理由
うそ...だろ?
人魚と言われた瞬間から、人魚にしか見えなくなってしまった目の前のこいつは、ずっとニコニコしながら俺を見てくる。
「いや、でも人魚って...。絵本とか某ランドの人気キャラクターしか俺は見たことないぞ?そんなあっさり現れるものなのか。」
「絵本?なに言ってるの?」
とにかくこいつが本物の人魚なら
何故今出てきたのか...それが問題だ。
「おい。」
「なぁに?」
「なんで、ここにいるんだ?お前は」
そう。俺は今からここで死ぬつもりだったのに
わざわざそいつの前に来るなんてどうかしている。
人間が死ぬ様を見てみたいのか?
「え?だって。海泳いでたら、貴方が座ってていかにも今から死にますって感じでてたから、止めにきたの。」
「は?なんでお前が止めにくるんだよ。俺が死のうが勝手だろ?」
さっきの笑顔とは真逆の真剣な顔つきになった人魚。
意味のわからないことばかり並べるもんだから
つい突っ込んでしまった。
「勝手じゃないもん!!」
「?!」
「いい?!よく聞いてね?」
そういうと人魚は俺の方に体制を変えて話し始める。
「人魚や魚はどこに住んでいると思いますか?」
「え、そりゃあ海だろ?」
「正解です。そう、私たちは海の生き物なのです。じゃあもう一つ。例えば、貴方が普通に過ごしている時、空から人魚の死体が降ってきたらどう思いますか!」
あ。そーいうことか。
「そりゃ、おどろくな。」
「そう。人魚界でもそうなんです。時たま人間が降ってきたと思ったら死んでいるし、その姿は見るにも耐えないモノ。人魚界にも子供はいるのに、子供の間にも入る始末。悪影響なんです。」
俺が座っているイマココの場所はまさに自殺の名所となっている。多分飛んだ人は多いのだろう。
ここで死んだ人はきっと溺死か、岩に何回もぶつかって亡くなった人らだろう。
それが沈んで人魚界まで行っていたというわけか。
「だから、私はあなたが海で死ぬのであれば全力で止めようと、ここにいるわけです。」
ご丁寧に1から10まで話してくれた人魚は
体制と表情を緩めてまた、ニコニコし始めた。
「あなたは、話してみて悪い人じゃなかった。話していて楽しかったから死んで欲しくありません!あんな姿のあなたをみたくはない。」
「そんなの、お前のイメージだろ。俺は疲れたんだよ。もうなにも考えたくないんだ。」
「でも....。」
「悪かったな。もうここでは死のうとしないよ。他で死ぬとするわ」
誤って立ち去ろうとした時、人魚が俺の手を引っ張る。
「うぉ!?なんだよ!もういいだろ!?」
「もっと、あと少しでいいからあなたと話していたいです!」
「はぁー?」
うつむきながら聞いてくる人魚はたまに上部使いで
ちょっとかわいいとか思ってしまった。
「おねがい!1人で寂しかったの。死ぬなら最後に私とお話ししてほしいな?」
「あー!もうわかったよ!」
結局俺は負けて、人魚とその日時間が許されるまで
ずっと話していた。