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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
6章 守るべき人(王国歴153年)
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見捨てる覚悟と悪あがき

 クリフを再び切り捨てる。

 そう言ったイルムの顔は苦悩で満ちている。


 本心を言えば、助けたい。

 だが、今のイルムがクリフを助ける訳にはいかないのだ。



「俺一人なら、助けに行けた。

 けど、ルーナとネリーがいるんだ。ムスカも生まれた。ネリーとの子供も、今、お腹にいる。

 ここでの生活を捨てるだけならやってもいいと思うよ。二人を説得してでもそうするだろうな。

 でも」


 兄の言葉に愕然とするウノに、イルムは言葉を続ける。


「でもな、生まれたばかりのムスカはまだ、旅に耐えられない。

 ネリーのお腹にいる子供も、まだ安定していないんだ。旅に出たら流産してしまうかもしれない。

 すまない、ウノ。

 俺はな、クリフよりも自分の子供がかわいい」


 イルムの目から、涙がこぼれる。


 これがもし、ウノがクリフと似た立場に追い込まれていたら、自分(イルム)はどう動いただろうか?

 自分は助けに行けるだろうか?


 イルムはそのように考え、出来ないと悟ってしまった。


 自分の子供がかわいい。

 それこそ、自分よりも。


 たとえ自分がどうなってでも、子供を守りたいとそう願ってしまうのだ。父親として。



 イルムは自分の父親、バルバスの事を思い出す。


 父は、血の繋がらない娘を守るために死んだ。

 もしもバルバスがウノを売り払うかのようにアブーハの騎士に引き渡していれば、村は焼かれず父も殺されなかっただろう。

 血が繋がっていないのだから、義理の娘など捨ててもよかったはずだ。元主君の暴虐によって生まれた娘など、自身の命をかけて戦うほどではなかったはずだ。


 だけど、バルバスはウノを守ろうとして戦い、死んだ。

 それが父親の役目だと言わんばかりに。

 一緒にいた時間が、育ててきた想いが、家族の絆を作ったのだ。



 イルムは父親になったばかりであったが、ムスカのために戦う覚悟がある。

 ムスカの為に、友人を見捨てる決意をしてしまった。


 だから、戦わないと決めた人間なりに、イルムは妹に一つだけアドバイスをする。


「いいかい、ウノ。

 もしも、これまでの生活を捨ててでもクリフを助けたいなら、一つだけ方法がある」


 クリフと一緒にいられなくなるかもしれないが、命を助けることはできるだろうと前置きをして。


「ウノの、本当の父親に関する話だ。

 ウノのお父さんはな、実は、王族だったんだよ――」


 とびっきりの大きな火種が、サーベリオン公爵領に投下された。

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