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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
8章 戦場にて英雄は名を轟かす(王国歴155年)
99/135

無双

 100mほどの距離を開けた両軍がにらみ合っていた。

 そこに開戦の合図、双方の軍から銅鑼の音が響き渡った。



 アブーハの軍が一斉に矢を放つ。

 中央こそやや薄いものの、文字通り矢継ぎ早に射られる矢は天を黒く染めるかのよう。

 撃ち合いは戦の常道であるため重点的に訓練され、特に練度が高い。


 対するサーベリオン軍は静かだ。盾を構える兵士は多いものの、射かける兵がいないのがその理由だ。

 しかし、それは何もしないという訳ではなかった。


「うおおぉぉおぉっっ!!」


 イルムが叫び声をあげながら、100mの距離を一瞬でゼロにしたのだ。


 通常、全身鎧を着こんだ騎士というのは「自力で走ることが出来ない」はずだ。

 全身金属鎧は100㎏を超える総重量を誇り、歩くだけでも大変だ。イルムの着ている鎧は体格などをごまかす目的であるため普通の物よりも軽めになっているが、通常は馬に乗り馬乗槍(ランス)で突貫するものなのだ。


 だが、イルムは自分の足で戦場を駆ける。

 戦慣れしているがゆえに、常識にとらわれたアブーハ軍の兵士の手が止まる。


「槍を構えろ! 盾を持て! 矢を放て! あの男を殺せ!!」


 指揮官がのどを枯らし声を上げることで兵士は正気を取り戻し、各々の役割を思い出す。

 盾持ちの兵士は自分の全身を隠すほど大きなタワーシールドを構え、左右の仲間と連携して壁を作る。槍を持つ者たちはイルムが近づいたら突き殺してやろうと槍を持つ手に力を入れる。弓兵たちは正面ではなくイルムに矢を集中して浴びせ、ハリネズミのようにしてやろうとして。


 全て飲み込まれ、打ち砕かれた。



 イルムの持つスキルの中には、ダメージを受けた時に回復バフを与えるスキルや、攻撃力や行動速度を上げるスキルがある。

 前者はともかく、後者のステータス増強系については、生命の危機を感じることで潜在能力を引き出すスキルではないかとイルムは思っている。


 また、物理防御力を底上げする魔法やスキルも存在した。

 ≪プロテクション≫という防御力アップ魔法や≪オーラバリア≫という一定以下のダメージをカットするスキルなどだ。


 それらスキルと魔法が有効になる事で、イルムに浴びせられた矢は全くダメージを与えることなく、逆にイルムを強化していく。

 雑兵の攻撃では、イルムは傷つかない。

 英雄級とまでは言わないが、せめて騎士団の隊長なみの実力者でなければ戦闘が成立しない。いや、隊長格程度であれば、「ダメージが通るだけ」であり、基本能力の差であしらわれかねないのだが。



 接近戦を挑んだイルムはそのまま剣で盾も槍もまとめて切り伏せ、戦列を崩し始める。

 「化け物だ」「助けてくれ」と、人間相手ならともかく人知を超えた化け物相手に戦えないと、兵士たちの戦意が完全に折られていく。


 これはたった一人の最強戦力が、たった一人でも軍に対抗しうると証明された瞬間であった。

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