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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
1章 英雄の翼が折られる時(王国歴139~142年)
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運命の日②

 父親を殺され冷静さを失いつつあるイルムだが、今の段階では正気を失うほど荒れてはいない。

 後から付いてくる仲間のことが頭にあるからだ。

 仲間の存在がイルムをギリギリ踏みとどまらせていた。





 程なくして追いついてきた仲間と合流したイルムは、村で見たモノを説明する。


「そんな……嘘だろ?」

「イルムさん、どうするんです?」

「パパ……」


 説明を聞いた仲間達は、殺された家族や知人への悲しみから涙をこぼす。

 理不尽に人を殺されてしまえば、悲しむのが普通の反応だ。


 特に、バルバスを殺された事でウノ()は意識を失いかけている。



「あいつらの目的は分からない。ただ、ミルグランデ公爵様の騎士じゃなかったのだけは確かだ。

 多分だけど、あいつらは公爵様と戦っているアブーハの騎士だと思う」


 イルムは自分の知っている知識で正解を言い当てることが出来るのだが、それを悟られないように理由を付けて皆に状況を説明する。


「アブーハの連中、公爵様には直接戦っても勝てないからって、俺たちの村を襲ったんじゃないか?

 ほら、村の税が多くなっただろ。村が消えればその分、税は減るんだし。

 あんなにたくさんの税が減れば公爵様にとっては無視できない損害を出すことになるからって、村を襲ったと思うんだよ」


 村一つ分の損害は確かに痛手であるが、公爵達の戦争においては誤差の範囲内だ。

 被害は確かに被害なのだが、騎士数名を派遣するだけの価値はない。

 敵の、本当の目的がウノであることをイルムは知っている。


 しかしこの場にいる仲間は、村の中だけの、狭い世界で生きていた。

 だからイルムの言葉を特に疑う事もせずに受け入れた。イルムのことを慕っているのだから疑おうともしていない。


 騙しているわけだが実害は無いのだからと、純粋な仲間達を前に、イルムは心に棚を作った。





「あいつらを村から追い出して村を守りたい。その為に考えがあるんだ。協力してくれ」


 状況を確認し、情報を共有したところで、イルムは話を進める。



「すぐに村に乗り込むのは駄目だ。人質がいる。

 親父(バルバス)が負けたんだ。奴ら自身も強い。俺一人じゃ手が足りない」


 まず、イルムは自分一人では勝てないと分かってもらう。


「だから相手が分断されるような状況を作らないといけない。

 幸いにも俺たちはこうやって村の外にいるし、奴らも村の皆からそれは聞き出しているはずだ。俺たちがいつまで経っても戻ってこないなら、必ず外に人を出すはずだ。そうやって数が減れば、きっと勝てるよ。

 もし村の皆に先に手を出そうとしたら……その時は覚悟を決めないといけないけど。ああやって村の皆から人質を取って言うことを聞かせているって事は、その可能性は低いと思うけど」


 次に、勝ち目が全く無いわけじゃないと伝える。

 勝ち目がないなら逃げることを勧めるしかなくなるが、イルムの考えでは、相手がいきなり外道仕事――皆殺し――をするとは考えていない。説明したとおり、人質を取ったのだからそれを有効活用したいという思いがあるだろうと推測したからだ。


 ただ。本当にそれをされた場合は、どれだけ悔しかろうが逃げないと駄目だと、「逃げる覚悟」を決めた。

 相手の勝利条件、「ウノの奪取」だけは絶対に実現させない。そんな思いがある。

 自分たちが勝てないなら、相手にも勝たせたくないのだ。


「相手は5人ぐらいの団体さんを外に出したらそこからが勝負だ。

 まずはそいつらが森にある程度踏み込むのを待ち、直ぐに増援が来ないのを確認して、潰す。出来れば装備を奪いたいな。

 もし6人以上いたら、そいつらは無視して村に行く。直ぐに戻ってこれない距離まで森の奥に行ったら、村で人質を取ってる奴から順に潰す。

 もし、外に誰も出ず村の連中を殺そうとしたら。その時は……逃げるしかない。戦うのは無駄死にだ。公爵様に泣きついて奴らを殺してもらう」


 大雑把な行動目標を立てる。

 細かい部分はここから詰めるが、全体の方向性はハッキリと、具体的に決める。


 最後の、逃げないといけないと言った時に、イルムは拳を強く握りしめる。それこそ、爪が手のひらに食い込み血が出るまで。



 仲間達の反応は芳しくない。

 村を襲った連中をどうにかしたいという思いは全員が共通しているが、「きっと勝てない」「死んでも逃げたくない」「イルムがどうにかしてよ」と、己の無力さも手伝い悪い方に意識が流れてしまう。

 イルムほどクレバーには考えられないからだ。

 これが「普通の村人」の限界でもある。それがイルムには見えてしまっていた。


 大人はイルムだけ、残りは子供という状態で。

 若干の不安を抱えつつ、イルムは作戦の細かい部分を詰めていく。

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