戦を望む声
サーベリオン領の公都では、異様な空気が漂っていた。
「ウノ様を女王に!」
「公爵様が宰相になればいいのに」
「ミラルド様がいればサーベリオン領軍は負けない!」
そこらかしこで戦を望む声が聞こえる。
英雄の登場と国内の不安が相まって、新女王の戴冠という変革を求めていた。
最近は大きな戦が続いたこともあり、民心が新しい拠り所を求めているのだ。
そもそもサーベリオン領やアブーハ領で、今の国王は影が薄すぎる。
王領を抑えているミルグランデ領のみ、多少は民衆への露出があるぐらいだ。
それなら名も知らぬ誰かではなく、身近な王族のウノに女王でいて欲しい。
英雄であるミラルドが国王になればなおいい。
その方が夢がある。
それが今の民意だった。
「だからと言って、その通りにする必要は無いはずなんだけどな。サーベリオン公爵は主戦派ではなく穏健派だから」
「でも……無視し続けるのは難しいみたいなの」
「え? ちょっとやそっとじゃ動けないだろ。復興に使う物資の問題があるし、他領と戦争する訳にはいかないだろ。
商人を中心に非戦論を流布していくだけじゃないか?」
「それが上手くいかないみたいなのよ。閣下も不思議そうにしていたわ」
イルムはウノに街の様子について話している。
ウノは公爵の手の者が調べた話を聞いているが、兄であるイルムの視点で話を聞く事にも意義がある。
一つの視点だけで物を見てはいけない。複数の視点で考えるため、複数のルートから情報を集め、それぞれに対し判断し、結論を出すことでより高い確度の判断ができる。
ウノは女王となって、政治家としての成長をしていた。
「楽観論というか、負けた時のことを考えていないように見えるんだよな。王領を抑えようものなら他の公爵が手を結んで挑んでくるだろうし、敗戦は必至。勝ち筋が無い。
まぁ、民衆にそんな高度な判断を求める方が間違ってるのかもしれないけど」
「そうね。その場の感情と勢いで喋る事が多いもの。責任が無い立場だけに、口が軽いわ」
イルムとウノは大衆の考えに頭を痛める。
公都にいるのは戦争に直接出ない人間が多いので、自分に被害が出ない所で無責任に騒いでいるのだ。
とても同意できる意見ではない。
「それよりも、子供たちは元気なの?」
「ああ、今のところは大丈夫だ。乳飲み子のうちは病気が怖いから油断できないけど、元気いっぱいさ」
重くなった空気を換えるため、ウノはイルムの子供たちの話を振る。
イルムもそれに乗り、兄妹二人はしばらく穏やかな会話を続け、困った話を頭の隅に追いやった。
二人は考える。
いざという時の事を。
戦争になった時。
勝ち戦ならともかく、負け戦になってしまえば今の生活が失われるのだ。
戦争にならないようにするのも必要だが、戦争になって負けた時のため、ひそかに準備を始めるのだった。




