武闘大会は偽装結婚のために
「と、いう事は俺を生贄にする気は無かったんだな」
「兄さん、さすがに生贄は酷いよ」
「実妹と結婚なんて、罰ゲーム以外の何物でもないだろ」
念のためにウノと話し合いの場を設けたイルム。
結論から言えば、懸念は杞憂であった。
ウノはイルムを生贄にする気は無かったようである。
ただ、そうなると結婚しないことを諦めたかのように見えた。
「ちょっと違うかな? 偽装結婚に付き合ってくれる人ならだれでもいいんだし、その為の武闘大会なの」
ウノは血族に拘る貴族との結婚を避けるために武闘大会を提案したらしい。つまり、血統に縛られない平民の騎士階級を相手にすると決めたわけだ。
相手に想い人がいれば良し。いなくても他に女を囲ってもらい、出来た子供を自分の子供として育てることにするらしい。
「貴族どもの横やりは?」
「あるに決まっているでしょう」
もちろん問題は多数あるが、対外的にもこのままでいるよりマシだとウノと公爵は判断した。
聖女を欲しがっていた貴族をけん制する必要はあるが、それでもやるという事は勝算があるらしい。
数点確認することはあったが、イルムは特にかかわる必要がなさそうであった。むしろ、出ないで欲しいとまで言われる。
その後はクリフと村の事を報告し、イルムはウノのもとを去って行くのだった。
ウノとの話し合いの結果は妻たちと共有し、この件は終わりとなった。
念のためにクリフへウノ企画の武闘大会について手紙で教えることにはしたものの、他にやるべきことが無いからだ。ウノも公爵も、計画外にいるイルムに出しゃばられたくは無いだろう。
そうなると、イルムにとって一番の関心は、息子のムスカともうすぐ生まれてくるであろうネリーとの子供に向く。
「あとひと月かそこらだな」
「無事に生まれてくるといいんだけどねー」
「俺が付いている。何とかするさ」
「はい。頼りにしていますよ、旦那様」
ネリーの調子は悪くない。マタニティブルーなど、イルムでも対処できないような状態になっていたら大事であったが、そういった問題は無さそうである。
どちらかと言えば――
「おぎゃあぁぁぁ!!」
「ムスカ、どうしたの? お腹がすいたの?」
「……大きい方だな」
まだまだ生まれたばかりのムスカの方が大変である。
乳母を雇い手を借りているが、それでも夜泣きをされれば時間に関係なく起きることになり、消耗していく。
ルーナは乳母と交替でムスカとの夜を過ごしているが、一人であればどうにもならなくなっていただろう。
子育ては、赤ん坊の世話は一人で出来るものではなかった。
イルムもムスカの世話を手伝い、おしめの付け方がどんどん上手くなっていく。
こういう時、収入が少なくなっても仕事が無いというのはありがたかった。
「夏は夏で盗賊も減りますよね? 秋になったらまた遠征ですか?」
「ああ。その頃にクリフを迎えに行く予定だ」
夏になると商人の行き来が減るので、盗賊の出現率も下がる。
全くでない訳ではないが、需要はそこそこ下がるので、イルムが出張ろうという気にはならない。
村に置いてきたクリフは気になるが、すぐに結果を出せる事でもないだろうし、秋まで待つのは互いに都合が良い事だ。
慌てる話ではないのである。
「まぁ、クリフは武闘大会に出ても勝てないからな。出れなくても問題ないだろう」
武闘大会は収穫の終わる秋ごろに行われる予定である。
イルムたちは武闘大会をその程度に考えていた。




