エピローグ:聖女の夫
イルムは無罪放免とはいかなかったが、減刑により死罪を免れたクリフを回収した。
この事で公爵が不思議そうにしていたが、公爵へ「聖女様と縁を持ちたいからだ」と説明すれば、納得される。
これでウノの方からイルムを呼び出したとしても不自然ではなくなり、兄妹が会う対外的な理由が出来た。
「それにしても。いくら何でもいきなり殴りかかるのは馬鹿だろう」
「いや、つい頭に血が上って……。
そうだ、お前だって親父さんを殺されたんだろ? ぶち殺してやりたいとか考えなかったのかよ」
「その時はバレないようにやる。自分と家族の安全は最優先で確保するべきだろ」
「そうだよな。お前はそういう奴だった」
イルム自身、気兼ねなく話の出来る友人が近くにいるというのは嬉しい。
同郷の妻二人ともよく喋るのだが、男友達というのはそれとは別である。妹の元旦那であり、精神的には今も夫であるため、イルムが身内意識を持てる貴重な人材だ。
ルーナとネリーはやや面白くないといった顔をしているが、イルムも同性の友人が近くに欲しい。何とか説得して認めてもらうのだった。
なお、イルムたちとクリフは別居である。
イルムもクリフと妻が浮気するなどと考えていないが、友人に夫婦の時間を邪魔させるほど気が利かない人間ではなかったのである。
クリフはウノと別れることになってしまった。
それはつまり、ウノが独身になってしまったという事だ。
初婚ではなくなってしまったが、それでも王族の伴侶というのは人気が高い。ウノの元には結婚の申し込みが殺到する。
「で、どうやって逃げ続ける?」
「いつまでも未婚じゃ、ダメなのかなぁ? 私、クリフ以外を夫として見られないのに」
「さすがに、王族の婚活事情なんて俺も詳しくないぞ。公爵様に泣きついても駄目なら、俺では何も言えん」
「うん、分かってるよ。兄さん」
ウノはその対応に苦慮しているが、どうにも状況はよろしくない。
能力的には頼みの綱の公爵閣下は逆に縁談を持ち込む側であり、この場合は敵でしかない。頼れる相手ではない。
こうなるとウノが頼れるのは兄であるイルムだけなのだが、そのイルムも「手に負えない」と最初から両手を挙げて降参している。
降参している、のだが……。
「おい、ウノ。お前、まさか、とんでもない事を考えていないだろうな?」
「え? 何かな、兄さん」
ウノは何を思いついたのか、兄を見て微笑んでいる。
そしてイルムは思い至る。
ウノの苦境をどうにかする、あまり考えたくない手段を。
口にしたら後戻りできなくなりそうなので、その手段を心の中に押し込めるイルム。
きっと公爵はそんな手段を認めないだろうと自分を励まし、なんでもないフリをする。
ウノはその日、公爵に一案を申し出るのだった。
「年代の近い中に限りますが、領内最強となら結婚しましょう」と。




