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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
6章 守るべき人(王国歴153年)
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幕間:助かった男が齎した、とある騎士の最期

 クリフの件が不問とはいかずとも、減刑された結果。

 それは僅かながらも波紋を広げる。



 アブーハ公爵の騎士エルドラは、公爵からの信任篤い男である。

 10年以上前に大きな失敗をしたものの、剣と魔法の腕はアブーハ公爵領の中でも上から数えた方が早く、任務に対し実直かつ慎重な性格を高く評価されている。

 40を少し過ぎた年齢を見れば今が脂の乗った最盛期であり、その働きには大きな期待が寄せられている。


 そんな信頼篤い騎士であろうと、ウノという王族の登場による状況の変化に、勝手な行動をとれはしない。

 ミルグランデ公爵側の使者と色々とやり合う事は構わないが、コトが“11年前の任務”に関わるとなれば話が全く違うのだ。当時はミルグランデ公爵との戦いだけを考えればよかったが、お飾りでもウノがサーベリオン公爵側の代表となるとそちらにも戦争を仕掛けたことになりかねない。


 クリフの存在が、その事をより強く印象付けた。

 普通であれば他所の使者であるエルドラを殴った平民など処刑が妥当なのだが、減刑をされたという事はサーベリオン公爵がアブーハ公爵との関係を軽視しているとも考えられ、状況がかなり拙い事になったのではないかと思わせたのだ。


 エルドラは急ぎ領地に戻り、公爵の判断を仰ぐ必要があった。





 エルドラはいくつか大きな町を経由し、そこまで馬を使い潰すように走らせ、距離を稼いでいた。


 馬を使おうが一日の移動距離というのはそこまで伸びない。

 たとえ馬を使い潰すつもりでも数10㎞もの長距離を全力疾走など出来るはずもなく、並足ではなく速足程度で歩を進めたとしても1日に40㎞が限界だ。これでも通常の2倍以上の移動距離である。

 この速度であれば、アブーハ公爵の元に戻るまで7日といったところである。


 荷物の重さで足が鈍るし、食事もとらず何日も移動するなど正気の沙汰ではない。

 自身の体調を崩さないように注意しつつ、その中で出せる全速力でエルドラは国に戻っていった。



 そのエルドラは、サーベリオン領を少し抜けた森の街道で違和感を感じた。

 彼は馬の足を止め、周囲の気配を探る。


「エルドラ様、如何なさいましたか?」

「妙な気配がするのだ。どこか、戦前のような空気が――」


 移動速度向上のため数を削り少なくなったお供の一人が、急に馬を止めたエルドラの元に駆け寄る。

 エルドラは言いようのない不安をどうにか形にしようとするが、その感覚は本人さえもよく分かっていない。

 強いて言うなら、「不吉な予感がする」というだけだ。急ぎ戻らねばならない状況で、足を止める理由としては弱い。その事がエルドラの口を重くする。


 不安は感染し、エルドラのお供達も周囲の気配を探り、何か見落としが無いかと首を左右に動かしあたりに視線を向ける。



「『雪よ舞え、深々と。氷よ、深く、深く重なり合って、奈落の底で幾重にも凍れ。()()に至り終わりを迎えよ。』≪連続起動≫≪エクス・アイス≫」


 そんな彼らの耳に、朗々と歌う声が聞こえ――その命の炎を消し去られた。

 全身を氷で覆われ、周囲が凍るときの圧力で圧死したのだ。


 お供はそれで全滅し、エルドラも体の半分以上を凍らされた。

 なんとか魔法に抵抗をしたものの、即死しなかったというだけだ。一回の魔法で生命力の大半を奪われ、その場に崩れ落ちた。


「な、に」


 何者だ、とエルドラは言おうとしたが、体温が急激に下がったことで口が動かなくなっている。

 薄れそうになる意志気を必死につなぎとめ、エルドラは動かない首を諦め眼球だけを動かして周囲を探る。



「おや? 生きていたのか。ダメージが足りなかったみたいだな」


 そこに、誰かの声がした。

 エルドラの後ろから声がしたため、彼にその姿は確認できない。

 出来るのは、知っている声かどうかを考えることぐらいだ。


 最終的には知り合いではないとエルドラは結論付けるが、それは襲撃者について何の手掛かりも無いという事だ。エルドラの胸に絶望が広がる。


「ま、放っておいても死ぬと思うけど」


 襲撃者はエルドラの様子を離れた所から確認すると、今度は≪ファイア≫の魔法を使う。

 凍った体が炎で溶けて元通り、とはいくはずもない。たしかに炎はエルドラの凍った体を溶かしはしたものの、当たった場所が頭部であったため、そのままエルドラの命を焼き尽くした。



 襲撃者はエルドラに冥途の土産を渡すこともなく殺したことに満足すると、周囲の死体とまとめて痕跡をごまかしていく。

 一通りの後始末が終わると、それで襲撃者は満足したのか、すぐにその場から去って行った。





 もしもクリフがそのまま処刑されていた場合、ウノが王族であると名乗り出たとしても、過去の一件は終わったことと扱われていたかもしれない。

 ただ、クリフの減刑がわずかな焦りを産み、エルドラの気を急かせてしまった。


 そうでなければ彼は普通に大人数で戻り、襲撃を受けなかったかもしれない。


 ただ、仮定の話に意味は無い。

 現実は、エルドラが領内に戻ってすぐに襲撃を受けて殺されたという事実のみ。

 それが全てだった。

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