見捨てる覚悟と悪あがき
クリフを再び切り捨てる。
そう言ったイルムの顔は苦悩で満ちている。
本心を言えば、助けたい。
だが、今のイルムがクリフを助ける訳にはいかないのだ。
「俺一人なら、助けに行けた。
けど、ルーナとネリーがいるんだ。ムスカも生まれた。ネリーとの子供も、今、お腹にいる。
ここでの生活を捨てるだけならやってもいいと思うよ。二人を説得してでもそうするだろうな。
でも」
兄の言葉に愕然とするウノに、イルムは言葉を続ける。
「でもな、生まれたばかりのムスカはまだ、旅に耐えられない。
ネリーのお腹にいる子供も、まだ安定していないんだ。旅に出たら流産してしまうかもしれない。
すまない、ウノ。
俺はな、クリフよりも自分の子供がかわいい」
イルムの目から、涙がこぼれる。
これがもし、ウノがクリフと似た立場に追い込まれていたら、自分はどう動いただろうか?
自分は助けに行けるだろうか?
イルムはそのように考え、出来ないと悟ってしまった。
自分の子供がかわいい。
それこそ、自分よりも。
たとえ自分がどうなってでも、子供を守りたいとそう願ってしまうのだ。父親として。
イルムは自分の父親、バルバスの事を思い出す。
父は、血の繋がらない娘を守るために死んだ。
もしもバルバスがウノを売り払うかのようにアブーハの騎士に引き渡していれば、村は焼かれず父も殺されなかっただろう。
血が繋がっていないのだから、義理の娘など捨ててもよかったはずだ。元主君の暴虐によって生まれた娘など、自身の命をかけて戦うほどではなかったはずだ。
だけど、バルバスはウノを守ろうとして戦い、死んだ。
それが父親の役目だと言わんばかりに。
一緒にいた時間が、育ててきた想いが、家族の絆を作ったのだ。
イルムは父親になったばかりであったが、ムスカのために戦う覚悟がある。
ムスカの為に、友人を見捨てる決意をしてしまった。
だから、戦わないと決めた人間なりに、イルムは妹に一つだけアドバイスをする。
「いいかい、ウノ。
もしも、これまでの生活を捨ててでもクリフを助けたいなら、一つだけ方法がある」
クリフと一緒にいられなくなるかもしれないが、命を助けることはできるだろうと前置きをして。
「ウノの、本当の父親に関する話だ。
ウノのお父さんはな、実は、王族だったんだよ――」
とびっきりの大きな火種が、サーベリオン公爵領に投下された。




