プロローグ:傭兵団、復帰
春。
それは命の芽吹きの時期であると同時に、一つの厄介事が発生する季節でもある。
春の厄介事、それは盗賊の発生だ。
冬の間の備蓄が尽きたとかそういった話ではなく、単純に、行商人の活動が活発になるのに合わせて盗賊も動き出すからだ。
行商人は冬の間はほぼ動かないので、春先にはほとんどの村が生活必需品などの物資不足に陥り、購買意欲が大きく高まる。
そこを狙って商売をする行商人が多いという事は、盗賊仕事の成功率が高いという事でもある。
治安維持の騎士や兵士の巡回を掻い潜って犯罪行為に走る者が意外と多いのだ。
そんな時期に需要が高まるのが傭兵という職業だ。
イルムはしばらく魔法の講師をしなくていいと言われていたので、嫁のルーナにクリフとジャンと一緒に盗賊退治の仕事を引き受けていた。
仕事が無ければ収入が減るのは当たり前なので、本業に返り咲いたという訳だ。
ネリーはいないのは出産前なので当たり前だ。
この頃には『フレア・ロスト事件』として語られる公都の惨事のおかげで魔法使いに対する視線が厳しくなり、出来たばかりの魔法ギルドの立場は非常に危ういものとなった。
あの事件が未登録の魔法使いによるものであるという結論はすでに出ており、魔法使いに対する監視の目が厳しくなったという事だ。
イルムの場合はお目付け役のジャンが付いて回り、簡単に知識を広めないようにと言う制限が設けられている。
イルム自身は特に注意・注目されているので、ジャン以外にも監視要員が付いている。イルムはもちろん気が付いているが、彼らについては気が付いてない振りをして触れないようにしてる。
魔法を広めなければいけないという使命感を特に持ち合わせていないイルムは素直に指示に従う気でいるのだが、今の環境で言葉と態度、行動で示そうと信用されることは無い。だから対外的なパフォーマンスとして割り切っている。
「クリフ、遅いです」
「貴方はこの中で唯一戦えないのですから、荷物持ちぐらいは頑張ってください」
「ルーナ、ジャン。いやお前ら、厳しくないか?」
「金属鎧のジャンも文句を言わずに歩いているのです。革鎧すら着ていないクリフが先に根を上げるとはだらしないのです」
「私だって多少は荷物を持っています。荷物全部を持たせてはいませんよ? せめて、それぐらいはしていただかないと」
この4人の中で一番体力が無いのはクリフである。
イルムとジャンは近接戦闘をする戦闘職であり、体力はあって当然。野外で走り回り金属武器を振り回すのだから相応に体を鍛えている。
ルーナは魔法職であるが、イルムと旅をしていた経験があるし、男性陣の配慮により荷物は一番少なくしている。負担の分だけ余裕がある。
しかしクリフは大柄な男とはいえ、解体屋でしかなく、腕力はあるが歩きの持久力という意味ではあまり鍛えられていない。重い物を運ぶことが多かったとはいえ、歩き通しではすぐに疲れてしまう。
つまり、旅に慣れていない。
よって荷物の多いクリフは他の3人よりもすぐに疲れてしまうのだ。
「多少は俺が持つよ」
「おお! さすが親友!」
旅に慣れていないという事を考慮し、イルムが補助を申し出る。
クリフは満面の笑みを浮かべ「助かった」という顔をするが、そう上手く話が進むものではない。
「駄目です。これはクリフの荷物持ちの練習です」
「甘やかすのは良くありませんよ」
「お前ら鬼か!!」
ネリーとジャンに駄目出しをされ、クリフは結局、疲れた体に鞭を討ち旅を続けることになる。
そうやって4人は盗賊被害が多いと予測されたダーレンを目指すのであった。




