、足だよな?



「あ、あのー...すいませーん。」



脳の処理能力というのは実に恐ろしい。

この場に自分以外の誰かの存在を知覚(ちかく)した段階で思考は、その者が死んでいるという可能性を瞬時に捨て去り、心の中に安堵の想いを募らせていく。

そしてそのまま『他者が存在した』という喜びを通り過ぎた感情は、さらに一歩奥に渦巻(うずま)く『独り言を聞かれてしまったか?』との羞恥心にまで到達(とうたつ)し、照れたような感情を想起させてきた。

だから本来であれば()び付きたくなるような状況でも情けなく尻込みしてしまうまでに至り、蚊の鳴くような声量(せいりょう)でしか問いかけを行えないといった滑稽な様まで浮かべさせられてしまうのだった。

ほんの少しでも風が吹けば(うるさ)いまでに葉を揺らすこの世界樹の真下で、見事にかき消されるほどみっともなくビビったような発声を以て。



「あのー...すみませーん...えー、なんで裸なの。」



命がけの状況。

他者がいるだけで心強く思えるほど、追い詰められた環境。

そんな悲惨な中でも、二者択一を永遠と外し続けたヒルヨルは、残念なことに全くもって頼りない『とある少女』との出会いをここで果たすのだった。



「しかも...寝てるし。」



自身よりも上の年齢、人生経験も豊富で、屈強であればあるだけ尚良し。

サバイバルの知識も生き残ろうとする活力も盛り沢山に、この場において有用な道具を持っていればもうパーフェクト。

なんて、期待を込めた彼の想いを踏みにじるような、一糸まとわぬ姿で危機感ゼロに眠りへ耽る、年端もいかない小柄で細々とした可憐な女の子と。



「はぁ、終わった...」

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