幕間:武闘大会直前、その裏側にて
クリフはイルムから連絡を貰い、ウノが再婚に応じたことを知った。
ただ、それは偽装結婚であり、本心では新しい夫など要らないと考えていることもちゃんと書いてあったので、ウノの想いを頭では理解した。
頭で理解することと、感情が納得を見せるかは全く違う。
クリフはウノの決断に大いに憤りを感じ、また、自身の不甲斐なさを嘆いた。
元を正せば、クリフ自身の短気が事の発端である。
それはちゃんと理解していたので、複雑な感情を抑えつけながらも、村での活動を優先した。
「簡単な怪我の治療なら俺でも出来るぞ」
村にあった不満とは、ウノ不在により戻ってしまった「昔の不便な生活」に耐えられないという感情論であった。
魔法により便利になった生活。それがずっと続くと思っていた事も理由の一つ。
クリフとウノは徴兵により一時的に軍に出向していたのだが、ウノが公爵の養子になったことで帰れなくなった。その事を何もかもが終わった後に聞いた村人はどのような感情を抱いただろうか?
与えられた希望をいきなり取り上げられれば、それは不満の一つも抱くだろう。
統治者側の不手際により食料を奪われ、生活が一時苦しかったのも不満を抱く理由となる。
これはミルグランデ公爵とかサーベリオン公爵とか、統治者の名前に興味が薄かったことが関係している。自分たちの意思で乗り換えたとはいえ、不満の向け先はいつ起きたことであろうと“今の領主”に向けられる。
サーベリオン公爵への感情は八つ当たりであるが、何らかの不満解消が出来なければ怒りが燻り、些細なことで燃え上がりかねない状態になっている。
そこでクリフは、イルムから教わった魔法を使い、「便利屋」を始めた。
多少生活が豊かになれば何とかなるのではないかと期待してのことだ。
「いや、お前に出来るのか? 嫁さんの方なら分かるけど。信用できねぇ」
「おいおい。俺だってウノと同じ事が出来るとまでは言ってねぇよ。簡単な怪我なら治せるってだけだ」
村人は、最初こそクリフにうろんな目を向けていたが、徐々に実績を積み上げていくクリフのことを認めざるを得なかった。
クリフの魔法は拙く使える回数も少なかったが、それでも有ると無いとでは大きく違う。
荒事も全く出来ないわけではないし、「便利屋クリフ」はしだいに村の外まで名が聞こえるようになるのであった。
公都では、武闘大会に優勝して貰う役を担う若者たちと他数人が集められていた。
さすがに外来の者まで巻き込んだ不正は出来ないが、「これは」と思う平民騎士を抱え込むぐらいのことは出来る。一人ではいざというときに困るので、複数の優勝候補が用意された。
他の何人かは既婚者であるが、他の有力選手を潰す為に戦うことになる。
ついでに仲間内で戦う回数を最小限にしようというトーナメント表の不正なども行い、無駄な戦力の消耗を抑える努力をする。
全ては王族のわがままを叶えつつ、公爵家の利益を最大限にする為の必要経費だ。
王族には、それだけのことをする価値がある。
「これなら優勝は我らの手の内ですな」
「ええ。この布陣を打ち破れる者はいますまい」
集まった人と裏工作。
それらを確認していた公爵の部下達は、その万全の布陣に満足していた。
「例の、あの男は参戦しないことに納得していたという話ですし。不確定要素の一つはこれで消えましたなぁ」
「ええ、魔法だけでは無いという話を聞いておりましたので、奴めが出てこないことには胸をなで下ろしましたとも」
また、イルムが武闘大会に参戦しないというのも彼らが安心している理由である。
クリフはともかく、イルムは参戦すれば優勝候補筆頭になりかねない実力者であると認識されていた。
これは以前のダーレン攻略戦で、不意を突いたとは言え騎士二人を相手に圧勝して見せたことがその理由だ。
正確な実力こそ知られていないものの、彼らの「知らない」という不安から、イルムは過大評価を受けていた。
在野に実力者が居ようと、これで勝てないなら諦めるしかない。
そう言い切れるだけの準備を彼らは行った。
武闘大会まで、あと少し。




