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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
7章 かくして英雄は生まれる(王国歴154~155年)
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クリフの思い出話

 盗賊が潜んでいる場所というのは、大体が領地の境目である。



 普通、貴族の領地というのは中心となる街や村があり、その周辺に森が広がっている。

 領地の境目というのは森の中、という訳だ。


 森の中であれば人目につかないし、普段は採取で飢えを凌げる。

 どちらかの貴族の領地で仕事(・・)をした後はもう片方の貴族の領地に逃げ込むという事もよくやっている。盗賊討伐に乗り出した貴族の兵士は逃げ込んだ先の領地に無断で侵入できないため、そうすると安全に逃げ切ることが出来るのだ。

 中には勝手に他の貴族領に入って盗賊狩りをする猛者もいるが、下手をすると戦争案件であるため、いい顔はされない。


 傭兵が盗賊退治を受け持つのはその抜け穴を塞ぐためだ。

 貴族の兵士であれば問題だが、根無し草の傭兵が領地をまたいで盗賊退治をするのはお咎め無しとなる訳だ。

 武装集団に違いはないが命令系統や所属が違えば良いというのが建前で、本音は領地間のいざこざを避ける貴族の知恵という奴であった。





「じゃあ、俺たちは隠れていればいいんですね」

「はい。我々も盗賊奴隷は欲しいですから。可能な限り、生け捕りでお願いしますよ」

「もちろんです。お任せください」


 盗賊が出るだろうと言われている所を通る商人たち。

 彼らは独自の伝手で護衛を用意するが、商売で得られる利益を圧迫するほどの護衛は用意できない。

 通常は襲われないようにするため大規模商隊(キャラバン)を作るのだが、街と街を結ぶ街道沿いならともかく、末端の村々にまで行くのにそんなものは作っていられない。


 命のリスクを背負ってでもコストを安く抑えたいという欲求は世界共通である。

 しかし命を危ぶむのも人間なわけで、ほとんどの場合は自分の命が優先される。

 だから普通の商人は村には行かない。


 そういう事情があるから、小さな村まで行く商人はおらず、村に住む彼ら自身が大きめの街まで出向いて買い物をする。

 そしてそんな村人が盗賊に襲われて傭兵に依頼を出したりもするのだが……村まで襲われとんでもないことになる件もあった。

 そのあたりの事情は状況により様々である。



 村まで商品を届けた方が商人にとって商機があるのは、利益があるのは自明の理である。

 村まで護衛を雇えば赤字になるし、それをしないなら薄利となる。護衛を雇わねば命と財産を奪われる可能性が高い。

 だったら、どうすればいいのか?


 そこで商人たちが思いついた方法はこうだ。


 末端の村に行く商人は護衛を雇うのではなく、奴隷商人も兼ねて盗賊捕縛を行うようになった。

 盗賊が出なければ赤字になってしまうが、春ならそこそこ分の良い賭けである。盗賊の湧く季節なので意外と何とかなる。


 歩合制にすることで支出を減らしつつ行えばリスクは少ない。

 全体を見れば黒字になる程度に、このやり方は一部の商人の間に広まっていた。

 そしてそんな事を知らない愚かな盗賊は商人の罠に見事に引っ掛かり、奴隷にされるのであった。





「そういえば、クリフってダーレンに知り合いでもいたのか? ダーレンから来たんだろう?」

「いや、ダーレンにいた期間は割と短かったからなぁ。軍の人とは何人か顔見知りって言えるぐらい良くしてもらったけど、現地の人とは、あんまり」


 ダーレンから辺境の小村に向かう街道。

 護衛が全くいないというのも不自然なので、男三人中一人は外に出て、残る二人が馬車の荷台に隠れていた。

 馬車にサスペンションは無く道の状態が悪いため、隠れているイルムとクリフは声を抑えてお喋りをしていた。酔い止め目的である。


「どっちかと言うと、その前にいた村の人たちの方が気がかりかね」

「ああ、最近サーベリオン公爵に臣従することを選んだ村か。この間、ミルグランデ公爵側から謝罪と援助物資が届いたって言うけど。今更だよな」

「ああ。今更だよな」


 今はクリフのいた村が近いという事で、その時の思い出話を聞かされていた。

 長らく放浪していたことと、たどり着いた村で良くしてもらったこと。

 クリフの思い出話は苦労話というより、何かを懐かしむようなものばかりだ。



「帰りたい、とか?」

「帰れればいいけどなぁ。ウノがいないからなぁ」


 クリフの語る思い出には常にウノの姿があったため、途中でクリフが盛大に落ち込んだ。

 イルムはクリフの宥めるのに非常に苦労し、道中に出た盗賊をどうにかするのよりも、ずっと大変だったとのちに述懐することになるのだった。

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