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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
7章 かくして英雄は生まれる(王国歴154~155年)
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幕間:アブーハ公爵側の内実

 イルム達の居るサーベリオン領では民衆が沸き貴族が頭を抱えるといった事態になっているが、攻め手であるアブーハ領では民衆が厭戦気分に陥り貴族が激しく意見を交わすといった状況になっていた。


「だから! 支配地域を広げるにしても! ミルグランデ公爵領で構わないではないか! サーベリオン公爵領は後回しにするべきだ!

 止めろとは言わないが、今、この時期に挑むべきではない!!」

「友好の使者を弑られたのだぞ! ここで引いては沽券に関わる!!」

「だから! あれはサーベリオン公爵が関わっているという明確な証拠が無いではないか! だったらまず証拠を持ってこい!!」

「だったら誰が襲ったというのだ!? ミルグランデの手の者とか言うでないぞ! それがあり得ぬ事ぐらい、分かっているだろうが!!」


 開戦理由となった使者の行方不明事件だが、これで彼らが生きていると考えている者は誰一人としていない。

 全滅したと、確信を抱いている。

 現場をしっかり調べてみると、森の街道で戦闘痕が見付かったからである。



 戦闘痕の状況と規模から犯人がサーベリオン領のイルムという男であると確信した彼らは、当然のように引き渡しを要求したのだが。


「彼は事件の2日前には確実に公都にいた。複数の証言があるし、間違いないと確信している。

 早馬を使っていた使者どの達に追いつくには、圧倒的に日数が足りない。

 そもそも、証拠もなく「能力から見て彼が犯人だろう」と言うだけで我が民を引き渡すことなど、応じる理由が無い」


 このような返答で供給をはね除けた。

 サーベリオン公爵にしてみれば、下手に相手の言うとおりにする“悪しき前例”を作りたく無いので無茶な言葉に従えないだけだ。

 イルムが惜しいという話ではなく、この申し出を受け入れることはアブーハ領の下に付くという意思表示としても取られかねないので、慎重を期した形だ。

 戦争は回避したいが、それとこれは話が別なのである。


 もしもサーベリオン公爵が「イルムの足は馬より速い」と知っていれば別の回答もあり得たのであるが。



 この時点で面子にひびの入ったアブーハ公爵側は反論できないので武力行使に出たというわけだ。

 サーベリオン公爵が体面を気にしたように、彼らも自身の体面により兵を出した、出すしか無かったのである。

 それが、実益の無い選択肢であっても選ばざるを得ないのだ。


 実益を重視する者たちは、多少の傷など誤魔化せば被害を最小限に抑えられるし、上手くやれば相手からいくらか譲歩を引き出せると考えていた。

 戦争になって損をするのはサーベリオン公爵も変わらないのだし、話し合い解決は可能だと主張する。


 体面を気にする者たちは言葉によるやりとりはもう終わりだと主張し、武力行使の正当性を前に推す。

 言葉による解決を蔑ろにしたのはサーベリオン公爵であり自分たちではないと言うのだ。確かに交渉の手を振り払ったのはサーベリオン公爵側であり、アブーハ公爵側ではないので、言っていることは間違っていない。

 数年前の戦争でミルグランデ領から切り取った土地の統治はそこそこ上手くいっているし、戦力も補充された。今なら万全の戦いが出来るというのも彼らが勢いづく理由となっている。


 全体を見ると戦争賛成が七割弱と、まとめ役(リーダー)である公爵の決断により戦争をする方に意識が傾いているが。それでもアブーハ公爵側の貴族たちは一枚岩ではなくなっていた。





 アブーハ公爵が戦争を決断しようと、多くの貴族が戦いを望んでも、それでも一部の臣下は公爵領の未来を考え意見をぶつけ合うことを止めようとしない。

 そのため兵士達はまとまりに欠ける上司達の背中を見て、士気を高められぬまま、戦場に向かうのだった。

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