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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
7章 かくして英雄は生まれる(王国歴154~155年)
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同じ表情で

 イルムはただの一個人でしかない。

 サーベリオン公爵領全体に広がった開戦論をひっくり返すような手段は無い。

 公爵は頑張っているようだが、お祝いムードに水を差すわけにもいかず苦慮しているようだ。


 ここで戦争をしなければ公爵は臆病者と民衆の評価を落とすだろう。

 ただ評判を落とすだけだと思われるかもしれないが、それは支配体制が揺らぐという事なのだ。甘く見ていい事ではない。



 勝ち目のない戦をして、負けて評判を落とすか。

 大人しくして臆病者の(そし)りを受けるか。


 公爵の判断が問われる場面だ。





「あの騎士のおっさんが行方不明? しかもサーベリオン領とアブーハ領の間で?」

「クリフ。うるさいよ」


 イルムとクリフは、昼間はわりと一緒に行動している。

 対外的にはイルムの護衛としてクリフを雇っているという形となる。


 そのクリフが、イルムの所に持ち込まれた話に驚きの声を上げたのだ。



 聞けば、アブーハ領に帰る途中でイルムたちの村を襲った、クリフに殴られた騎士が姿を消したという。

 早馬を借りつつ移動していたので、足取りを追うのは容易だった。

 サーベリオン領からアブーハ領に入ろうとしたところにある関所こそ越えたのだが、そこから直ぐ近くの村には姿を見せなかった。


 件の騎士は単独行動ではなく、最小限であったがお供を数人連れていた。

 ただ姿を消したというのは考えにくく、事件に巻き込まれた――ではなく、襲撃を受けたとアブーハ公爵は考えるだろう。



 イルムに話を持ち込んだのは、サーベリオン公爵の騎士である。

 特にイルムと接点があったわけではなく、イルムの所にクリフがいるのでこの話を持ち込んだ。


 イルムに話を持ち込んだのは、クリフに配慮していると取られないようにする小細工でしかない。

 非常にどうでもいい事であったが、外から突っ込まれるような迂闊な真似は少しでも減らしたいのだ。



 クリフは思わずイルムを見る。

 が、イルムは気にした様子もなく、声を上げたクリフに一言釘を刺してすまし顔で答える。


「そうなると、アブーハ公爵は確実にこちらを疑うでしょうね。

 クリフの件が有ったとしても無かったとしても。かつてウノ様を攫おうとした段階で、敵対する可能性が高かったとは思いますが」

「そうだな。そうだよなぁ。ウノ……様、の親父さんを殺した奴だからな」

「クリフ……しばらく黙っててくれないか」

「お。すまん」


 イルムが騎士と話をしようとすると、思わずといったふうにクリフが口を挟む。

 クリフがボロを出しては堪らないと、イルムは再もう一度クリフに黙っていろと釘を刺す。騎士が本当に話を聞かせたいのはクリフなので追い出すわけにはいかない事に、イルムは内心忌々しいと思う。


 一応、イルムとウノの関係は秘密なのだ。





 騎士は一通りイルムに話をすると去って行った。


「何と言うか、どうにもすっきりしねぇよなぁ」

「だろうね。ようやく見つけた仇がいきなり殺されたとあれば、また数年はモヤモヤしたままだろうな」

「……やっぱ、殺したのか?」

「なんで俺が殺したことになるんだよ? 普通に考えて、「行方不明」と「殺された」は同じ意味だろうが。

 皆殺しにされたって確信ぐらい持つだろ、普通」


 クリフは自重していたが、騎士の行方不明にイルムが関わっているのではないかと疑っていた。

 だが、イルムは騎士に向けていたのと同じ表情でクリフの言葉を否定した。


 騎士に向けていたのと同じ顔で、クリフの言葉を否定したのだ。

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